第6話 聖女の祈りが届かない
祈りの時間は、好きだった。
静かな聖堂。
差し込む光。
人々の期待が、あたたかく背中を押してくれる。
――少なくとも、少し前までは。
「……聖女リリアナ様?」
神官の声に、私は顔を上げた。
「もう一度、お願いします。
今の祈り、少し弱かったようで……」
「え……?」
胸の奥が、ひやりとする。
私は、いつも通り祈った。
言葉も、姿勢も、何一つ変えていない。
それなのに。
再び祈る。
掌に、光が宿る。
けれど――
広がらない。
以前なら、自然に満ちていたはずの温かさが、
途中で途切れるような感覚。
「……今日は、このくらいで」
神官はそう言ったが、
視線は隠しきれていなかった。
不安。
私は聖堂を出て、回廊を歩く。
(疲れているだけ……よね)
そう思おうとする。
でも、胸の奥で、別の声が囁いた。
――本当に?
ふと、あの断罪の日を思い出す。
大広間。
跪いたまま、何も言わなかったエレノア。
彼女は、私を睨みもしなかった。
責めもしなかった。
ただ――
遠くを見るような目をしていた。
(……どうして、今)
あの日から、王城は少しずつ変わった。
雑事が滞る。
小さな不満が、表に出る。
誰も私を責めない。
むしろ、優しい。
だからこそ、怖かった。
夜。
私は一人で祈る。
誰にも見られない場所で。
「……お願いします」
声が、震える。
奇跡は起きなかった。
聖女として選ばれたはずの私。
でも、その力は――
永遠ではないのかもしれない。
初めて、はっきりと思った。
(あの人がいなくなってから……)
考えたくない名前が、胸をよぎる。
私は首を振った。
これは偶然。
ただの不調。
そうでなければ困る。
祈りが届かない夜は、
ひどく、長かった。




