第4話 王都に残されたもの
エレノアを追放した翌日、王城は妙に落ち着かなかった。
断罪は成功だったはずだ。
聖女は守られ、王太子の判断は称賛される――
その筋書きに、疑いはなかった。
それなのに。
「……報告は、以上です」
補佐官の声に、王太子は頷いた。
だが、机の上に置かれた書類から、どうしても目を逸らせない。
いつもなら、
エレノアが先回りして整えていた内容だった。
「次は?」
「……それが」
補佐官は言葉を選ぶ。
「いくつか、手続きが滞っています。
担当が……彼女でしたので」
王太子は、わずかに眉をひそめた。
いなくなって、初めて気づく。
彼女が、どれほど多くの雑事を“問題に見えない形”で処理していたか。
「聖女殿に頼めばいいだろう」
そう言いながら、声に確信はなかった。
聖女リリアナは、祈ることはできる。
だが、調整や交渉は――違う。
その日の午後。
小さな不満が、いくつも上がり始めた。
「対応が遅い」
「話が通じない」
「前は、こんなことはなかった」
誰も、エレノアの名は出さない。
出せない。
彼女は“悪役令嬢”で、
すでに切り捨てた存在だから。
夜。
王太子は、一人で広間を歩いていた。
あの場で、彼女は何も言わなかった。
泣きも、抗議もしなかった。
(……おかしい)
本当に罪を犯した人間が、
あんな沈黙を選ぶだろうか。
問いは浮かび、すぐに打ち消される。
今さら、振り返る必要はない。
彼女は、もう王都にはいない。
けれど――
空いた席は、埋まらなかった。
王都は、今日も平然と動いている。
それでも、どこか噛み合わない。
婚約破棄の、その後の話を、
王都に残った者たちは――
まだ、知らない。




