エピローグ 奇跡のない世界で
それから数年が経った。
王都から「聖女」という言葉は、
ゆっくりと消えていった。
祈りの列はなくなり、
代わりに並ぶのは、薬師の店と治療院。
誰もそれを、不幸だとは言わなかった。
治療には金がかかる。
失敗もある。
時間も必要だ。
――けれど。
「理由が分かる」という安心は、
奇跡よりも、確かなものだった。
城は、もう治癒を主導しない。
名目上は支援者。
実際には、
世界の流れに従う側になった。
聖女は、静養のまま表に出なかった。
名前が出ることも、
祈りが向けられることもない。
「元気にしているらしい」
それだけが、
人づてに聞こえる唯一の情報だった。
――人は、役目を失うと、
ただの人に戻る。
それだけの話だ。
⸻
私は、
王都から少し離れた街で、
変わらない日常を送っている。
商人と話し、
薬師と契約を結び、
治療院の拡張計画に目を通す。
誰も、
私を「悪役令嬢」とは呼ばない。
ただの、
必要なことを準備していた人間だ。
あの日、
奇跡が止まった。
でも。
世界は、止まらなかった。
むしろ――
ちゃんと、前に進いた。
私は、窓の外を見る。
人が歩き、
笑い、
悩みながら、生きている。
奇跡がなくても、
世界は回る。
それを証明しただけ。
(……悪役で、結構)
選ばれなかった者が、
世界を救うこともある。
それを知っているのは、
たぶん、私だけでいい。
完
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
この物語は、
「奇跡がなくなったら世界はどうなるのか」
そして
「奇跡に選ばれなかった人間は、本当に敗者なのか」
そんな問いから始まりました。
聖女も、城も、悪役令嬢も、
誰かが極端に悪いわけではありません。
ただ、“楽な選択”を続けた結果と、
“備える選択”をした結果が分かれただけです。
奇跡は美しく、分かりやすい。
けれど、それに頼りきる世界は、とても脆い。
だからこそ、
名前も称号も残らない選択をした彼女が、
最後に立っていた――
そんな結末になりました。
ざまぁ要素を含む物語ですが、
誰かを踏み潰す話ではなく、
「奪われなかったもの」を描けていたなら嬉しいです。
感想や評価、とても励みになります。
本当にありがとうございました。
また別の物語で、お会いできたら幸いです。




