第33話 選ばれなかった者たち
王都の噂は、もう“噂”ではなかった。
「聖女は、奇跡を失ったらしい」
「城が隠してる」
「代わりは、もう用意されてるんだって」
私は、王都から少し離れた応接室で、
その声を静かに聞いていた。
「……城からの使者が到着しました」
「通して」
扉の向こうから現れたのは、
かつて私を追放した顔。
「――お久しぶりですな」
「ええ。ご用件は?」
形式ばった挨拶のあと、
本題はすぐに出た。
「薬師組合、商人ギルド、民間治療院……
あなたが関与していると」
「事実です」
否定しなかった。
「城は、協力を望んでいます」
その言葉に、
思わず笑いそうになった。
「随分、都合がいいですね」
「……民のためです」
「奇跡がある前提で、何も備えなかったのに?」
相手が、言葉を詰まらせる。
私は、淡々と続けた。
「城は、聖女に責任を押しつけました」
「……それは」
「記録を“そう残した”でしょう」
沈黙は、肯定だった。
「では、提案します」
私は、一枚の書面を差し出す。
「城は、治癒事業から手を引く。
今後は、民間主導。
城は“支援者”に回る」
「なっ……!」
「奇跡がない世界で、
城が主導権を持つ理由はありません」
声は、静か。
でも、逃げ場はない。
「拒否すれば?」
「市場が、城を無視するだけです」
私は、穏やかに告げた。
「もう、始まっていますから」
使者の顔が、青ざめた。
「……聖女様は」
「“象徴”として残すことはできます」
一拍置いて、続ける。
「ただし、実務には関与しない」
それは、事実上の――
引退。
「彼女を、守りたいなら」
言葉を、選ばなかった。
「これ以上、前に出さないことです」
使者は、何も言えなかった。
⸻
その夜。
城は、条件を受け入れた。
公には、
“時代の変化に対応する改革”。
裏では、
主導権の完全喪失。
聖女は、
静養という名目で、表舞台から消えた。
民は、驚かなかった。
「そっか。じゃあ、薬屋行こ」
それだけだった。
私は、報告を聞いて、窓を開ける。
夜風が、心地いい。
(ざまぁ、ってほど派手じゃないけど)
十分だ。
奇跡に縋った者たちは、
何も奪われなかった。
――元から、何も持っていなかっただけ。
私は、二度と城を振り返らなかった。




