第3話 選ばれなかった仕事
翌朝、私は昨日と同じ通りに立っていた。
声をかけてきた商人の店は、すでに動き出している。
私は言われるまま、少し離れた場所に立った。
手を出さず、口も挟まず、ただ見る。
荷が届く時間。
足を止める人の数。
声をかけられて、立ち去るまでの間。
(……昨日と、似ている)
完全に同じではない。
けれど、流れの“癖”は変わっていなかった。
しばらくして、商人が私を呼んだ。
「これ、どう思う?」
示された品を前に、私は一拍置く。
「昨日見た限りでは、
昼前に人の流れが変わっていました。
もし今日も同じなら――
今は出さない方がいいと思います」
言い切らない。
判断は、彼に委ねる。
商人は黙って品を見つめ、やがて頷いた。
荷は、奥へと下げられた。
それだけだ。
感謝も、報酬もない。
でも私は、引き下がらなかった。
昼過ぎ。
通りの向かいで、別の店が騒がしくなった。
「売れない……」
焦りの混じった声。
私は一瞬だけ迷い、それから歩み寄った。
「差し出がましでしたら、失礼します」
男は怪訝そうに私を見る。
「急いで売ろうとすると、
かえって警戒されることがあります」
「嬢ちゃんに何がわかる」
「昨日と今日を見ただけです。
だから――
間違っているかもしれません」
正直に言う。
沈黙のあと、男は短く息を吐いた。
「……少し、任せてみるか」
私は品の置き方を変え、声を落とした。
派手な呼び込みはしない。
それだけで、人の足が止まった。
夕方。
男は水を差し出した。
「助かった」
短い言葉だった。
通りの端で、最初の商人がこちらを見ていた。
声はかけてこない。
でも、その視線には――
昨日とは違う色があった。
私は分かった。
ここでは、
選ばれなかった仕事も、無駄ではない。
誰かに命じられず、
誰かに媚びず、
それでも役に立つ。
婚約破棄の、その後の話は、
まだ、静かに続いている。




