表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】婚約破棄、その後の話を誰も知らない  作者: あめとおと


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/37

第18話 遅れて届く報告(王太子視点)

王太子の執務室は、今日も静かだった。


机の上には、未処理の書類が積まれている。

どれも重要だ。どれも緊急ではない――少なくとも、そう分類されている。


「次の報告を」


呼びかけると、侍従が一歩進み出た。


「はい。まず、西門方面の流通についてです」


王太子は眉をひそめた。


「先日も聞いたな。まだ解決していないのか」


「いえ、“解決した”と報告は上がっております」


その言い方に、わずかな違和感を覚える。


「……内容は?」


「穀物の入荷遅延は、すでに解消されたとのことです。

 東回りに切り替え、納期に遅れは出ていない、と」


王太子は、書類に視線を落とした。


「費用は」


「増額しております。ただし――」


「ただし?」


「誰が切り替えを判断したのか、記録がありません」


沈黙が落ちた。


「記録が、ない?」


「はい。担当部署の報告には、“商会側の自主判断”とだけ」


……妙だ。


王城相手の取引で、商会が独断で動く?

しかも、費用増を呑んでまで?


「その商会の名は」


侍従は一瞬、言葉に詰まった。


「……それが」


「言え」


「正式な契約名義は、まだ提出されておりません」


王太子は、ゆっくりと背もたれにもたれた。


「続けろ」


「次に、西区の布問屋についてですが――」


「ああ、帳簿不備で切ったところだな」


「はい。ただ、その代替業者が、すでに納品を開始しています」


「早いな」


「ええ。あまりにも」


王太子は、指先で机を軽く叩いた。


「その業者は、どこだ」


「……それが」


またか。


「名義が、はっきりしません」


「はっきりしない?」


「商会としての登録はあるのですが、規模が小さく、

 これまで王城との取引実績が確認できないのです」


「そんなところに、任せた覚えはない」


「私どもも、そう認識しております」


報告は、すべて“問題ない形”でまとめられている。

だが、その中身は、どこかおかしい。


遅れているのは、物流ではない。

認識だ。


「……他には」


「細かいものですが」


侍従は、資料をめくった。


「市場での価格が、区域ごとに微妙にずれ始めています。

 急騰ではありませんが、調整が利いている、という印象です」


王太子は、ふと顔を上げた。


「調整?」


「はい。誰かが――全体を見て、動かしているような」


その言葉が、胸の奥に引っかかった。


(誰が?)


聖女ではない。

王城でもない。


なら――


「……例の、追放された令嬢の件は?」


侍従の表情が、わずかに強張る。


「消息は、つかめておりません」


「そうか」


王太子は、窓の外を見た。

王都は今日も平穏だ。


だが。


見えないところで、

名もない誰かが、

王城より早く動いている。


「――報告は以上です」


「ご苦労」


侍従が下がったあと、王太子は一人呟いた。


「遅れているのは……我々か」


答えは、どこにもない。

帳簿にも、報告書にも。


ただ、確実に言えることが一つだけあった。


王城はもう、

すべてを把握できてはいない。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ