第12話 戻らないという報告
報告は、短かった。
「接触はしました。
ですが、商人側は――拒否しました」
補佐官の声は淡々としている。
それがかえって、内容の重さを強めていた。
「拒否、とは」
王太子は、確認するように言った。
「本人の意思を理由に、
これ以上の干渉を望まない、と」
一瞬、理解が遅れた。
「……本人?」
「はい」
補佐官は視線を落とす。
「女性本人が、
王都へ戻る意思を示していない、と」
王太子は、言葉を失った。
戻らない。
拒んだのは、商人ではない。
(彼女が……?)
そんなはずはない、と思った。
追放されたのだ。
頼れるものなど、ないはずだった。
「困っている様子は?」
「ありませんでした」
即答だった。
「仕事も、生活も、
すでに整っているようです」
胸の奥に、
小さな音がした。
崩れる音だ。
「……聖女の件は」
「祈りは、安定していません」
王太子は、椅子に深く腰を下ろした。
一つなら、偶然。
二つ重なれば、不運。
三つ目は――
認めたくない、何か。
「引き続き、調査を」
そう言いかけて、止めた。
違う。
それは、正しくない。
これ以上探る理由が、
もう、ない。
彼女は罪を犯したわけではない。
戻る義務も、従う理由もない。
――ただ、
自分が“切った”と思っていた存在が、
すでにこちらを必要としていなかっただけ。
「……下がれ」
補佐官が退出する。
一人になった部屋で、
王太子は机に手を置いた。
ここには、
彼女が整えていた日々の名残がある。
問題にならなかった判断。
先回りされた調整。
それらは、
もう戻らない。
(選んだのは……)
自分だ。
追放を命じたのも、
切り捨てたのも、
正しいと信じたのも。
そして今、
戻らないと突きつけられた。
王太子は、初めて理解した。
婚約破棄の、その後の話は、
自分の知らない場所で――
もう、先へ進んでいる。




