第11話 返さないという選択
翌日、店に二人の男が入ってきた。
昨日の客とは違う。
身なりは控えめだが、歩き方に迷いがない。
商人は一目見て、察した。
「何の用だ」
「商会の取引について、少し」
言葉は柔らかい。
だが、視線は店の奥――私の方を一瞬だけ掠めた。
「最近、この店に入った人物について確認したい」
商人は、鼻で笑った。
「商会の人間の出入りを、
いちいち王都に報告する義務はない」
「問題があれば――」
「問題は起きていない」
ぴしゃりと遮る。
男は言葉を変えた。
「能力のある人材を、
城で活かしたいだけだ」
その瞬間、
商人の表情が、完全に変わった。
「――返せ、と?」
空気が冷える。
「本人の意思次第です」
私は、口を挟まなかった。
ここは、私の立場ではない。
商人が一歩前に出る。
「なら、意思は聞いた」
男が、目を細める。
「……確認したのですか」
「するまでもない」
商人は、はっきりと言った。
「この店で働くと決めたのは、
あいつ自身だ」
それ以上の説明はない。
男たちは、それ以上踏み込めなかった。
理由は簡単だ。
違法はない。
強制もない。
ただ――
“返さない”と選ばれただけ。
男たちが去ったあと、
商人は私を見なかった。
「続けられるか」
それだけを、聞く。
「……はい」
「ならいい」
それで話は終わった。
王都は、こちらを見つけた。
だが、手は伸ばせない。
私はまだ、
誰のものでもない。
婚約破棄の、その後の話は――
“取り戻せない”場所へ、
静かに進んでいた。




