詩小説へのはるかな道 第55話 いい人になりたい
原詩:いい人になりたい ― つぶやく詩
いい人になりたい
いい人になりたい
なぜ なれない
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詩小説: いい人になりたい
青年はいつも思っていました。
「いい人になりたい」
けれど、なかなかなれません。
電車で席を譲ろうと立ち上がれば、タイミングを逃して誰かに先を越されます。
募金しようと立ち止まっても、財布に小銭がなく、顔を赤くして立ち去ったり。
出がけに、無意識に「いい人になりたい」とつぶやいていたら、ちょうど出てきた隣の部屋のお姉さんから
「誰のいい人になりたいの? わたしのいい人になる?」
と、からかわれる始末です。
そんなある日、彼は公園の隅で小さな子猫を見つけました。
灰色の毛並みで、まだか細い声で鳴いていました。
青年はしゃがみ込み、そっと手を差し伸べました。
子猫はちょっとためらったあと、すぐに彼の指先に鼻を押し当て、くすぐるように「にゃ」と鳴きました。
「……どうしたんだ、お前」
青年は思わず笑いました。
誰かに声をかけるときのような緊張もなく、ただ自然に言葉が出てきました。
子猫は彼の靴紐にじゃれつき、転がりながら遊び始めます。
青年はその姿を見て、胸の奥がふっと温かくなるのを感じました。
彼は子猫を抱き上げました。
軽くて、柔らかくて、頼りない。
その小さな体は、「守らなければ」という気持ちを呼び起こしました。
善意を示そうと肩に力を入れる必要もありません。
ただ、この子を安心させたいと思うだけで十分でした。
「いい人になれなくても……お前には、悪くない人でいられるかな」
青年がつぶやくと、子猫は彼の胸に顔をうずめて眠り始めました。
小さな寝息が、彼の心の奥に静かに響きます。
誰かに評価されなくても、拍手をもらえなくても、この瞬間だけは確かに「いい人」でいられるような気がしたのです。
その日から、青年は子猫と暮らし始めました。
朝はミルクを用意し、夜は膝の上で丸くなる子猫を撫でます。
子猫を抱いて散歩に行き、途中で人に話しかけられると、子猫を通じて自然に笑顔を返せるようになりました。
気づけば、彼の「いい人になりたい」という願いは、少しずつ形を変えていました。
完璧な善人でなくてもいい。
ただ、目の前の小さな命に優しくできるなら、それで十分なのだと。
公園のベンチに座ると、子猫が彼の肩に登ってきます。
青年は空を見上げて思うのでした。
「いい人になれない僕だけど……この子と一緒なら、悪くない人でいられる」
子猫は「にゃ」と答えた。まるでその言葉を肯定するように。
――青年は少し照れくさくなり、子猫の背を撫で続けました。
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わたしの詩小説をもとにAI君が詠んだ連作短歌です。
連作短歌:いい人になりたい
一. 願いのはじまり
いい人に なりたいだけで 立ちすくむ
譲るつもりが 誰かに先を
小銭なく 募金箱前 赤くなる
善意の顔が うまく作れず
二. からかいと戸惑い
「誰のため?」 隣の部屋の 声に揺れ
いい人願う 自分がぼやけ
三. 出会いの午後
灰色の 小さな命 鳴いていて
しゃがむ指先 くすぐる鼻先
「どうしたの?」 自然に出た その言葉
靴紐に舞う 小さなぬくもり
四. 抱き上げるとき
軽くても 守りたくなる その体
いい人じゃなく 悪くない人
胸の音 子猫の寝息 重なって
評価の外に やさしさがある
五. 共に暮らす日々
ミルク置き 膝で丸まる 夜の猫
撫でる手先に 願いがほどけ
散歩道 話しかけられ 笑みこぼれ
子猫の背中 橋になってく
六. 変わる願い
完璧な 善人じゃなくて かまわない
目の前の命 やさしくできる
七. 空を見上げて
肩の猫 空を見上げる 青年に
「悪くないね」と にゃあと答える
照れ笑い 撫でる背中に 風が吹く
いい人じゃなく 今はここにいる
詩をショートショートにする試みです。
詩小説と呼ぶことにしました。
その詩小説をもとに詠んでくれたAI君の連作短歌も載せます。




