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隣で「おはよう」と笑う君を見たいから  作者: 山田 太郎丸
第四章 君の隣でどこまでも歩み続ける

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77.お疲れ様、休め

 



 古見高校のグラウンドは、昇降口を真っ直ぐ抜けた先にある。そして入り口は正門1つのみで、来校受付も昇降口の仮設スペースで行なう。


 時刻は午前9時。文化祭で飲食を楽しもうと、朝食を済ませずに来校した人も多い。


 つまり何が言いたいかというと。




「いらっしゃいませー!列に沿って、順番に注文をお願いしまーす!」


「次、モモ2のねぎま2ね!その次がモモ3の皮が1!」


「早く食材持ってきて!注文に追いつかなくなるよ!」




 校舎に入った途端に襲ってくる強烈な匂い。無煙とはいえ匂いまでは誤魔化せず、旨みが風に乗って、来訪者を引き寄せていた。


 行列がさらなる行列を作り、1時間もすればグラウンドが人で埋め尽くされていた。




「おい、昨日はこんなんじゃなかっただろ!」


「そりゃあ生徒は校内スタートだからねぇ!グラウンドの位置関係を確認してなかった私たちのミスだ!ほら、口を動かしてる暇あったら手動かす!」


「あ〜〜、考えてても仕方ない!いらっしゃいませ、ご注文は!」



 昨日の生徒限定の文化祭では、わざわざ正門から動き始める生徒などいないので、ここまでの行列になることは無かった。

 ある程度の人気はあったが、外部のお客さんが入っても多少忙しくなるくらいかな、と甘く見積もっていた。


 だが蓋を開けてみればどうだ。レジ打ちなんて割と暇だろう、とか考えてたのが馬鹿馬鹿しく思えてくる。ずっと声を出してるから喉が痛くなってくるし、ミスをしたら洒落にならないので慎重にもならなきゃいけないから、だんだん神経が擦り減っていく。

 シフト交代まだ………?


 そう心の中で泣き言を言っていたが、俺よりも疲れているだろう人がいるので滅多なことは言えない。


 雲ひとつ無い青空の下、熱気を直に浴びている綾乃の額からは汗が滴っていた。一応テントで日差しは防いでるけど、残暑が未だ猛威を振るっている中ではあまり意味を為していない気がする。むしろ熱が篭って逆効果なんじゃないか?


 そんなどうでもいいことを考えてる暇はない。綾乃があれだけ頑張ってるんだ、俺なんかまだまだやれるだろ。



「いらっしゃいませ!ご注文は!」



 先の見えない行列を、1人、また1人と捌いていくのだった。










 ——— ——— ——— ——— ——— ——— ——— ——— ———











 昼下がり。少し気温は下がったが、文化祭の熱気は上昇し、それによって打ち消されていた。


 休憩中の優心は、この想定外の事態に対応するため、他のメンバーと共に緊急会議を開いていた。




「えーっと、まず食材は足りてる?」


「明日用のを今日に回してなんとかって感じ。今から追加発注しなきゃまずいかもね」


「それは俺がやっておくよ。綾乃はどう?焼いてて何か気づいたこととかあれば。あ、暑い以外で頼む」



 綾乃は多少悩む素振りを見せたものの、すぐに決心したような顔で向き直る。



「じゃあひとつだけ。何よりも単純で深刻な問題よ。………人手が足りないわ」


「やっぱそうなるよねぇ〜。みんな頑張ってくれてるけど、焼く速さが追いついてないよね。午前中にやってもらった人は疲れ切ってるし、休ませないとだしぃ………」


「私ならまだ大丈夫よ。少し休んだらヘルプに入るわね」


「ダメでーす。あやのんは一番頑張ってたんだから、その分休まなきゃ。ほら、トバちょとデートでもしてきなさーい!」



 真田さんにそう言われ、休憩スペースを追い出されてしまった。そこはそのまま休ませるとかじゃないんだな。


 目ぼしい所は昨日ほとんど周ってしまったので、何も考えずにゆっくり歩いてみる。



「すごい人だな。ウチの高校ってこんなに人気だったっけ?」


「偏差値は意外と高い方よ?普段の先生や生徒からは想像もつかないけれど、難関大学への合格実績も少なくないわ」


「へぇ、そうなのか。雛、よく入学できたな………」



 グラウンドから校舎に入ると、そこら中で人がごった返していた。どうやら忙しいのは他のクラスも同じだったらしい。

 想像以上の賑わいの中、3年生のフロアで目を引く…というか明らかに異質な出し物が行列を作っていた。



「なんだここ………占いの館?こんな所、昨日あったか?」


「うーん、見かけなかった気がするけれど。でも面白そうだし並んでみましょう?」


「まあ綾乃がそう言うなら…」




 並んでいる間に聞こえてくる声は、「胡散臭い」か「怖いくらい当たる」の2つだった。期待感は高まるが、俺はまだ半信半疑だった。

 昔から、占いとかおみくじとかは全く信じてない。理由はよく分からないから。


 並ぶこと20分。ようやく俺たちの順番になった。




「ふふ、ようこそいらっしゃいまし………!?」


「どうかしました?」


「いえ何でも。コホン…改めて、ようこそいらっしゃいました。わざわざこんな所までやってきて、何を占って欲しいのですか?」




 教室に入ると、それっぽい装飾を身に付けた女子生徒が水晶の前に座っていた。

 女子生徒はこちらの姿を認めるなり、動揺したような様子に見えたが、すぐに居住まいを正してそれっぽい口上を述べ始めた。


 しかし占って欲しいこと、ね………。俺は何も思い付かない。というか正直言って無い。

 綾乃は何かあるのかと思って隣を見てみると。



「…………………………………。…………?」



 何も無さそうだった。そういえば普通に疲れてて、何を占ってもらうか全く考えてなかった。お互い身体をなるべく休めようと、会話もあまり無かった。


 そんな俺たちの様子を見て、占い師役の女子生徒は困惑していた。



「えーっ………と、まさか…何も考えていない………?」


「「………………はい」」


「そ、それならこちら側でお題を指定しましょう。お二人は恋人同士ですか?」


「ええ。…なるほど、そっち方面は定番ですね」


「彼女さんの方はよく知っていらっしゃるみたいで。これから、わたくしめがお二人の未来について占いましょう。結果についての文句は受け付けませんのであしからず」



 目の前の占い師はそう言うと、水晶に手をかざして唸り始めた。BGMも流れていない空間では、なかなか雰囲気があるな。


 最後に脱力したようにひと息吐くと、こちらに向き直って占いの結果を伝えてくる。



「見えました、貴方達の未来が。占いにはこう出ています、『未来は明瞭、彼らを遮るものは何も無い』とね」


「だってさ。良かったな、綾乃」


「そうかもね。私、占いは信じない主義なのだけど」


「えぇ………………。まあ、俺もなんだけどね」






(コイツら何しに来たんだよ!!!)




 表情はそのまま、心の中でそう叫ぶ占い師———生徒会長、堀田(ほった) 京香(きょうか)であった。




名前だけ出して放置しててごめんなさい。

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