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隣で「おはよう」と笑う君を見たいから  作者: 山田 太郎丸
第一章 1年遅れの関係
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7.おはなしと書いて説教と読む

 


 激動の夕飯を終え、翌日。


 俺はいつものように春馬と昼食を共にしていたのだが、


「おい、これはどういうことだ?」


「いやぁ、これは、その………」


「なんでお前の弁当が()()()()()()()なんだ?」


 絶賛春馬に詰め寄られていた。


 事の発端は夕食後の話し合いまで遡る。




「ねえ、戸張くん」


「どうしたの氷川さん。何か不満なところでもあった?」


「不満というわけではないのだけれど………いえ、ある意味では不満なのかしら」


「何でも言ってくれ」


「それじゃ聞くけれど、戸張くん。あなた、いつも学校で何を食べているのかしら?」


「?コンビニで買ったパンか10秒で飲めるゼリーだけど」


「そうよね。それ、明日から禁止」


「何故に!?」



 俺の心の友たちを奪おうというのか!?



「そんなに驚かなくても………。男子高校生としては少なすぎないかしら」


「そんなことは無いと思うけど。突然どうしたんだ?」


「お昼は一緒に食べれない分、お弁当を作ろうかと思ったのよ」



 お弁当………だと………?いや、めちゃくちゃ嬉しいが。それはそれとして懸念点がいくつかある。



「気持ちは嬉しいんだけど、それ氷川さんの負担が増えない?」


 懸念点その1。お弁当を作ることによる氷川さんへの負担の増加。氷川さんが普段からお弁当を自分で作って持ってきているのは知っているけど、それが2人分となると流石に負担も増えるだろう。


 そう思い聞いてみるが、


「大丈夫よ、1人分も2人分も大して変わらないわ。それに、1人分だけ作ると逆に余らせてしまうのよね。度々私の晩ご飯になっているわ」


「そうなのか。でも、同じ弁当食べてるのがバレたら色々と不味くないか?」


 懸念点その2。同じ弁当を食べることによる俺たちの関係性の露呈。普段から目立つ氷川さんと悪い意味で目立つ俺。俺たちは隣の席同士だし、そのリスクはかなりあるだろう。反対側には同じくらい目立つ春馬もいるし。


「お弁当箱と冷凍のおかずを変えれば問題ないでしょう。どうせそこまで細かく見てないわよ」


 この人もしかして自分の魅力を自覚してないんですかね?あと俺の悪評も。


「いや俺たちまあまあ目立つからね?俺は春馬といつも一緒にいるから若干、いやかなり妬まれてるし。氷川さんもめちゃくちゃ可愛いんだから」


「か、かわっ!?そ、そんなこと言われたって誤魔化されないから。…もしかして私のお弁当食べたくない?」


 まずい。あまりにも俺が否定するもんだから勘違いさせてしまった。


「全然そんなことないよ。なんか申し訳なくてさ。そういうことならお願いしてもいいかな?」


「もちろん。私から提案したことなのだし。毎朝部屋に渡しに行くわね」




 そして今に至る。



「優心、ちょっと来い」


「来いってどこに」


「いつもんとこ」


 そうして俺たちは弁当を持って屋上へ向かう。本来屋上は立ち入り禁止なのだが、油断すると春馬はすぐ囲まれるので、俺が無理言って先生に鍵を借りているのだ。うちの先生達はいい人ばかりで本当に頭が上がらない。



「さて、聞かせてもらおうか」


 俺は昨日あったことをかいつまんで放す。流石に実は寂しかったみたいです、とは言えないが。


「ほーん、なるほどね。良かったな、気づいたのが俺で」


「というと?」


「俺はお前たちの状況を知っていた。それに、俺は観察力には自信があるからな。お前もよく知ってるだろ?」


 その通りだ。こいつの観察力は人並み外れていて、物を失くしてもすぐに見つけるし、一目見ただけで万引き犯を捕まえたこともある。

 まあつまり春馬は何が言いたいかというと、


「気づいたのは俺ぐらいだろうけど、万が一もあるから注意しとけよ」


「分かった、気をつける」



 本当に、いい友人を持った。



「しっかしあれだな。ほぼ通い妻だなこりゃ」


 前言撤回。こいつ面白がってるだけだ。


「通い妻って……なんちゅうこと言うんだお前は。俺たちはそんな関係じゃない」


「ほう、ならばどんな関係なのかね?」


 やられた。完全に誘導されてた。


「春馬でもそれは言えない。氷川さんにも迷惑かかっちゃうしね」


「うーん、なかなかガードが硬いな。ならこんなのはどうだ?」


「?こんなのって一体………」




「話は聞かせてもらったよハルッッ!!!!」




 そう言って勢いよく扉を開け放った一人の女子。


「もう少し大人しく登場できないのか雛。ほら、優心が驚いて腰抜かしてんじゃねーか」




 びっっっっっくりした………。


 この喧しいオーラを存分に醸し出している女子は山﨑雛(やまさきひな)さん。うちのクラスの元気印で、あのギャルズよりもテンションが高いことでお馴染みだ。身長が低いので小動物的な扱いをされているが、本人はそれをかなり気にしているため、言ったらめちゃくちゃキレられる。

 そして、あの氷川さんの唯一と言っていい友人である。春馬とも高校に入る前からの関係らしいが、本人が話したがらないので聞かないようにしている。


「ハルから話は聞いてるぜトバっち。うちのあーちゃん狙ってるんだって?そう簡単に渡す訳にはいかないけど、ハルの推薦なら話は別だよ。はぁ、ようやくあーちゃんにも春が来たのかぁ、なんか感慨深くて泣きそう」


「雛、ずっと「あーちゃんに近づく奴はろくなのがいない」って嘆いてたもんな。その点、優心なら安心だ。なんてったってこの俺のお墨付きだからな」



 トバっち!?あだ名で呼ばれたのなんて初めてだ。…いやそこは置いといて。

 ちなみにあーちゃんとは氷川さんのことである。



「ちょっと待ってくれ、まず聞きたいことがある。春馬からどこまで聞いた?」


「トバっちがあーちゃんのことを狙ってるとだけ」


「春馬くぅ〜ん、ちょ〜っとおはなし、しよっかぁ」


「おっと、積もる話もあるだろうし俺はこのあたりで」


「逃がすわけねえだろ」


「いやぁぁぁぁぁ!?嫌だ!優心の説教は一度始まったら長いんだよぉぉぉぉぉ」


「2人共元気だねぇ」


 あんたも他人事じゃないぞ。


「説明しなかった春馬も悪いが、全部鵜呑みにした山﨑さんも大概だぞ。そこに座れ2人共」


「ひっ!?ハル、トバっちの笑顔がなんか怖いよ!?」




 5分後。そこにはスッキリした顔をした優心と、真っ白に燃え尽きている春馬と雛の姿があった。




お読みいただきありがとうございます!

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