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隣で「おはよう」と笑う君を見たいから  作者: 山田 太郎丸
第四章 君の隣でどこまでも歩み続ける

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72.積み重ねて、まだ足りない

 



 最終日。優心たちはホテルを出て、キャリーケース等の大きな荷物をバスに積み込む。空港での手続きを早めるため、前もって家に送り届ける必要があるからだ。


 この日もほぼ自由行動だが、チェックポイントももちろん存在する。

 まだ九州で行っていない名所。彼らが学生、それも来年受験生となること。


 それらを踏まえ、導き出される答えはひとつ。




「ここが、太宰府天満宮か」


「すごい人ね………。私たちも大人数だし、歩くだけでも一苦労ね」


「お店もすごいな。ここだけで福岡名物が揃ってるんじゃないか?」




 全生徒が、一般客の邪魔にならないように並んで歩く。道そのものが広いため、窮屈な思いをすることは無いがそれでも感じるほどの混みよう。

 本殿までの道は先ほどより狭く、一層混み合っている。


 そして大きな門をくぐり抜けると、本殿がそびえ立っていた。




「なんというか………神秘的な空気さえ感じるな」


「そうね…。ここに祀られてるのは学問の神様、藤原道真だもの。道真の死後に呪いを恐れ、人の身でありながら神として祀られたそうよ」


「なら、お願い事も勉強に関するものにしておくか」




 俺たちも来年は受験生。大学に進むなら、綾乃と離れ離れになってしまうかもしれない。

 綾乃は俺よりもよっぽど頭が良いし、難関大学に合格することだって夢では無いだろう。


 でも、それじゃ綾乃の隣には立てない。このままだと置いていかれてしまう。




 だから、願い事は一つしか思いつかなかった。




(神様、どうか綾乃と同じ大学に受かりますように)




 勉強を神頼みにするなんてあり得ないことだ。どれだけ運が絡んでも、最後にものを言うのは自らの努力、即ち今までの積み重ね。もちろん今のままで足りるなんて思わない。

 それでも、神様だろうと何だろうと、使えるものはなんでも使う。今までだってそうして来たんだから。




 不確かなキャンパスライフに想いを馳せながら参拝を終える。


 最後に合格祈願のお守りを購入して、本殿を後にする。神様の力を借りるんだ、もう後には引けないぞ、俺。




「随分と気合いが入っているようだけど、何をお願いしたの?」


「まだ内緒だ。絶対秘密ってわけじゃないし、そのうち教えるよ。綾乃こそ何をお願いしたんだ?」


「シンプルに合格祈願よ。捻ったことお願いしても仕方ないもの」




 何だろう、謎の敗北感を感じる………。







 ——— ——— ——— ——— ——— ——— ——— ——— ———







 太宰府天満宮を後にした優心たちは、初日に考えていた博多ラーメンを食べに行くという目標を達成し、帰りの飛行機の時間を待っていた。


 既に生徒は全員揃っており、これといったトラブルも起きていない。教師陣は無事に修学旅行を終えられそうで安堵の表情を浮かべている。


 それはともかくとして、優心はこの旅行の思い出を振り返っていた。







(改めて、楽しかったな………)


 初めて訪れた九州の地。いち旅行好きとしても、大満足の内容だった。それも先生たちが頑張って自由時間を増やしてくれたおかげだ。


 正直、綾乃たちには申し訳ない気持ちもある。ずっと俺の行きたい所ばかり選んでしまって、みんなの意見はあまり聞いていなかった。

 でも、綾乃も春馬も雛も、全員楽しんでくれたみたいだし結果オーライだったのかな。




 明日は振替休日で、学校は明後日から。旅行って楽しいんだけど、その分体力も使う。明日はしっかり休んで、明後日また元気で学校に行けるようにしよう。先生も似たようなことを言ってたことだしな。


 その考えは、すぐに上書きされることになるのだが。




「ねえ優心。明日、デートしましょう?」


「唐突だな。綾乃は休まなくて平気なのか?相当疲れも溜まってると思うし」


「そんなの気にならないわよ。久々に何も気にせずデートできるチャンスなのだし、活かさない手はないわ」




 そうだな………………うん、そうかも。綾乃がデートしたいって言ってくれたんだし、俺も漢を見せなきゃな。こんな疲れなんて、綾乃とのデートに比べたら無いも同然だ。


 どこに行こうか考えようと思ったが、綾乃には何やら考えがあるような口ぶりだったな。



「どこか行きたい場所でもあるのか?綾乃から誘ってくれるの珍しいし」


「それは明日のお楽しみ。安心して、遠出をするつもりはないから。流石にそこまでの体力は残ってないもの」


「だよな。あっ、そろそろ移動するみたいだ」


「じゃあ、また後でね」




 飛行機に乗り込み、今度こそ酔わまいと離陸前から目を瞑る優心。疲労も相まって、目論み通り到着まで目を覚ますことはなかった。




 懲りもせず行きと同じテンションでいたジョージは、道程の半分を過ぎた頃には完全にダウンしていた。







 ——— ——— ——— ——— ——— ——— ——— ——— ———







 帰宅後、優心の気遣いで夕食は出前を取ることになった。

 前回と同じピザ店で、シンプルなマルゲリータを注文。疲れた身体にジャンクな味が染み渡っていた。




「ふう、ご馳走様。そこまで疲れている訳でもないし、別に気を遣わなくても良かったのよ?」


「そんなこと言ったって、表に出ない疲れだってあるんだから。休める時に休んでおいた方が身体のためだよ」


「………それもそうね。あ、明日は駅前で待ち合わせね。いつもみたいに一緒に行っても面白くないもの」


「よく分からないけど了解。今日はもう遅いし、準備もあるだろうから……」



 優心がそう口にした時には、綾乃は優心の腕を抱え込んでいた。



「分かったわ。でも、少しだけこうしていていい?」


「……少しだけだぞ」




 結局、綾乃は30分以上そのまま離れなかった。




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