69.力関係
更新遅れてすみません。
別府温泉に着いて最初に思ったこと。それは、意外と硫黄臭がしないことだ。
俺の勝手な偏見だと思うけど、温泉地はどこも硫黄の匂いがすると思っていた。
うっすら香ってくるような気もするが、そこら中が匂うなんてことはない。一度深呼吸をしてみても、それは変わらなかった。
「どうしたのよ、深呼吸なんかして。まさか電車も酔ったの?」
「電車酔いはしてない…はず。いやそうじゃなくて、温泉の匂いが全然しないなーって思ってさ」
「そういう硫黄臭がするのって、本当に一部の温泉地に限るらしいわよ。草津みたいに、温泉が街の中心にでもない限り、強く匂うことは無いんですって」
なんかとても恥ずかしくなってきた。綾乃が博識すぎて、彼氏として立つ瀬がない。俺は綾乃に何か勝てることがあるだろうか?
………無いな。力の強さなんかは論外だ。俺は一生、綾乃には逆らえないのだろうな。
2人の間の力関係がはっきりしたところで、温泉街と呼ばれるような区域に差し掛かる。
周りは旅館と、温泉まんじゅうをはじめとした土産物店ばかりだ。時折立ち寄りつつ、目的地を目指していく。
「すごい活気だな。今日は平日だってのに」
「外国人旅行者が多いのでしょう。私たちみたいな学生はあまりいないし、別府温泉は海外だとかなり人気があるって聞いたことがあるわ」
「へえ。言われてみれば、日本人よりも多い気がするな。インバウンド需要ってやつか。よく分かんないけど」
「そんな言葉よく知ってるわね。今どきの高校生はニュースなんか見ないものだと思っていたわ」
いや、言葉を知ってるだけで、意味はほとんど分かってないんです。なんか観光のことらしいってくらいしか知らない。
綾乃に対抗してそれっぽいこと言って、ちょっと見栄を張りたくなっただけです………。
勝手に張り合って勝手に敗北感を抱いている。そんな様子に綾乃は首を傾げていた。
どこか微妙な空気のまま歩き続け、気づけば目的のホテルに到着していた。
「お、戸張に氷川。早かったじゃないか。お前たちが一番乗りだよ」
「そうなんですか。てっきり誰かしら来ているものだと」
「いやそれがな。事故でバスが渋滞にはまったらしいんだよ。今、担任は生徒に連絡を取って、電車で移動するように誘導してるところだ」
そんなことがあったのか。だとしたら俺たちが電車移動を選んだのは正解だったな。ちゃんと調べておいてよかった。
春馬にも連絡して、電車で移動するよう伝える。しかし誰も来てないのか………。みんな意外と観光してるんだな。
「とりあえず部屋の鍵は渡しておくから、先に戻って休んでてくれ。夕飯と風呂の時間はちゃんと守れよー」
それぞれの部屋の鍵を渡され、一足先に休むことにした。なんだかんだで結構疲れたし、少し落ち着きたいな。
綾乃とは階が違うのでエレベーターで別れ、自らの部屋に向かう。
鍵を開け部屋に入ると、ザ・和室とでも言えばいいだろうか。そのような光景が広がっていた。
4人部屋だが、それよりも広く感じる。その倍は布団が敷けそうなくらい、大きな部屋だった。
「これ、俺たちだけで使っていいのか………?」
そう不安になるほど、豪華に感じる。いやこんなものなのか?最近泊まったのが雛が用意したあの部屋だけだから、感覚がおかしくなってるのかもしれない。
だが少なくとも、俺はこの旅館に大満足している。
荷物をある程度整理して、同部屋のメンバーに鍵を持っていることを伝えておく。
返事はすぐに返ってきた。さすが現代人だな。
その中でも、ジョージが渋滞に巻き込まれたらしく、少し遅くなりそうとの連絡があった。一緒に行動している孝太も同様だ。先ほど注意するように言われたばかりだが、夕飯の時間は多少融通が利くそうなので、あまり心配しなくても良さそうだ。
さて、やる事も無いしテレビでも点けるか。
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ふう、飛行機移動なんて久々だから、知らない内に疲れが溜まっていたみたいね。少しリラックスしただけで、一気に身体が重くなっちゃった。
それにしても、九州をちゃんと巡るのは初めてだったけれど、とても楽しめたわね。これでまだ初日だというのだから、明日以降にも期待が膨らむわね。
………実は、悩んでいることがある。
お父様にお土産を買うべきか、買うとして何がいいのか。
琴乃とは約束したけれど、あれ以来お父様とは話せていない。私が実家に戻っていないのが悪いのだけれど、今の生活が心地良くて、あまり戻る気にもなれないのよね。
でもこれをきっかけに、もう少し家族の時間を作ってみるのもいいかもしれない。
こういう時は、優心に相談するのがいいと思うのだけれど、かなり疲れているようだったし、今から行くのは気が引ける。大人しく雛たちが来るのを待ちましょうか。
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結局、ジョージと孝太は夕飯の時間に無事間に合い、会場で和食を楽しんだ。その時綾乃と少し顔を合わせたのだが、何か考え事をしているようで、どこか上の空だった。
その場では指摘しなかったけど、心配だし後で連絡しよう。
その後はみんなで大浴場に行き、別府温泉を満喫した。やっぱり温泉はいいな、身体が芯から暖まって、全身の疲れが取れていく。
「いやー、最高だったな!何回でも入れそうだわ」
「やめとけジョージ。お前じゃのぼせて医務室行きがオチだ」
「酷くない孝太?」
俺もジョージと同じで何回でも入れそうだけど、5回も10回も入るのは流石に勘弁してほしい。
やはり部屋は広く、4人でもかなり持て余している。全員分の荷物を置き、布団を敷いてもまだスペースは残っている。これ、本当は6人とか8人部屋っぽいし、学校側もかなり奮発してるんだな。お金自体はこっちが出してるんだけど。
それはともかく、今は修学旅行の夜。そう、修学旅行といえば………。
「恋バナの時間だーーー!!!」
「お前以外彼女持ちだぞ」
「うるせー!今日はとことん俺に付き合ってもらうからな!」
「なあ春馬、俺たち寝れるのか?」
「Zzz………………」
「もう寝てるし………」
こうして俺たちの、眠れない夜が幕を開けた。
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