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隣で「おはよう」と笑う君を見たいから  作者: 山田 太郎丸
第三章 愛の炎は夜空の星より煌めいて

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60.お節介焼き

 



 人混みを掻き分けながら、二人は祭りを楽しんでいた。

 射的を遊んでみれば、カッコつけようとした優心よりも綾乃の方が上手かったり。型抜きに挑戦してみれば、やはり綾乃の器用さに優心の自信がへし折れたり。


 現在は歩きながら、空いた小腹を満たそうとしているところだった。



「綾乃、何が食べたいとかあるか?」


「特に無いわね。強いて言うなら、味の濃いものがいいかしら。あ、デザート系以外でね」


「味の濃いデザートを祭りでは出さないだろ。でもそうだなあ………」



 悩んでいると、近くから鼻腔をくすぐるソースの香りが流れてきた。

 祭りでソースといえば、真っ先に思いつくものは一つしかないだろう。


 それは隣にいる綾乃も同じ考えに至るわけで。



「「焼きそば………あっ」」


「なんというか……図ったようなタイミングね」


「でも希望には沿ってるよな?」


「ええ。これにしましょうか」



 優心は、「すいませーん、焼きそば一つくださーい」と。

 その声を聞いて振り返ったのは、比較的若い大柄な男性。



「はーい…って、戸張に氷川じゃないか」


「え、日野先生?こんなところで何やってるんですか」


「そりゃあ生徒が羽目を外してないか監視するためだ。この祭りで一定数やらかす奴らがいるからな。毎年こうして紛れ込んでるんだよ」



 もう自分で紛れ込んでるって言っちゃってるし。やっぱこの人忍者の末裔だろ。

 そして日野先生は生徒想いでも有名なのだが、いくら先生でも祭りの熱気にはあてられるようで。

 生徒想いを通り越して、お節介焼きのお兄さんと化していた。



「お前らこそ…ああ、あれか。デートか」


「ニヤニヤするのやめてくれません?」


「いやあ無理だね。見たところ健全なお付き合いをしているようだし、俺から言うことは何もない。………ほい、焼きそば一人前な。箸は1つでいいよな?」


 まあ俺は食べるつもりは無いし、綾乃の分だけでいいか。

 そう思ったが、日野先生の考えは違ったようだ。



「どうせお前ら『あ〜ん♡』とかするんだろ?分かってる、2つ渡すのは野暮ってもんだよな」


「何言ってんですかアンタ」


「先生に向かってアンタとはなんだ。お前らだって、二人揃って幸せそうな顔してんじゃねーか」


「してないですよ。綾乃からも言ってやってくれ」



 本当にこの人教師か?とてもそうは思えない言動をしているが。そう思い、綾乃にも同意を求める。が、こちらも熱気にあてられていたのかもしれない。


 返ってきた答えは、俺が求めているものとは正反対、いやある意味では求めていた答えであった。



「私は幸せですよ。1番大切な人とこうやって並んでいるのですから」


「ほら、氷川はこう言ってるぞ。戸張は違うのか?」


「ああもう!俺だって幸せですよ!こんな可愛い子と一緒に花火大会に来れるなんて、俺はとんだ幸せ者だよ!」



 こうなりゃヤケだ。ここまで言われて、俺は違います、なんて言えるわけないだろ。恥ずかしくて言えないだけで、幸せに決まってる。

 綾乃も同じ気持ちだったらいいなぁって思ってたけど、俺の心は自惚れるなって語りかけてくる。


 でもそんな人に告白しようとしてるんだ。これぐらい口に出せないでどうするんだよ。

 俺の答えを聞いて二人とも満足してるようだし、結果的にはこれで良かったんだろうな。


 さっきから妙に視線を感じるし、多分周りの人には聞かれてるだろう。だが一度口に出してしまえば、その言葉は無かったことにはできない。結局、割り切るしかないんだよなぁ。



「あら、ありがとう。今日はやけに素直じゃない」


「誰のせいだと………まあいいや。先生、ありがとうございました」


「おう、二度と俺の前でイチャつくんじゃねーぞ」


「前言撤回、アンタやっぱ教師じゃないだろ」




 日野先生はなんだかんだと言いつつも、俺たちを笑顔で見送っていた。…あの様子じゃ、俺たちが付き合ってないの気づいてるだろうな。




 気を取り直して、どこか焼きそばを食べられる場所を探す。花火が打ち上がるまではまだ1時間強あるので、花火を見るための場所に向かうにはまだ早い。

 正直、俺もまだまだ祭りを楽しみたい気持ちはあるし、綾乃にももっと楽しんでほしいからな。


 とりあえず適当なベンチを確保することができたので、木の枝などがないかしっかり確認してから綾乃を座らせる。



「ふふ、まるで紳士ね」


「まるで、じゃなくて俺は紳士なんだよ」


「珍しく自分のことをよく分かってるじゃない」


「おい、どういう意味だよ」



 やっぱり綾乃のテンションが妙に高い気がする。いつもは冗談なんてほとんど言わないのに、今日はやけに口が回っている。

 でも、こういう綾乃も悪くない。………ちょっと変態っぽいか?どんな綾乃でも俺は愛せる自信があるけどな。


 偶にはそういう日もあるだろうと、そう自己完結する。

 まあそんなことはどうでもよくて。綾乃には目の前の焼きそばに集中してもらおう。



「それじゃ、いただきます」


 綾乃は垂れていた髪を耳にかけ直して、丁寧な所作で口を付ける。

 …なんか、いいな。チラッと見えるうなじとか鎖骨とかそういうのが。………やばいな、だんだん思考が危ない方に寄っていってる。


 味でも聞いて気を紛らわそう。うん。



「どうだ、日野先生の作った焼きそばは」


「普通に美味しいわよ。すごく作り慣れてる感じがするわね。流石毎年参加してるだけあるわ」


「へえ、あの人ちゃんと仕事してたんだな」


「そうだ、優心も一口食べてみる?ほら先生も言ってたじゃない」



 綾乃は1膳しかない箸で焼きそばを掴み、俺の口の前へと持ってくる。

 その後に続く言葉はもちろん。




「はい、あーん」


「ぐっ………………………悪ノリするんじゃありません」


「あら、つれないのね。せっかくこんな美少女があーんしてあげてるのに断るなんて」


「いやほら、周りの目もあるしさ?ちょっと恥ずかしいっていうか」


「二人きりの時なら良いのね?言質、取ったから」




 …完全に綾乃の掌の上で踊らされている。なんか悔しいし、いつもならやり返してるところだが、この後に控えていることを考えると今日は我慢だ。

 まあ、二人きりの時ならいいか。二人きりでも恥ずかしいけど今更だし、それで綾乃が喜んでくれるなら、俺はなんだってしますとも。



「えっと、少し情けない話をしてもいい?」


「ん?どうかしたか?」


「いえ…ちょっと量が多くて………日野先生が多めに盛ってくれたみたいなのよ」


「ああ…あの人の考えてることが手に取るように分かるよ」



 あんのお節介おじさんめ。どうせ多めに入れておいてあーんを誘発させようとしたんだろう。やっぱり無理にでも2膳貰っておくべきだったか。


 優心のこの予想、実のところ全くの的外れだったりするのだが、それはまた別の話。

 恥ずかしさを通り越して呆れた優心は、焼きそばを無駄にしないため胃袋の限界まで麺を詰め込むのであった。







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