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隣で「おはよう」と笑う君を見たいから  作者: 山田 太郎丸
第一章 1年遅れの関係
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5.訪問

 

 一夜明け、優心は昨晩のことを思い返していた。





(よかった〜、氷川さんに嫌われていた訳じゃなかったのか〜)



 独り安堵の息を漏らす。それと同時にある疑問が浮かぶ。



(それにしても、何であんなに嫌われてるんだろうな)


 昨日の感じでは、特別俺が嫌いという訳ではなさそうだ。渡を相手にしても

 きっぱりと拒絶していたし、何か彼女にも事情があるのだろう。だが無理に聞く話でもない。それで彼女に嫌われてしまったら本末転倒だ。それに、彼女もいつか話すと約束してくれたからな。


 一旦そのことは置いておき、時刻は正午過ぎ。

 どれ、インスタント麺でも食うかな………。



 ピンポーン。



 ん?誰だ?今日は宅配や設備点検の予定などもないはずだが………。

 そう思いインターホンを覗くと、そこには綺麗な黒髪の美少女(お隣さん)が鍋を持って佇んでいた。

 少しの間呆けていると、もう一度インターホンが鳴った。我に返った俺はすぐに扉を開ける。


「こんにちは、戸張くん。…ええっと、肉じゃがを少し作り過ぎてしまって。もし良かったら昨日のお礼も兼ねてお裾分けしようと思ったのだけれど………」


「あ、ああ。ありがとう氷川さん。でもお礼はもう貰うことになってるし、これ以上何かを貰うわけには」


「いいえ、あの程度のお礼ではこの恩は返しきれないわ。あなたには命を救ってもらったんだから」


「そんな大げさな………」


「決して大げさなどでは無いわ。たとえ大げさだとしても私の気が収まらないの。それではだめ?」


 うっ。そんな目で見られたら言い返せないだろ。


「分かったよ。ありがたく受け取ることにする。でも、これ以上この事でお礼とか言うのは無しで。それじゃ」


 そう言って優心は扉を閉めようとする。すると、綾乃は少し寂しそうな表情で、


「そう、分かったわ。もしまだだったら一緒にお昼でもと思っていたのだけど……それじゃあまた明日」


 今なんて?何か聞き捨てならないワードが聞こえた気が……。思わず俺は閉じかけた扉を再び開く。


「ちょっと待って。俺も少し話したいことがあったから、その、一緒にお昼食べないか?」


「いいの?」


「ああ、というか氷川さんから誘ってきたんだろう?」


「それもそうね。じゃあお邪魔するわね」



 そう言って氷川さんは俺の部屋に入る。いや、急すぎやしないか?毎日掃除は欠かしていないので汚すぎるということはないが、女子、それも同級生に見られるのは少し恥ずかしいな。………いや、よく考えたら俺これより恥ずかしいことしてるじゃん。じゃあ問題ないな、うん。



「ここが戸張くんの部屋………、意外と片付いてるのね」


 意外とはなんだ、意外とは。


「戸張くん。流石に肉じゃがだけでは味気ないから、なにか作ろうと思うの。台所と食材を借りてもいいかしら?」


「作ってくれるのか?ありがとう。自由に使ってくれて構わないよ」


 そして、氷川さんは冷蔵庫に手を伸ばす。………あ、やっべ。その瞬間、俺はとあることを思い出す。が、時すでに遅し。


「………何これ、()()()()()()()()……」


 そうだ……コンビニ弁当しか食べないから食材とか何も無いんだった…………




 ———————————————————————————




 まさかの事実に呆れの目線を頂戴してから数十分後。


 自宅から食材を持ってきた綾乃は、慣れた手つきで手際よく調理し、戸張家の食卓にはいつもの質素な食事からは想像もつかない程の彩りが並べられていた。

 先ほど持ってきた肉じゃが。ほうれん草の煮浸し。湯気の立った味噌汁。そして、何故かある炊き立ての白米。

 あの動きのどこにお米を炊く余裕があったんだ。もう凄いを通り越してちょっと怖い。


「すごいな、これ。いやほんとに。すごすぎて言葉が出てこないよ」


「お世辞はいいからさっさと食べましょう。冷めてしまうわ」


「そうだね、それじゃあ」


 そうして2人は手を合わせて、



「「いただきます」」



 まず俺は、本日のメインディッシュである肉じゃがを口に運ぶ。味はもちろん、


「美味しい……!本当に美味しいよ、氷川さん」


「そう、それは何よりだわ」


「こんなに暖かいご飯を食べたのはいつ振りだろう………」


 気づけばそんな言葉が口から出ていた。


「そんなに喜んでくれるとは思わなかったわ。余りものだけれど……」


「余りものとか関係ないよ。心のこもった料理はそれだけで人を幸せな気持ちにできるから」


「ここまで褒められると少し照れるわね……。で?何故冷蔵庫に食材類が何も無かったのかしら?」


 少し怒ったようにそう言う。こんなことを言った直後に言うことではない気がするが………仕方ない。正直に話そう。


「俺、一人暮らしなのに料理だけはてんで駄目でさ。それで毎日コンビニ弁当なんだ。昨日公園で会った時もコンビニに行った帰りだったんだ」


「ふーん…それはあなたが料理出来なかったことに感謝するべきかもね」


 よし、これは何とかなったか?そんな淡い期待も軽く打ち砕かれる。


「でも、それとこれとは話が別よ?今までよくこんな生活が出来たわね。出費だって馬鹿にならないでしょうし」


「それに関しては大丈夫。じいちゃんの遺産と親代わりの人から毎月かなりもらってるからね」


「なんでもないように言うけれど………親代わりって。それ、私が聞いていいことなのかしら?」


「大丈夫。むしろ聞いてくれるのか?ただの自分語りだし、そんなに面白い話でもないぞ?」


「ええ、これからあなたと関わっていく上で聞いておいた方が良いと思うから」


 まあ、毎朝挨拶するって約束したからな。


「分かったよ。ただし聞きたくなくなったらすぐに止めてくれていいから」


「そんなことにはならないと約束するわ」




 そうして優心は過去のことを語り始める。




お読みいただきありがとうございます!

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