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隣で「おはよう」と笑う君を見たいから  作者: 山田 太郎丸
第二章 今はまだ遠くても誰よりも近いから
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17.そもそもの話

 



 騎馬戦のあれやこれやから数日後。優心は最近注目されすぎていることに少し気が滅入っていた。

 当然である。対応を完全に間違えたのだから。


 決着の翌日の出来事である——————



 ——— ——— ——— ——— ——— ——— ——— ———



 決着から1日経ち、優心はクラス内でいつも以上に好奇の視線に晒されていた。このままでは綾乃にも迷惑が掛かる、そう思った優心は何か明確な回答を用意しようと考えた。


 だが彼らの関係を正直に話すことは出来ない。かといって、優心が綾乃を狙っているという曲解された情報が出回ってしまっているので下手な回答を用意することも出来ない。


 そこで優心が取った行動は実に悪手であった。


「俺たち、実は幼馴染なんだ」



 優心としては完璧だと思った。優心の過去を知っているのはごく僅かであり、その僅かな人物が漏らさなければ問題はないからだ。


 だが全員が思った。そんなわけないだろ、と。

 それを何より雄弁に物語っていたのは綾乃と春馬だった。

 綾乃は呆れていた。珍しく誰が見ても分かるぐらいに。

 春馬は笑っていた。「ハハハハハ!!お前、それは無理があるだろ!!」と腹を抱えて。


 優心はそんなに無理があるだろうかと思ったが、よく考えてみれば幼馴染なのだから、幼少期の話をされた時点で終わりである。優心は綾乃の幼少期のエピソードなどなんら持ち合わせていないし、綾乃は俺たち以外とは話そうとしない。綾乃と2人で居ても綾乃自身の話はしないし、聞かないと決めている。


 つまり、このままでは真偽不明の綾乃の幼少期の情報を流す異常者の誕生である。


 流石に考えすぎだが、その可能性に思い当たった優心は諦めて()()()()()ことにした。


「流石に冗談だけど、俺にはそのぐらい知られたくない事情がある。だから詮索しないでくれると嬉しい」


 そう言うと、彼らはクラス内では詮索しないことを約束した。彼らも根は悪い人間では無いため、一連の出来事で何かのっぴきならない事情があるのだろうと理解した。


 そして優心はちゃっかり自分のミスを冗談だということにして無かったことにしていた——————




 ——— ——— ——— ——— ——— ——— ——— ———



 ということがあった。確かにクラスメイト達は言いふらさなかった。だが噂というのは火の無い所には立たない。つまりクラスメイト以外の誰かが聞き耳でも立てていたのだろう、あっという間に拡散されていた。


 結果的に綾乃に迷惑を掛けてしまったと感じた優心は、すっかり日常となった綾乃との夕食後に話し合うことを決めた。


「氷川さん、ここ最近の状況を話し合いたいんだけど」


「もちろんいいわよ。私も少し鬱陶しく感じてきていたし」


「うーん、でもどうするかな。もうこの際だし、正直に全部話すのもありだと思うけど」


「私は別に構わないけれど、貴方はいいの?この関係がバレるのを嫌がっていたのはどちらかというより貴方の方だったと思うのだけれど」


「俺はあんまり目立ちたくないんだ。でもここまで注目されてしまったら、どちらでもあまり変わらないと思ったんだ。氷川さんの方こそ大丈夫なのか?」


「公表することで実害が出るなら考えるけれど、そういう訳でもないでしょう?それにそろそろ隠し通すのも限界だと思っていたのよね」


 それは俺も思っていた。ここ最近の俺たちは、少し目立ち過ぎていた。渡との一件もあって騒ぎも一向に収まらないし、だからこそのこの結論でもあるんだけど。


「それもそうだな。いつ話そうか」


「そうね………また噂になるのも嫌だし、どうせなら体育祭の時に堂々と言ってやりましょう?」


「分かった、大山先生がちょうど体育教諭だし話は通しておくよ」


「いいえ、私も一緒に話すわ。貴方1人では誤解を招く恐れがあるもの」


 まだどうにも信用が無いらしい。彼女の警戒心の高さを考えれば、これでもかなり打ち解けた方だとは思うが。大して関わったことの無い人には一言も口を利かないからな。


「そうか、助かるよ。先生にはなるべく早いうちに話しておきたいけど、明日は体育委員の集まりだし、明後日は図書委員の当番があるし、うーん…どう見積もっても来週になりそうだな」


「それで構わないわ。話せればいつでもいいのだし」


「とりあえず、明日先生に込み入った話をしたいって事を伝えなきゃな」


「そうね………あら?もうこんな時間。それじゃそろそろお暇するわね。おやすみなさい戸張くん」


「ああ、おやすみ氷川さん。また明日」



 最後に氷川さんはほんの少しだけ笑ったように見えた。あの日以来、やはり態度が軟化している気がする。やはり渡との件ではかなりプレッシャーを感じていたのだろう。


 せめて俺といる時ぐらいはリラックスして過ごしてほしい、そう思う優心であった。





 一週間後。


 体育祭の練習も順調に進み、本番まで後2日となったこの日。大山先生は体育教師であるためにこの時期はなかなか忙しく、時間が取れるのがこの日だけということになってしまった。


 教室で2人、先生を待つ。その間、会話は無い。それでもお互い気負わずに過ごしていた。


 ガララッ


「すまん、遅くなった。会議が長引いてな。それで話したいことってなんだ?」


 遅れて入ってきた大山先生。案の定、会議で遅くなったようだ。ちなみに俺は眞紀ちゃんセンセーと呼ぶのをやめた。なんか小っ恥ずかしいじゃん。本人に言ったらまた落ち込みそうだから絶対に言わないけど。


「相談というかお願いなんですけど、先生は俺たちが同じマンションに住んでる事を知ってますよね?」


「ん、そうだな。部屋が隣同士なのも知っているが……ハッ!?まさかお前ら……」


「違います。なんとなく先生が何考えてるかは分かりましたが、そういうことではありません」


 どうせ碌でも無い妄想だろう。大きな声じゃ言えないが、この人独身拗らせてるからな。普通にしてれば美人なのに。


「じゃあ何だって言うんだ?」


「先生も最近の俺たちに関する噂をご存知でしょう?あれが少し煩わしくなってきたので対処しようかと」


「さすがの私も聞き及んでいる。対処するならこの忙しいタイミングじゃなくてもいいんじゃないか?」


「いえ、今しか無いんです。体育祭で皆が注目している時、そこで俺たちの関係を公表します」


「体育祭の私的利用か………。私は体育教師だからな、表立って良い顔をするわけにはいかないが、それと同時に担任として現状をどうにかしようと思ってもいた」


 つまり黙認するということか。それだけでも十分だ。あとはどのタイミングで行動するかなんだけど、


「そこで2人に提案なんだが、借り人競走を使わないか?」


「「借り人競走………」」



 そういえばそんな種目あったな。俺も氷川さんも借りられる人がお互いの親友しかいなかったから記憶から消し去っていた。でも去年はどんなお題があったか覚えていないな。だって居眠りしてたからね。

 氷川さんも去年参加していなかったため、いまいちピンと来ていないようだ。

 おそらく何も思いつかなかったのだろう、氷川さんが先生に質問する。


「それをどのように活用するのですか?」


「ん?そりゃあお前、大切な人とか書いておけば大丈夫じゃないか?そもそもお前達は注目度が凄まじいだろうからな」


「いや大切な人って………そこは無難に友人とかでいいでしょうが」


「それだとつまらないだろう?どうせなら派手にやろうじゃないか」


 あ、分かった。この人男女関係の噂を聞いてストレスが溜まってるんだ。そして噂の的である俺たちの状況を利用し、それを発散させようとしている。そんなところだろう。


 なら、俺もそれを利用させてもらおう。


「いいですね、その方がさらに注目を集められるので良さそうです」


「ちょっと戸張くん?勝手に進めないでちょうだい」


「ああ、ごめん。何か気になることでもあった?」


 彼女の口から返ってきた答えは完全に予想外のものだった。




「いえ、そもそも()()()()()()()()()()()?」



 ……………………え?



お読みいただきありがとうございます!

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