表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
隣で「おはよう」と笑う君を見たいから  作者: 山田 太郎丸
第一章 1年遅れの関係
15/40

14.頑固で誠実で

 



 翌日の放課後。約束の通り、優心は近くのカフェで大和と会っていた。だが、ここに来る前の綾乃の様子が気がかりであった。




 今日は氷川さんとは一緒に居れないことを伝えたが大丈夫だろうか?家までは共に帰宅した。本人は大丈夫だと言っていたが、部屋に着いた途端に寂しそうなオーラを全開にしていた。でも今日だけは我慢してほしい。お互いの事情もあるだろうから、予定がある時はそちらを優先することにすると取り決めたからな。


 しかし、あの様子を見てしまったのでなるべく早く帰ろうと思う。そのためにも、早めに方針をまとめたいところだな。


「こうして会うのは去年の夏休み以来だね。元気にしてたかい?」


「お陰様で。社交辞令はいいのでさっさと本題に入りましょう」


「何をそんなに焦っているんだい?まさかお隣さんと進展でも……」


 何で分かるんだよ、やっぱ俺が分かりやすい訳じゃないだろ。この人は職業柄、こういうのに敏感な人だろうから理解は出来るけどな。


「まあ、そうですね。毎日お弁当と夕食を作ってもらってます」


「羨ましいねえ。美少女に毎日食事を作ってもらえるなんて」



 そこでふと違和感を覚える。



「あれ?俺、大和さんに彼女の写真とか見せたことありましたっけ」


「おっと、今のは失言だったかな。そのマンションに住まわせる際に、住人を一通り調査したんだよ。特に隣人はより念入りに調べたんだ」


 そういうことか。確かに彼の能力を以てすれば、その程度は朝飯前だろう。だが、それだけで覚えているものだろうか?


「理解は出来ますけど納得は出来ませんね。ただの隣人を普通そこまで覚えているものですか?」


「いや、彼女のことはもう少し前から知っていたさ。まさか何も聞かされてないのかい?」


「ええ、こちらから話を聞くことはしないようにしています。彼女もあまり話したいことではなさそうなので」


「なら僕の口から言うのは野暮というものかな。あえて言うなら、覚悟はしておいた方がいい」


 何の覚悟なのかは分からないが、氷川さんは俺が思ってるよりも重大な事実を隠しているかもしれない。でも俺のスタンスは変わらない。彼女が自分から話してくれるまで待つだけだ。


 話が大分逸れてしまった。なるべく早く終わらせたいのに。


「本題に戻りましょう。今日渡したかったのはこれです」


 そう言って優心は幾つかの()()を見せる。


「これは……渡の息子の犯罪の現場か!」


「1週間探ってみましたが、思ったよりも簡単に手に入りました。あいつがSNSに投稿した画像から夜遊びしているのは確定してましたし、そこから普段の遊び場所を特定するのも難しくないですし」


「全く君は、せめて私に相談しなさいとあれほど言ったのに……。その自己犠牲の精神は昔から治らないねぇ」



 俺が最近氷川さんに隠していたのはこれだ。


 俺はここ数日、渡の動向を調べていた。氷川さんが帰った後、あいつが普段遊び歩いているのが夜の繁華街であることを特定し、変装して尾行していた。まさか自分がしていたことをやり返されてるとは夢にも思ってないだろうな。


 その中で、渡が飲酒と喫煙をしている写真と動画の撮影に成功した。堂々と馬鹿騒ぎしていたので、どうせバレないとでも思ってたんだろうな。多分、日野先生にはバレてるぞ?


 俺が提示した写真を見て、大和さんは呆れかえっていた。それに少し残念そうな表情を見せていた。


「僕の出番が無くなっちゃったねぇ。いや実はね?あそこの社員さんたちが今度ストライキを起こすって言うから、僕もたまたま渡社長の不正の証拠を集めていたんだよ。あ、これ誰にも言わないでね?」


「そうだったんですか。それで、どうやって渡を追い込みましょうか?」


「君は早く彼女を安心させたいんだろう?なら明日にでも決行しよう。こちらもストライキを起こす準備は出来てる。どうせならまとめて終わらせてやろうじゃないか」


「なかなか酷いことを考えますね。でもそれが一番効果的なんでしょう?大和さんは俺に一度だって嘘を吐いたことは無いですから」


 この人は俺には絶対に嘘を吐かない。俺に対しては誠実すぎるくらいな人なのだ。理由を聞いたら、「あいつの忘れ形見だから」と言っていた。ここまで来ると父さんにどんな恩があったのか気になるな。今度聞いてみよう。


「たかだか2年程度の付き合いだけどね。あいつの息子を騙すようなことはしたくないし、君も後見人なんていう難しい立場の人間に向き合ってくれてるんだから。これくらいは当たり前だよ」


「後見人が大和さんで良かったです。父さんに感謝しなきゃですね」


「それには同意だよ。まあ、もしまた会えるなら嫌味の一つや二つは我慢してほしいけどね」


 本当に何されたんだよ。これは相当根に持ってるな。


 そんなことを言いながらも俺たちは詳細を詰めていく。そろそろ20時を回るかというところでもう店を閉めるとの店主さんからのお達しがあった。


「気づけばこんな時間ですね。急な呼び出しに付き合ってくれてありがとうございました。これ、少ないですが依頼料です」


「それを受け取るわけにはいかないよ。それに僕も長時間拘束してしまったからね」


「それでもお呼び立てしたのはこちらなので。受け取ってください」


「君は幸一………親父さんに似て本当に頑固だね。それに誠実で………一途だ」


「やめてください、そんなんじゃないですよ」


 本当にこの人は………。


「ハハハッ。あっ、そうだ大事なことを伝え忘れていた。これを」


 そう言って1枚の紙を手渡してくる。


「これは?」


「きっと君の役に立つはずさ。それじゃあ」


「あっ、待っ」


 ヒラヒラと手を振りながら行ってしまった。最後に渡された紙には11桁の数字が書かれていた。




 決行は明日。時間はかけない。HR(ホームルーム)の時間で決着を着ける。




 渡はここで終わらせる。氷川さんの笑顔のためなら、俺は何だって出来る。たとえ俺がどうなったとしても……











「クク、戸張ィ……お前は明日必ず消す。綾乃は俺の物だァ………」











 奇しくも、2人は同じタイミングでお互いを排除しようと動いていた。





お読みいただきありがとうございます!

感想、誤字報告もどんどんください!

高評価もして下さるとものすごく作者の励みになります………!!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ