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隣で「おはよう」と笑う君を見たいから  作者: 山田 太郎丸
第一章 1年遅れの関係
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12.確信犯

 




 翌朝、いつもより早く目が覚めてしまった優心は緊張した面持ちで綾乃を待っていた。


 というのも、普段の朝であれば弁当の受け渡しだけで綾乃は先に学校へと向かうのだが、今日は話が違う。

 前日に決めた通り、登下校を共にするからだ。今日に限った話ではなく、噂と渡のことが解決するまでは1人で行動しないようにと取り決めた。


 朝食を食べ、着替えも済ませてソワソワしながら優心はその時を待っていた。



(いつになったら氷川さんは来るんだ?いつも通りならそろそろ来るはずなんだが、何せ早起きしてしまったからな。普段の待ち時間よりも長く感じる)



 ピンポーン。


 来た、いつもときっちり同じ時間に。早く来ることはあるが、遅れてきたことは一度も無い。本人が言うには幼少期からの教育のせいらしい。でもこういうところは素直に尊敬できる。俺は普段、遅刻ギリギリまで寝ているからな。何度先生に怒られたことか。あ、遅刻はしたことないです。



「おはよう氷川さん」


「おはよう戸張くん。なんだか表情が固いわね、どうかしたの?」


「いやぁ、なんか緊張してきちゃって。学校一の美少女と並んで歩くわけですから」


「馬鹿なこと言ってないでさっさと行くわよ。早いうちに行けば目撃者も少なくて済むでしょうし。はい、お弁当」


 氷川さんは呆れたようにお弁当を手渡してくる。本当に毎朝作ってくれるなんて思わなかったけど、氷川さんは微塵も嫌がる素振りを見せないんだよな。彼女の負担になってなさそうでよかった。


「わざわざ毎朝ありがとう。氷川さんの作ったご飯を食べ始めてからなんだか調子がいいんだ」


「当たり前よ、前があんな食生活だったんだもの。それにあなたが言ったんでしょう?()()()()()()()だって」


 それを持ち出してくるか。なんか気恥ずかしいな。


「うん、氷川さんの料理には心が籠ってる。だから食べると落ち着くんだ。嫌なこともその間だけは忘れていられるんだよ」


「私の料理にそんな効果無いわよ。本当に遅刻するわよ?」


 そろそろ行かないとまずいので、2人揃って家を出る。

 他愛もない話をしながら通学路を歩く。学校が近くなれば、ちらほらとウチの生徒も見受けられる。すれ違う生徒は皆、奇異や驚愕の視線を向けてくる。俺はその中に異質な視線が混じっているのに気が付いたが、あえて無視する。まだだ、仕掛けるのは逃げられない程の証拠が集まった時。そのために俺は………いや、今考えることじゃ無いな。今は氷川さんを悪意から守ることだけを考えよう。


 学校に到着するが、まだ比較的早い時間だからか生徒の数はまばらだ。氷川さんの言った通り、あまり目立たずに来れただろう。それでも目撃者はゼロでは無いため、噂になることは避けられない。だから俺は行動を別にするよう提案したのだが、すげなく断られてしまったからな。断られたというよりは拒絶に近かったけど。春馬との登下校がそんなに嫌だったのかね。


 だが問題は下校の時だ。登校時とは違い、生徒の数は格段に多い。あと数日、時間を稼げれば証拠が集まる。その間、氷川さんに危害が加わらないようにどうするか考えなくては。


 思考が沈みそうになったその時、


「……くん、…戸張くん。大丈夫?全然返事が無いからどうしたのかと」


「ああ、ごめんごめん。ちょっと考え事してた」


「全く……。それで?一体何を考えていたの?」


 証拠集めのことは言えないので、本当のことも交えつつ誤魔化す。


「いや、さっきのことを少し。やっぱり俺たちは目立つわけだからさ。どうしたものかなと」


「言わせておけばいいじゃない。私たちにはやましいことなんか何もないのだから。有象無象が言うことなんて気にする必要無いわよ」


 なかなか言うな。でも本人が気にしないなら特に対策は必要無いかな。


「氷川さんがそう言うなら。でも何か困ったことがあったら言ってくれ。俺も春馬も力になるから」


「ええ、そうするわ」


 そんな話をしているうちに続々と同じクラスの人たちが登校してくる。これ以上話していると目立つので、目線でそのことを伝える。すると氷川さんに無事伝わったようで小さく頷くと、前に向き直って本を読み始めた。


 俺も暇だし何かするかと思い、スマホを取り出そうとしたその時、


「優心、氷川さんとずいぶん距離が縮まったみたいだな?」


「うおっ……なんだ春馬か。驚かせないでくれ」


「別に驚かすつもりはなかったんだが、2人で楽しく話してたみたいだったからな」


 見られてたのか。だがあれのどこを見て楽しそうだと思ったのか。俺はまだしも、氷川さんは無表情だったはずだが……。


「見てたのか?」


「いや見てないぞ。俺が見たのは2人がアイコンタクトしていたところだけだ」


 相変わらずとんでもない観察力だな。だがこうやって揶揄ってくるあたり、やはりこの状況を面白がってるようにしか思えない。まあ、小声で言ってくるのは春馬なりの配慮なのかもしれないが。





 昼休み。俺と春馬はいつも通り屋上へ向かおうと、教室を出ようと立ち上がった瞬間、氷川さんに話しかけられる。


「お昼、私もご一緒して構わないかしら?」


 何考えてるんですかねこの人?なんでそんな目立つことしちゃうわけ?後で山﨑さんも来る予定だし、俺たちが山﨑さんと繋がっているのがバレるのはあまり良くない。そう思い断ろうとするが、


「いいぜ、ちょうど話したいこともあったしな。いいだろ優心?」


 こいつも何してくれちゃってんの?なんで断れない状況作っちゃうわけ?俺は春馬に非難の視線を向ける。


 あ、こいつ確信犯だ。目が爆笑してやがる。面白くなりそうだと思ってる目だ。

 これを断ってしまうと俺の立場が悪くなり、いずれ証拠を出す時に不利になってしまう。それならまだこの関係がバレる方がマシだな。


「分かった。でも後でもう1人来るからその人にも確認していいか?」


「もちろんよ」


 その場で俺は山﨑さんにメッセージを送る。返事はすぐに返ってきた。


「もっちろん!それにあーちゃん多分私たちの関係気付いてるよ?」


 まさかの情報とともに了承の返事が来る。

 俺は頬を引き攣らせながら、


「大丈夫だって。それじゃあ行こうか」


「無理言ってごめんなさい」


 氷川さんは申し訳なさそうに謝るが、俺はこの人こそ確信犯だったんだなと思いながら早歩きで屋上に向かった。






 山﨑さんが、「あーちゃん、やっほー」なんて呑気に挨拶をしながら入ってきたところで話を始める。


「氷川さんは俺たちがこうして集まってたことを知ってたのか?」


「そうね。いつだったか、雛がお手洗いに行った時にあまりにも遅いから様子を見に行ったのよね。周りに聞いてみたら、屋上の方に向かったって言うから行ってみれば貴方たちがいたのよ」


 初めて会った日じゃん。最初からバレてたのかよ。なんというか、無駄な心配だったな。

 うん?待てよ。あの日のことが見られてたってことはもしかして会話の内容も………


「てことは、まさかあの時の話も」


「ええ、大体聞いていたわ」


 うわぁぁぁぁぁ、めっちゃ恥ずかしいんだけど……。なんか氷川さんと話すようになってから恥ずかしい思いしてばっかりだな。全然かっこいいところ見せられてない気がする。恋愛感情とか抜きにしても、男って生き物は女の子の前ではカッコつけたいものだからね。


「でもどうして急にお昼を食べようだなんて言い出したんだ?」


「………最近、雛がいないことが多くて少し寂しかったのよ」


 そう言われた山﨑さんは大袈裟に胸の辺りを押さえて、


「あーちゃん、キュンです」


 それ古くないか?


「それ古くないかしら?」


 氷川さんが代弁してくれました。


「だってあーちゃんが可愛かったんだもん」


「仕方ないじゃない。雛は理由、分かるでしょ?」


「分かるけどー………あ、そうだ!」


 山﨑さんが何かを思いついたみたいだ。でも何故だろう。嫌な予感しかしない。


「じゃあさじゃあさ、あーちゃんも一緒にここで食べればいいじゃん!」


 今日俺は何回度肝を抜かれればいいのか。やめて!優心のライフはもうゼロよ!


「あら、それいいわね」


「でっしょー?2人はどう思う?」


「俺は構わないぞ。優心もいいだろ?」


「あ、ああ。大丈夫だよ。先生にも伝えておかなきゃな」


 あくまでもこの場所は先生に許可をとって借りているからな。まあ、増えるのが氷川さんだから問題は無い思うけど。


「おう、頼んだぞ優心」


「何言ってんだ、お前も行くんだよ」


「え、なんで」


「お前さっき教室で何した?あの状況、面白がって悪ノリしたよな?」


 こいつは何がなんでも道連れにしてやる。


「いや、あれは」


「説教と先生への説明どっちがいい?」


「先生に説明します」


 どんだけ俺の説教嫌なんだよ。昔から事あるごとに説教してたけど、大抵は今日みたいな春馬の悪ノリが原因だからな。


「ハル、懸命な判断だよ」


 隣で山﨑さんがサムズアップしている。この間の説教がかなり効いたらしい。


「私も説明しに行くわ。私のために説明してくれるんだし」


「そうしてくれると助かるよ」



 こうして、俺たちの昼食に彩りが加わることが決まった。





お読みいただきありがとうございます!

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