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隣で「おはよう」と笑う君を見たいから  作者: 山田 太郎丸
第一章 1年遅れの関係
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9.いざスーパーへ

 


 新たな出会いもあった1日が終わる頃。

 2人はこれからの生活についての詳細を詰めていた。


「でも何故料理だけはできないのかしら?」


「いやぁ、何故と言われましても………」


 今までしたことが無いからである。

 いや、正確には一度だけある。

 じいちゃんと暮らしている時に、家事をそつなくこなすものだから料理も試してみないかと言われたことがある。

 その際危うく家を燃やしかけ、料理への適性のみ皆無であることが判明。

 それ以来、台所には経っていない。


 後見人の大和さんという方が調理器具を一通り買ってくれたにも関わらず、今日この日までただの一度も使われることはなかった。今まですまんかった。


「昔、一度だけした時に手ひどい失敗をして、それ以来じいちゃんに禁止されてきたんだよ」


「その失敗の内容を聞いてもいいかしら?修正できるかもしれないし」


「火の加減をミスって家を燃やしかけた」


「私の手には負えないわ。絶対に台所には立たないで」


 一瞬で匙を投げられた。


「そうだ。料理の話で思い出したんだが、買い物はどうする?」


「料理するのは私なんだから私が行くわよ。それに、何が安いかなんて分からないでしょう?」


「いや、俺だってたまにスーパーぐらい行くからある程度なら分かるぞ?まあまあいい額をもらっているが、それは節約しない理由にはならないだろ?」


「あら戸張くん、なかなかいいこと言うじゃない。そういうことなら毎週月曜と木曜はお願いしようかしら」


「分かった、任せてくれ」


「それと、必要なものは毎日メッセージ送るわね」


 ところどころ俺への当たりは強かったが、彼女の負担を少しぐらい減らすことはできるだろう。


「念の為、明日は一緒に買い物に行きましょう。色々教えるわ」


「そうだな。あのスーパーは学校からも駅からもそこまで近くないから大丈夫だと思うけど、一応一緒にいるとこは見られないように少し気を使おうか」


「バレたら色々と噂されるものね。分かったわ、下校時間をずらしましょう」


「悪い、助かる」


「私も噂されるのはあまり好きじゃないもの。気にしないで」


 食後の心地良い時間。

 お互い打ち解けてきたので、氷川さんからの希望もありいつもと同じ口調で話そう、ということになった。

 氷川さん曰く、「違和感がすごい」らしい。俺も正直、今の氷川さんの方が話しやすい。




 翌日。



「優心、また明日な!」


「ああ、また明日、ジョージ」


 最後の授業を終え、2人は時間をずらしてスーパーに向かう。




「最後に牛乳を買って………これで全部ね」


「ありがとう。おかげで大体の値段は把握したよ」


「特売の日はちゃんと覚えた?水曜が卵で木曜がお肉よ?」


「大丈夫。タイムセールの時間もバッチリだ」


「なら帰りましょうか。下校時間のピークはとっくに過ぎてるし、一緒に帰りましょう?」


 ぐっ、なんて可愛い提案だ。さすがに断れないな。


「分かった。荷物は俺が持つよ」


「いいわよ、大して重くもないし」


「今日は色々教えてもらっちゃったし、そのお礼ってことで」


「そういうことならお言葉に甘えようかしら」


 表情一つ変えずそう言う。まだ完全に気を許されてるわけではないか。そうは言っても学校からは20分、マンションからは10分ぐらいの場所にあるから大した距離ではないが。

 そうして俺たちは帰路に着く。………が、誰かに尾けられてるな。()()とは別のやつか?

 マンションが近くなってきたところで、


「ごめん、氷川さん。用事を思い出したから先に帰っててもらえるか?」


「? 分かったわ。あまり遅くならないようにね」


「大丈夫、すぐ終わるから」


 彼女を先に帰宅させて俺は曲がり角で待ち伏せる。



「俺たちを尾けまわして、何か用でもあるのか?」


「ひょわあぁぁぁぁあっっ!?!?!?」



 いや驚きすぎだろ。

 そうして姿を現した尾行者は、うちの高校の制服に身を包んだ小柄な少女だった。


「すっ、すみません!悪気があったわけじゃないんです!」


「ならどんなわけがあったって言うんだ?」


「いえ、そのぅ……氷の女王と呼ばれる氷川先輩と悪い意味で有名な戸張先輩が、仲良さそうに買い物してるところを見てつい気になって……」


 初対面で随分な言いようだなおい。

 いや、どこかで見たことがあるような…………気のせいか。同じ学校なんだから見かけたことがあるだけだろう。


「あっ、自己紹介がまだでしたね。私は1年の秋津優奈っていいます。よろしくお願いします」


 とりあえず悪いやつじゃなさそうだな。


「ああ、よろしく秋津さん。それとこのことは誰にも言わないでほしい。俺も氷川さんも噂されるのはあまり好きじゃないからな」


「もちろんです。その代わりと言ってはなんですけど、今度氷川先輩にもご挨拶させてもらえませんか?なんたってあの氷の女王様ですからね。あんなに可愛くて堂々としている人、同じ女性として憧れるので!」


 興奮したようにそう言う。入学したばかりの後輩にも広まってんのか、その話。


「そのうちな」


「ありがとうございます!…なんか、戸張先輩ってうちのお兄ちゃんに似てるんですよね」


「お兄さんに?」


「はい、しばらく会ってないんですけど。その優しそうな目元とか特に」


 なんか照れるな。まして後輩に言われると尚更に。


 その瞬間、冷たい空気が背中を抜ける。


「戸張くん?ずいぶん遅いと思ったら、後輩の女子とお喋りなんていい度胸してるじゃない」


「ひ、氷川さん?荷物は、どうしたんだ?」


「そんなのとっくに置いてきたわよ。あまりにも遅いから見にきてみれば、あなたって人は……」


 めちゃくちゃ怒っていらっしゃる。

 もうそんなに経っていたのか。スマホを見ると、既に30分以上話し込んでいた。

 そして当の秋津さんはと言うと、


「す、すごい……。顔ちっちゃ……目も大っきい……。1つしか年齢が変わらないのにレベルが違いすぎる……」


 芸能人を見たかのように褒め称える。さすがの氷川さんも分かりづらいが照れているようだった。


「そ、そんなに褒められるとちょっと照れるわね」


 よし、怒りはこれで収まっただろう。


「それで?戸張くん、弁明は?」


 ダメだった。

 学校での冷たい表情に似ているため、本気で怒っていることがわかる。


「秋津さんが俺たちのことを尾行してたんだよ。誰か尾けてきてるのは分かってたけど、氷川さんに余計な心配はかけたくなかったしね」


「その結果がこれ?…はぁ、呆れた。よっぽどその子…秋津さん?のことを気に入ったのね?」


「はう………氷川先輩に認知してもらえてる……」


 秋津さん、ちょっと黙ってようか。


 それから俺は、なぜかとても怒っていらっしゃる氷川さんと若干トリップしていらっしゃる秋津さんに挟まれながら帰宅した。

 もちろん氷川さんにはこってり絞られた。






 パシャッ。





お読みいただきありがとうございます!

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