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更新遅くなりました。

<(_ _*)>ゴメンナサイ

「ルイザ様、またジルトニア大公家の末裔だという人物から遺伝子鑑定の依頼が届いておりますわ」


書斎にて、転移郵送されて来た郵便物に目を通していたカレンがルイザに言った。


「おや、またかい?ジルトニア大公家の末裔だなんて眉唾(まゆつば)ものだね。ジルトニア大公家の正当なる血筋は今はハイラント王家にのみ受け継がれている稀有な血脈だというのに。この者はその意味がわかっているのかねぇ?」


「もしこの方の言っていることが本当ならば、ジルトニア大公家の庶子かハイラント王家のご落胤の子孫だということになりますものね」


カレンがそう答えるとルイザは肩が竦める。

バキッと関節が鳴る音がするのは高齢で体が硬くなっているからだ。


「今さらそんなものを明らかにしてどうするつもりなのか。自分も王族だ、とでも言いたいのかねぇ。いっそのことカレンのスキルを使って調べてみるかい?」


「スキルを用いたとしても、初見ではわかりませんわよ。ジルトニア大公家の魔力のサンプルでもあれば確かめられますが」


「無理だね。そんなものが一介の魔術師が手に入れられるわけがない。よってこの依頼は受けかねると返事をしといておくれ」


「かしこまりました」


カレンはスキル持ちであった。

スキルとは生まれながらにして持つ特別な能力のことで、カレンは魔力を匂いで感知、個人の識別ができるのだ。

そして自分の魔力と気配を“無”にすることができるという、悪戯をする悪ガキか隠密スパイしか得をしない、一般人のカレンにしてみれば無用の長物であるスキルを持っている。


そのスキルで助けられたこともあれば、傷ついたこともある。

元夫のハルクとの結婚生活に耐えられなくなったきっかけもこのスキルが働いたせいであった。


カレンは過去に思いを馳せ、返信を書く手が止まってしまう。


ハルクは、兄の友人だった。

兄を通してハルクと出会ったのだ。


カレンの脳裏に、あの日の記憶が次々に思い浮かぶ。





突然の事故で両親を亡くし、兄ひとり妹ひとりの二人三脚で遺された男爵家を切り盛りしてきた。

兄のグレイドは爵位を継ぐ際に王国に剣を返上し騎士を辞めたのだが、その騎士時代の繋がりで、兄妹で出席した茶会や夜会などでよく声を掛けられた。

ハルクもそのうちのひとりだったのだ。


『グレイド、久しぶりだな。元気にしていたか?』


『ハルクじゃないか!これは珍しい人物が居たものだ。外見に反して華やかな場が苦手なお前と夜会で顔を合わせるなんてな』


『転属を命じられて第二王子殿下の配下となったんだ。だから苦手でも嫌でも仕事の一貫としてこういう場に出なくてはいけなくなったんだよ』


『第二王子殿下の?それはすごい!おめでとう、出世したなぁ!』


『出世なんて大層なものじゃないんだ。……そちらのご令嬢は?』


その時、ハルクは兄の側で静かに佇むカレンに視線を向けた。

ふとハルクの青灰色の瞳と視線が重なり、カレンは小さく肩が揺れる。

兄の補佐で忙しく過ごしてきたカレンは同年代の令嬢よりも明らかに男性慣れをしていなかった。

それなのにいきなり雑誌から飛び出してきたような見目の良い男性を前にして、戸惑いを感じるのも無理はないだろう。


兄グレイドは『あぁ、』と言って嬉しそうにカレンを見遣る。


『妹のカレンだ。どうだ、美人だろう?東方の国では美しく愛らしいことを“可憐”と言うそうだが、それはまさしくウチの妹のことを指すのだな』


などといきなりとんでもない身内の盲目フィルターがかかった紹介をするものだから、カレンは慌てて兄の袖を引いて控えめな声で抗議した。


『ちょっと……お兄様!バカで恥ずかしいことを言わないでっ……!』


『バカで恥ずかしいこととはなんだ。本当のことを言ったまでじゃないか』


『何が本当のことよっ……それがバカな発言だと言っているのっ』


『バカな発言なんかじゃない、我が妹は賢くて美人で気立てが良くて性格がいい、どこに出しても恥ずかしくない令嬢だ』


大真面目な顔でさらに妄言を吐き出す兄に、カレンは精一杯の社交スマイルで告げる。


『もうお黙りになって?(それ以上口を開いたら許ないわよ)』


その様子を見ていたハルクが徐に吹き出した。


『……ぷっ……!』


カレンは兄と共にハルクの方へと視線を向ける。

兄妹の視線を受け、ハルクは笑いを堪えるようにしながら言った。


『いや申し訳ない。兄妹仲がいいんだなと思って。俺にも兄が二人いるがこんなに遠慮なく言い合える関係なんて、兄妹といえど珍しいんじゃないかな?』


それに対して兄が言う。


『そうか?ウチではこれが日常だぞ?我が妹は口が達者だからな』


自慢げに言う兄にカレンは思わずジト目を向ける。


『それ、褒めてるつもりじゃないでしょうね?』


『もちろん、褒めてるに決まっているだろう』


『もう!ホントにお兄様ったら!』


『ぶはっ……!あははははっ』


兄と妹のやり取りにとうとう堪えきれずに笑ってしまうハルクを、カレンは居た堪れない気持ちで見つめることしかできなかった。


その時はそのまま少し雑談をしてハルクとは別れた。

もうハルク・マクレガーという兄の友人とは会うこともないだろうと思っていたカレンだが、その後不思議と至るところでハルクと遭遇したのであった。


そして言葉を交わしているうちに仲良くなり、それを知った兄がハルクにカレンとの縁談を打診したのであった。




ちなみにジルトニア大公家の血を引く云々と言った人物。

他所で鑑定した結果、赤の他人であることが判明したそうな。

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