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夢見がちな脳

作者: 雉白書屋

 その病院にはある秘密がある。

 夜中、決められた時刻。一秒も違えずにドアを開けると繋がることができる不思議な部屋。

 そこは番号なき解剖室。解剖台の上には新鮮な遺体。周囲には揃えられた器具。必要なものは全てある。

 そしてそれを使うのは、その部屋に足を踏み入れた六人。

 彼らはクリスマスの七面鳥にがっつくように遺体を弄ぶ。時にジョークを交え、採血した血液をワインのように揺らしながら。


 部屋を出て、ドアを閉めればそこは元々あった部屋。遺体も、床に飛び散った血もない。そう、初めから何もなかったかのように。

 しかし、手に確かな感触が残り、脳はとろけるような思い。

 また翌日の夜、決まった時刻にドアを開ければ、そこには遺体が。

 咎められることはない。その行いを知らない他者からはもちろん、自分の良心にも。

 腕を磨くために遺体を切り刻む。彼らは研修医。この部屋の話は代々、伝えられてきた。ただし一部の間で。つまりこれを知る自分たちはエリート。選ばれし者。特別。

 その選民思想が今夜もまた、彼らをあの部屋へと駆り立てる。

 談笑しながら廊下を歩くその顔は余裕と自信に満ち溢れている。研修に入って間もない頃の初々しさはとうに消えた。医者からもよく勉強していると褒められている。あの部屋のお陰だ。


 しかし、この夜はいつもと勝手が違っていた。解剖台の上に横たわるのは若い女。男共はヒューと口笛を鳴らす。

 この前みたいに乳首を切り取って口の中で転がすのはやめてよね、と女たちは呆れながら言う。

 全員の笑い声が部屋に響く。

 騒いでも問題ない。特別な空間だ。誰にも聞こえやしない。

 しかし、全員静まり返る。

 気づいたからだ。女の腹のふくらみに。

 そしてそれが動いたことに。


 彼らは順調に道を歩んでいる。

 しかし今、顔に浮かべたその笑みは……。

 医者の卵。その殻が割れる時。そこから這い出てくるのは果たして……。




 ……と、目が覚めた。

 なんともホラーテイストな夢だった。

 ベッド脇の時計を確認すると奇しくも夢で言っていた時刻と同じ。嫌な気分だ。

 彼らはあの後、どうなるのか。続きを見る気にはなれない。俺は血生臭いのが苦手なのだ。

 確かに女の裸は見れた。しかし、遺体では色っぽさもない。そもそもすぐに切り刻まれた。我慢すればまた違っていただろうが、耐え難い。吐き気がする。

 俺が見たいのは美女に囲まれる夢。

 もっと陽気な雰囲気で……。

 世界一の美女……。

 美女美女美女……。




 三人の子供のおもちゃ箱と八個、ポリバケツのゴミ箱をひっくり返して混ぜたような島があった。

 人種、職種混ぜっ返し。成長途中と言えば聞こえはいい。

 暑い島。サンバのBGMが似合い、活気づいてい……少々盛り上がりすぎだ。

 そこかしこでする笑い声と喧嘩の声。その喧騒に巻き込まれそうになりながらも、なんとかかわす男。

 彼の名はイーサン。彼は息を切らしながら自身が勤めるホテルに辿りついた。

 すでにシャツのボタンは取れ、家を出る前に整えた髪は乱れている。だが、これでも慣れたほうだ。島に来た当初よりは。


「イーサン! そんなところでサボッている暇があるなら客を取って来い!」


 今来たばかり……なんて話は通じない。丸々太ったオーナーは怒鳴ることが趣味だ。しかし、ここ数ヶ月はいくら怒鳴っても彼のイライラは解消されない。

 その原因は新しくオープンしたホテル。この島でホテルがオープンすることはそう珍しくない。潰れる事も。浜辺の砂の城のように、作っては壊されまた作られてというのはホテルに限らずの話である。

 イーサンの勤めるホテルの周りの店はこの数ヶ月の間に続々と閉店している。と、言ってもほとんどが移転だ。このめまぐるしく変わるこの島では中心部、栄える場所までコロコロ変わる。渡り鳥のようにその後を追っているのだ。

 このホテルがあるこの場所もかつては一等地だった。その時、イーサンはまだこの島にやって来ておらず、このホテルの栄華を知らないがもし当時に面接に来てたら『お前などいらん』と放り出されていただろうから、どの道知ることはなかっただろう。

 オーナーはあの時の栄華を忘れられずに今も待ち続けている。この場所がまた一等地に返り咲くと信じて。


「おい、イーサン」


 オーナーが呼びつける。力を振り絞り、作ったような笑顔を浮かべて駆け寄るイーサン。話を終えた頃にはその笑顔も完全に消えた。

 オーナーより、ある任務が与えられたのだ。

 このホテルのライバル。ホテルアマンジュ。その地下の広く、豪華な部屋にはある人物、いやある猫が泊まっている。

 ある国の女王陛下の猫だ。またとない美しい猫で世界一との呼び声が高い。

 それを誘拐して来いと言うのだ。

 うまく行けばアマンジュの評判はガタ落ち。迷い猫を保護したと吹聴すれば感謝され話題に。客足が戻るかもしれない。実際、うまく行けばその通りになるだろう。うまくいけばだが。


 その後、猫を巡ってイーサンは争いに巻き込まれる。島の端のかつてのリゾート予定地がイーサンの住まい。広いが施工途中に計画が頓挫したため、屋根はドヤ街から持ってきたトタン板。

 そこに帰ってきたイーサンは猫を置いて一息。上手く行ったもののどうするかと考え込むところで襲撃が。

 

 真珠店経営の中国人一家は母親が鎖分銅使い。

 その双子の娘は青龍刀使い。

 全裸の侍に雇われ者の殺し屋。そして、島のベトナム系、ユダヤ系、アフリカ系の三勢力のマフィアからイーサンは命を狙われることになる。

 ゲイカップルの友人に助けられつつ逆に、馬車強盗からとあるお嬢様を助けたりと、まさに、この島のように波乱万丈ドタバタで……。




 ……と、目が覚めた。

 確かに世界一の美女の夢を見たいと願ったが、まさか雌の猫とは。いや、先を見ていれば拝めていただろうが、どうも最近、眠りが浅く、途中で目が覚めてしまう。

 さてまだ夜は明けていない。もう一回チャレンジだ。

 静かな夢がいいな。目覚めないように……それでいて美女……もちろん人間の。ああ、でも元気な子がいいな。最近、疲れているからな。グイグイくる子がいい。

 ふふん、俺を取り合って争ってしまってもいいなぁ。

 そう元気な美女……人間の美女……。





 弱々しい電灯。ジーと音を出しチラついている。

 と、思ったらフッと消えた。でも構わない。頼る気もない。煌々と点いていたとしたら彼女はたたき割ってでも即消していただろう。

 暗い部屋。リビングルームだろう。出入口は三つ。乱雑に置かれた家具。その古びたテーブルの下に身を隠し、息を潜める。

 手は自然と口を覆っていた。わずかな息さえも漏らすのが恐ろしい。見つかってはいけない。そんなことになったらどうなるか彼女の友人たちが示してくれた。

 彼女の脳裏に彼らの死に様が鮮明に蘇り、吐き気が込上げてくる。

 嗚咽を堪え、聞こえたのは床がきしむ音。

 静かで重い足音だ。奴だ。奴が来る。

 ドアが勢いよく開いた。

 彼女と違って息を潜める必要はないその態度。それが奴がこの場の強者、捕食者であることを示している。

 彼女はただただ祈る。見つからないようにと。


 ……奴が部屋から出て行った。

 助かった……。ホッして息が漏れる。

 転がる埃。その時ハッと気づく。

 静けさの中にある呼吸音。

 彼女以外の……。

 彼女がゆっくりと後ろを振り向く。

 そして……。



「きゃああああああああ!」「きゃああああああああ!」「きゃああああああああ!」


 上がる悲鳴!

 それに引き寄せられるように足音が迫る!

 そしてタイミングよく明かりがパッと点いた!



「きゃあああああああぁぁぁぁ……あ?」

 

 奏でた三重奏はそこで終わり湧き上がった疑問が口をつく。


「……誰?」「……誰?」「……誰?」

 重なる声と疑問。

 それは殺人鬼も同じであった。


 彼女たちがテーブルの下から顔を出し、見たもの、それは……。

 三角形を作るように三つの部屋の出入り口に立つ三人の男。その手にはそれぞれ武器が握られている。

 斧を持った大男。

 ナイフを持ち、女の顔の仮面、長く海藻のような髪の男。

 顔中傷だらけの初老の男、両手には鉈が握られている。

 その表情……読めはしないが、戸惑いがわずかに覗える。


 全員は思う。

 なんということだ。

 まさか、鉢合わせてしまったのか。


 この夏! 超話題作決定!

 ホラー映画のヒロイン三人が一同に会する!

 果たして生き残るのはどのヒロインか!

 そして刈り取るのはどの殺人鬼か!

 殺人鬼同士のスプラッターバトル!

 そしてヒロイン同士の蹴落とし合い! 史上最も過酷なサバイバル!

 真のヒロイン! 真の殺人鬼は誰かあああああぁぁぁ!


「え……あなた……まさか四人目の――」




「もういい加減にしてくれ!」


 俺はベッドから飛び起きた。

 呆れるしかない。この夢見枕というものは微弱な電波が脳を刺激し好きな夢を見れるのだが毎回、ああして広告が入るのだ。

 しかも、このように一度起きればリセット。また広告から始まりだ。

 一応、本人が興味ありそうな広告を選んでくれているようだが見た夢の衝撃が強すぎて、希望する本編までたどり着けない。

 今日は寝つきが悪いというのに……。

 あぁ、やはり有料会員になるしかないかぁ……。

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