一歩の大きさ 【月夜譚No.220】
夢は、叶えようとする姿勢が大切なのだ。幾ら強く想ったとしても、何もしなければ、それは最早夢とは呼べないのではないだろうか。
そんな風に思いながら、彼は最初の一歩を踏み出す勇気が持てずにいた。
そう難しいことではないはずなのだ。人によっては、恐れることなど欠片もなく、もしかすると無意識にでもぽーんと踏み出せるような一歩なのだ。
けれど、彼にとってその一歩は、数メートルも離れた断崖絶壁の向こうに跳ぶようなものだった。皆には簡単なことでも、彼にとってはそれくらい難しいことなのだ。
だからといって、ここでじっとしているつもりはなかった。そこを跳ばずとも向こうへ行ける回り道を探したり、一息に行けなくても橋を作って進むように少しずつ渡る方法を考えてみたり。
しかし、まだその一歩は大きい。ちゃんと自分はその一歩を超えられるのかどうか、不安になる日もある。
それでも、諦める気は毛頭なかった。まだ一歩には届かない。勇気もない。だが、叶えようとする姿勢だけは変えたくなかった。
地道に少しずつ。彼は着実に前に進んでいた。