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第九九九話、第一遊撃部隊、突入す


「目標、敵空母!」


 神明 龍造少将は、第一遊撃部隊旗艦『蝦夷』から号令をかけた。

 ソビエツキー・ソユーズ級戦艦を大改修し、主砲に51センチ連装転移砲を搭載した戦艦『蝦夷』の主砲が瞬く。

 次の瞬間、標的となっていた敵双胴空母の艦体におよそ2トンの塊が激突し、貫き、爆発した。


「艦長、望みの近接砲撃戦だ」

「腕が鳴りますな」


 阿久津 英正大佐は不敵な微笑を浮かべた。


「砲術! 視認距離だ、外すなよ!」


 阿久津は、元々は水雷屋である。敵の懐に飛び込んでの戦闘に、何ら躊躇いもない。以前より転移砲の実戦での威力を試したいと短い距離での交戦を望んでいた男である。

 そして今、戦艦『蝦夷』は敵中にいる。


 新たな双胴空母――パゴヴノン級に主砲の照準が向く。夜間用の砲撃用レンズで直接に砲を向け、そして発砲。砲身から飛び出す寸前に転移した砲弾は、標的となった6万7000トンの空母、その片方を木っ端微塵に粉砕した。


「後方の海氷がよい目くらましになっていますな」


 藤島 正先任参謀が言った。突撃海氷艦は、見た目巨大な氷壁にしか見えない。それが艦隊内に現れれば、レーダーはまずそちらを捉え、夜間とはいえ見張り員たちも注目せざるを得ない。


 その隙を利用して神明ら第一遊撃部隊は転移襲撃を開始した。

 異世界帝国軍の巨大海氷空母六隻を撃滅すべく、カ号作戦――それを完遂したが、それでお役御免にならず利用する。神明は使えるものはとことん活用するのである。


「うまい具合にブラインドになっている」


 突撃海氷艦の巨体は、まさにカーテンとなって一部方向の敵から第一遊撃部隊の姿を隠した。戦闘音はすれど直接見えないところでドンパチが進む。


 とはいえ、異世界帝国側も無反応というわけではない。

 空母が攻撃されて、その周りにいる艦艇がただ傍観しているわけにもいかないのだ。


「左舷方向、オリクト級戦艦が転舵しつつあり!」

「第三砲塔、敵戦艦を砲撃! 第一、第二砲塔は空母を狙え!」


 阿久津艦長は指示を出す。遠距離砲戦ならいざ知らず、直線での砲撃でほぼ必中の転移砲は、砲塔からの照準でも対応可能だ。そもそもの話、砲戦距離が短くなりがちな転移砲使用時は、最強の51センチ砲を複数の敵に分けて攻撃することも想定されていた。


 発砲時の高初速を維持したままの高速弾は、安全砲戦距離外の近距離と相まって、オリクト級戦艦の装甲を貫通し、一撃で大破させる。


 邪魔になる敵を排除しつつ、目標である空母に次の砲弾を撃ち込む。

 一にも二にも、敵空母を排除すること。それがこの夜戦での第一遊撃部隊の任務である。

 異世界帝国の二千艦隊、そのうちの222隻が、双胴空母ならびにリトス級の大型空母である。さらに護衛にも同等規模の中型空母があるとなれば、その艦載機は数万のレベル。


 連合艦隊と無人艦隊、さらに基地航空艦隊を含めても劣勢なのは明らかだ。決戦を前に、少しでも敵の航空戦力を削る必要があった。

 これも一つの漸減邀撃作戦。戦力差で負けているなら、その戦力を互角に持っていくために、あらゆる攻撃を行う。


 敵アステール円盤群は、連合艦隊とムンドゥス帝国艦隊の決戦を前に絶対に排除しなくてはならなかった。そのためのカ号作戦は、突撃海氷艦の活用で円盤兵器群の母艦を決戦に先んじて叩くことはできた。


 残るは空母とその艦載機であるが、神明がアステール円盤群と巨大海氷空母を破壊しただけで済ませるような男ではない。

 巨大海氷空母をするため、水上機母艦『早岐』の偵察航空隊を敵中へ突入させたが、点在する目標に向かう間にも要所要所で転移中継ブイを投下させていた。


 そしてカ号の目標を達成した段階で、非常時のために待機させていた戦力――第一遊撃部隊の本隊を以て、第二段作戦を開始したのだ。

 飛び込んだ第一遊撃部隊の戦力は、以下の通り。



●第一遊撃部隊:神明 龍造少将


 戦艦 :「蝦夷」「大和」

 装甲艦:「大雷」「火雷」

 軽巡洋艦:「夕張」「早月」「矢矧」「奥入瀬」

 駆逐艦:「島風」「氷雨」「早雨」「霧雨」「白雨」

 潜水艦:「伊600」「伊701」「伊702」「伊703」

    :「伊704」「伊705」「伊400」「伊401」

    :「呂401」「呂402」「呂403」

 空母 :「翔竜」「鳳翔」

 水上機母艦:「早岐」



 戦艦『蝦夷』『大和』の転移砲装備の二戦艦は、敵双胴空母へ巨弾を見舞う。

 その間、装甲艦の『大雷』『火雷』は三連光弾砲で敵巡洋艦を砲撃して戦艦を護衛する。転移砲ではないが、シールドを貫通するその威力は侮れない。

『夕張』『早月』も14センチ砲ながら転移砲を活用し、敵軽巡をシールド無視の打撃を与えている。


 一方、『矢矧』と『奥入瀬』の主砲は、通常の光弾砲である。これでは巡洋艦以上の艦艇のシールドを破るのは困難だ。

 だからその相手は、防御のない敵駆逐艦が相手となる。速射性と命中精度、それを武器に『矢矧』と『奥入瀬』は走り回り、集まってくる駆逐艦の艦首砲や艦橋を粉砕して、敵の包囲接近を許さない。

 駆逐艦部隊もそれに随伴して軽巡を援護する。


 対して伊600を始めとする潜水艦は、また別の転移地点に現れては潜航。障害である敵駆逐艦を排除しつつ、鹵獲流用品であるシールド貫通魚雷を用いて空母撃沈に動いていた。


 解析、そして日本海軍流に開発が進んでいる貫通魚雷だが、正式な配備には間に合わず、それならばと撃沈潜水艦から回収した魚雷をそのまま使うのである。


 敵艦の防御シールドに命中しても、爆発せずゆっくりとシールドを抜けて目標に命中。リトス級大型空母ですら大穴を開ける新式爆薬の効果も相まって、パゴヴノン級やリトス級といった大型艦が次々に艦体をもぎとられ、大破、沈没していく。

 二千艦隊を食い破る第一遊撃部隊だが、その旗艦『蝦夷』に通信が入る。


「第二、第三遊撃部隊および、星辰戦隊、敵艦隊に突入! これより敵空母を撃滅せんとす!」

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