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第九九八話、漸減は続く


「――ふむ、そうか。わかった。ご苦労」


 ベッドの傍らの通信機の電源を切るカサルティリオ。その背中にムンドゥス皇帝は言葉を投げかけた。


「何だったのだ? 我々の営みの邪魔をしてまでの報告とは」

「海氷空母が全滅いたしましたわ」


 職務中のそれとは別の柔らかな口調でカサルティリオ総参謀長は答えた。


「作戦計画のやり直しですわね」


 早朝のトラック諸島空襲作戦は不可能になった。それを聞くとムンドゥス皇帝は枕に頭を乗せた。


「ふむ、日本軍の仕業か」

「おそらく。……六隻中一隻は、アステールの光線砲によって破壊されたようですが――」

「アステール?」

「日本軍に鹵獲された機体でしょう」


 カサルティリオの青い髪が皇帝の上に垂れる。


「残る五隻は、敵の姿がわからないまま。ただ、一分と経たずに溶け落ちたとのことですから、おそらくクリュスタロスの弱点をついてきたのでしょう」

「解氷装置か。……やるものだ」


 ムンドゥス皇帝は笑った。


「奴らも自慢の巨大海氷を我々に破られて、よほど頭にきていたのだろうな。ふははは――」


 実に愉快そうなムンドゥスである。そうでなくては張り合いがない、そう言いたげに。カサルティリオは言った。


「第五航空艦隊を呼びましょう」

「うむ……必要ないと思うが、任せよう」


 ムンドゥスは鷹揚である。


「アステール円盤群がなくとも万を超える航空戦力がある。我々は日本軍の艦隊と基地を同時に相手にしても充分な戦力を有している」

「手札は多いほうがよいのです、陛下」


 ふっと、カサルティリオはムンドゥスの耳元に息を吹きかけた。


「その方が楽しめます」

「余は、シンプルな強さも好みなのだがな」



  ・  ・  ・



 敵巨大海氷空母六隻の撃沈が報告された時、海軍軍令部では詰めていた軍令部員らが歓声を上げた。

 軍令部次長、小沢 治三郎中将もこれには相好を崩す。


「第一遊撃部隊は、その任務を果たした」


 アステール含む円盤群を夜のうちにその母艦もろとも葬った。敵中深くに存在し、普通であれば近づくことさえほぼ不可能な巨大海氷空母を全て撃破する所業。まさしく神明 龍造少将はやり遂げたのだ。


「実に大したものです」


 軍令部第一部長、富岡 定俊少将は頷けば、第一部課長の田口 太郎大佐は口を開いた。


「これで後顧の憂いなく、艦隊決戦に集中できますね」

「うむ。しかしここからも難題だぞ」


 小沢は表情を引き締めた。


「連合艦隊と無人艦隊。……正直、ここまでの艦隊を揃えて、なお敵の方が数で上回るなど悪夢でしかない」

「こういう時にアメリカの大西洋艦隊やイギリス艦隊も加わってくれたなら、せめて互角に持ち込めたかもしれない……。そう思うとやりきれませんな」


 富岡は言った。

 しかしその米大西洋艦隊は、イーストカバー作戦の失敗でその戦力の大半を失った。現在、バミューダ諸島に有力な異世界帝国艦隊が迫っており、太平洋艦隊が急遽転用されたと聞くが、正直それで対抗できるかといえば極めて難しいと言わざるを得ない。


 イギリス艦隊もまたブリテン奪回作戦で主要戦力を喪失。ドイツ艦隊も損害が大きく、やはり太平洋に戦力を送るどころではなかった。


「ないものは仕方がない。ある分だけで対抗するしかない」


 果たして連合艦隊は、これまでのように異世界人の艦隊を撃滅できるのか。潜水型艦艇を併用した襲撃戦法も、敵大潜水艦隊が健在の状態では不可能。第六艦隊が血路を開こうと奮戦しているようだが、海中の敵もまた強大だった。


「そろそろ、か?」


 小沢が時計に目をやれば、富岡もまたそちらに目をやった。


「おそらく。神明君なら攻撃を開始している頃でしょう」



  ・  ・  ・



『レーダーに巨大な反射反応! 艦尾方向、距離2500』

「いったい何だ?」


 オリクトⅢ級戦艦の1隻、『ラティオー』の艦橋で、報告を受け取った艦長は叫んだ。


「後方監視! 報告せよ!」

『確認中……お待ちを』


 後部監視所からの報告を待つ一方、通信士官が先に声を上げた。


『僚艦より入電。後方の物体は、巨大な海氷の模様。味方海氷空母の可能性あり』

「なに、海氷空母……?」


 先ほどから敵の襲撃を受けて何隻かやられた、という報告は来ていた。だが艦長は首を捻る。


「それが何故ここにいる? どう考えても場所が違うだろう?」

「転移ゲート艦が避難させてきたのでは……?」


 航海長がそれらしいことを言ったが、艦長はきっぱりと言う。


「移動の報告など受けていないぞ……」


 どーん、と重い爆発音がしたのは、その時だった。艦橋要員は一瞬、固まった。


「何の音だ? 爆発――」


 艦橋の窓の一角で、ぼんやりとした光がちらついた。そしてまたしても爆発音。


『第7空母群より緊急電! 我、敵の攻撃を受ける――』

「全艦、戦闘配置!」


 艦長は叫んだ後、戦況確認を行う。艦橋をはじめ艦内に響く警報に、休んでいた兵が慌てて担当部署へ走る。


「艦隊のド真ん中だぞ……。敵はどこから現れたのだ……!?」

『またやられました! パゴヴノン級四隻目、大破!』

『第7空母群より通信! 敵は戦艦が複数の模様!』

「ッ!?」


 遮蔽解除装置は働いている。では、転移で殴り込みをかけてきたというのか。少数で、大艦隊の中に。


「これが、日本軍……!」

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