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第九九七話、アリエースの最期


 突撃海氷艦が、敵巨大海氷空母を蒸発させる勢いで一隻撃沈した。

 ……否、これは沈没と言っていいのか。内部の氷以外のものが海に沈んだが、船体を構成する異世界氷は溶けてしまった。

 神明 龍造少将は少し考え、大したことではないかと思い直した。


 異世界帝国軍の巨大海氷空母群撃滅作戦、カ号作戦は順調な滑り出しと言ってよい。

 水上機母艦『早岐(はいき)』の水上機部隊が、敵のレーダーをかいくぐり、転移中継ブイを上手く設置してくれた。


 作戦の打ち合わせに従い、すでにブイ展開が終わっている残り三隻に、間髪を入れず攻撃させる。敵も、一隻がどうしてやられたのかまだ完全に理解していないだろうから。

 対策される前にやれる分をやる。


「残る二隻ですが、偵察機が間に合うでしょうか?」


 藤島 正先任参謀が時計を見やる。


「敵を多少混乱させることはできると思いたい」


 海氷空母が一隻でも沈んだら即時臨戦態勢に入るだろうが、抱えている円盤群を敵もわからずいきなり発進させる可能性は低い。それでもとりあえず上げておけ、という指揮官なら話は別だが、こちらとしては個々の指揮官の性格など把握しようがない。

 藤島は落ち着かない表情ながら呟いた。


「頼むぞ。星辰戦隊……」


 非常時に備え、待機している第一遊撃部隊。その間にも突撃海氷艦は四式水上偵察機『飛雲』の投下した転移中継ブイを利用して敵巨大海氷空母への解氷攻撃を仕掛けた。


 放射された解氷波によって瞬く間に溶けていく巨大海氷。円盤兵器と、それに搭乗しようと走るクルーも、足場を失い、真っ逆さまに海へとおちる。

 周りを航行している異世界帝国艦も、正直何が起きているかわからなかった。


 というのも突撃海氷艦は、ただの氷の壁にしか見えず、そちらの面では肝心の海氷空母が溶けていくのが見えない。

 また反対側にいる艦からは、そもそも海氷空母が突然溶けて壁の一部が残っている風にしか見えなかったのだ。


 突撃海氷艦といいながら、片側だけに解氷装置を並べた様は、格納庫の壁面の照明が並んでいるようにも見えなくもない。武装などもないため、ただの氷壁に誤認してしまうも充分にあり得た。


 そして突撃海氷艦が転移で消えると、巨大海氷空母の氷でなかった部分の一部や、生命維持装置が切れて死んだ異世界人の死体が浮いている。

 艦載機であるアステールや機関といった重量物は海に沈み、護衛部隊はただただ困惑し、上級司令部へ原因不明ながら海氷空母喪失を通報するかなかった。



  ・  ・  ・



「『レオー』に続き、『カンケル』も蒸発した模様です」


 通信参謀の報告に、第四航空艦隊司令官プドル中将は、ひどく困惑した。


「どうなっているんだ……? 巨大海氷空母が蒸発? 原因は? わからないのか?」

「残念ながら」


 通信参謀は首を横に振る。


「夜間ということもあり、敵だったのか、それすらも不明です。護衛部隊には原因の特定を要請しましたが、今のところは」

「よろしいですか?」


 ク参謀長が発言した。


「連続してやられていますから、これは明らかに敵の攻撃と思われます」

「だが敵は確認されていないのだろう?」


 プドルは顔をしかめる。


「そもそも、全長3000メートルの巨大飛行場兼空母を、一瞬で蒸発させるなど不可能だ」

「材質はクリュスタロスですから」


 クは続けた。


「我が軍の艦艇はすべて、これに対する解氷装置を装備しております。敵はクリュスタロスの欠点を掴み、こちらの使っている解氷装置を使い、海氷空母を一気に溶かしているのかもしれません」

「……」

「参謀長の仰る通り、敵が解氷装置を集中使用すれば、全長3000メートルの海氷空母とて、簡単に消滅させられるかと」


 通信参謀が言えば、プドルの機嫌は悪くなる。


「馬鹿な。解氷装置ごときで、巨大な海氷空母が溶けるだと……! そんな馬鹿な――」

「実際、日本軍は巨大な海氷を艦隊にぶつける戦法を採りましたが、こちらは解氷装置でそれを無効化しました」


 クは事実を突きつける。


「そこで巨大海氷の弱点を認識し、利用してもおかしくはないかと」

「……」


 司令塔に重苦しい沈黙が下りる。クの言葉通りであれば、この『アリエース』にも、構成するクリュスタロスを溶かす攻撃を敵が仕掛けてくる可能性は高かった。

 クは言った。


「アステールならびにコメテスにクルーを搭乗させてあります。念のため、空中へ退避させますか?」

「だが敵がいない。その正体もわからん」


 プドルは唸る。


「ただ逃げるだけのために空中へ退避させるなど――」

『北西よりアステール接近――』


 司令塔に航空管制官の報告が響き、プドルは顔を上げる。


「アステール?」

「やられた『カンケル』の機体でしょうか?」


 母艦が蒸発する前に退避できた機かもしれない。プロットボードによれば、『アリエース』に接近しつつある。


「収容いたしますか?」

「うむ。もしかしたら、敵を見ているかもしれん。――艦長、着陸許可を出してやれ」

「はい、司令官」


 アリエース艦長が航空管制官に告げる。プドルはクら参謀たちと今後の対応を話し合う。が、すぐに周りが騒がしくなる。


『依然、応答なし」

『間もなく、本艦直上』

「……何事だ?」


 プドルが振り返る。艦長が観測員に呼びかけ、兵たちが頭上を見上げている。長大な飛行甲板の一角では、着陸誘導灯が点っている。


「サーチライト、照射」


 艦長の指示で応答しないアステールに強烈な光のビームが当てられる。そして違和感に気づく。アステールの色が友軍のそれと違うことに。

 そして――


『光線砲が発光! 発射形態に!』

「馬鹿な! 敵だと!?」


 艦長が驚愕する。敵、という単語に、直上に滑り込んできたアステールが『日本機』であることに遅まきながら気づく。


「対空防御――」


 四機のアステールが、『アステール』に必殺の対地兵器である光線砲を打ち下ろした。その強烈な攻撃は甲板を吹き飛ばし、駐機されているアステールならびにコメテスを吹き飛ばし、それらをひっくり返して海へと叩き落とした。


 かつて、ホワイトハウスを一撃で破砕した光線砲の爆発は、『アリエース』の司令塔をも熱に焼き尽くし、プドル中将以下幕僚たちをクルーごと焼き殺した。

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