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第九九〇話、進撃してくる敵


 異世界帝国の円盤兵器は、マーシャル諸島ならびにギルバート諸島のマキン、ベティオ島を叩き、同地の日本軍守備隊を壊滅させた。

 悠々と進撃する異世界帝国艦隊。彼らは巨大氷山空母を複数投入し、それらを円盤兵器群の母艦として運用しているようだった。


「こちらのお株を奪われた、というところでしょうか」


 軍令部次長、小沢 治三郎中将は、連合艦隊旗艦『敷島』を訪れ、古賀 峯一連合艦隊司令長官と、その司令部参謀らと顔を合わせていた。


「こちらの基地航空艦隊の日高見と同じように、異世界氷で作った海氷飛行場を使ってきた。我々が相手をしなくてはならないのは、艦隊だけでなく、この円盤兵器群も含まれます」

「非常に厄介なことだ」


 古賀は唸るように言った。


「ただでさえアステール型は撃墜するのに限られた手しかない。しかし数で押されれば防ぎきれるか怪しいものだ。敵艦隊を迎え撃つ前に、連合艦隊は大きな損害を受けるやもしれん」


 まずは厄介な円盤兵器群とその基地を排除しなくてはならない。……連合艦隊と軍令部側で意見の一致をみる。

 草鹿 龍之介連合艦隊参謀長は口を開いた。


「マーシャル諸島が叩かれたことで、敵の次の狙いは……中部太平洋の要衝、トラックの可能性が極めて高くなりました」

「まあ、ここは敵も無視しないだろう」


 古賀は腕を組んだ。


「トラックを陥落させたら、マリアナか、あるいは東南アジア方面か。前者であれば内地の危機であるし、後者であれば南方資源ルートの遮断と、どちらにせよ危機的状況となろう」


 決戦の地は、トラック。古賀の言葉に、小沢は頷いた。


「偵察を強化しているのですが、まだ敵の全容が掴めていません」

「最初の報告にあった通り、千や二千を超える戦闘艦艇が攻め寄せてくれば、連合艦隊単独では劣勢と言わざるを得ない」

「はい。内地および各方面に展開する無人艦隊を連合艦隊に合流させ、全力をもって敵に当たるべきと、軍令部の作戦課も言っています」

「おお、それはありがたい」


 古賀は、軍令部が防衛戦力をあっさり出してくれると聞き、相好を崩した。これまでは内地防衛のため、戦力を出し渋ることが多かった軍令部である。

 だがさすがに前線を知る小沢が軍令部次長をやっているだけあって、今回ばかりは主要な戦力を遊ばせておく余裕はないと判断したのだろう。


「しかし、それでも数の上では劣勢でしょうが」

「うむ、作戦が必要だ」


 古賀は認めた。だがそのためにも、敵の正確な情報が必要だった。



  ・  ・  ・



「と、いうわけで、『早岐』にお鉢が回ってきた」


 第一遊撃部隊指揮官、神明 龍造少将は、九頭島の隣、鉄島にいて整備と補給を受けている水上機母艦『早岐』の艦長、駒田 一生(かずお)大佐と会っていた。


「敵艦隊の詳細を得るため、『飛雲』を使おうというわけだ」

「なるほど」


 駒田艦長は首肯した。


「彩雲の遮蔽では、偵察は不可能と言うことですか」

「大まかな位置や速度などは、彩雲でもやれなくはない。もちろん敵機に迎撃されるリスクがあるが」


 神明は事務的に告げた。


「だが今回はあまりに敵の数が多すぎる。遠くから一望して識別は難しい。敵艦隊に踏み込んで艦種を特定するのに、遮蔽なしの彩雲では荷が重い」

「いかに高速の彩雲でも、電探に見つかっている中で艦隊を突っ切るのは自殺行為ですからね」


 敵機を振り切る快速な彩雲だが、さすがに正面から向かいあっては仕方がない。


「四式水上偵察機はまだ生産数が少ない。配備された中で、実戦を経験しているのは、『早岐』所属の機のみだ」


 確実な情報を持ち帰るため、今使える中で、もっとも信頼できる部隊を使う。それだけのことである。


 武本重工業の航空部門が開発した四式水上偵察機は、遮蔽装置を搭載していたが、敵が遮蔽を無効にしてきたということで、対レーダー電波吸収塗装を施している。この塗装もまだ試作の域を出ていないため、実績がある『早岐』所属機が選ばれたのは必然かもしれなかった。


 そもそもの話、電波吸収塗料があるからといって、見えなくなるわけではないから、遮蔽で消えて偵察していた時ほど安全というわけではない。


「しかし、それなら、航空隊だけ出す手もあるでしょう?」


 駒田は指摘した。


「わざわざ母艦まで使おうということは……。他の機も使って、たとえば攻撃任務に就かせようというのではありませんか?」


 たとえば暁星改水上攻撃機とか。少数機による襲撃で、すでに戦果を上げており、何か狙いがあるのでは、と駒田は考えたのだ。


「具体的には、まだ決まってはいないのだが――」


 神明は言った。


「いざという時、使える戦力は多いほうがいい」



  ・  ・  ・



 いざという時とは、いつか。言い出しっぺである神明も、はっきりしたビジョンはなかった。

 彼はそれよりも別のことに思考を巡らせていたからである。


 それは、軍令部次長の小沢からの命令的な指示。


『円盤兵器と巨大海氷飛行場を葬る手はないか?』


 南太平洋から中部太平洋へ進出しつつある異世界帝国大艦隊。日本海軍は総力を上げてこれを迎え撃たねばならないが、アステール円盤兵器の大群がいては、勝利はおぼつかない。


 アステールを撃墜する方法自体はあるが、何せ数が多い。

 この円盤兵器群にはマラボゲートの際に第三航空艦隊がやられ、南米でアメリカ大西洋艦隊空母群、イギリスでは英国機動艦隊が壊滅させられた。


 今回それがギルバート、マーシャル諸島の日本軍拠点を攻撃したことから、トラックを巡る戦いでもそれを使ってくることはほぼ確定しているのだ。


 この円盤兵器群をどうにかしないことには連合艦隊も戦えない。トラックを決戦の場としてはいるが、戦線を後退させ、マリアナ、あるいは小笠原諸島での決戦にする案も出ているという。

 後ろに下がれば本土にも危険が及ぶ。つまり、円盤兵器群排除は急務と言えた。


「そうは言っても、なぁ……」

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