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第九八八話、米英上陸部隊、撤退


 英陸軍がサンタマリア島から撤退していた頃、テルセイラ島を包囲していた異世界帝国艦隊は、突然の転移ゲートに驚かされることになる。


 しかし魔法防御装置を作動させていたため、不意打ちの転移ゲートに飛ばされる艦艇はなかった。

 装甲艦『大雷』の艦長、浮田 兵八大佐は苦笑する。


「遮蔽無効じゃなかったから、もしかしたらと思ったんだがな」


 テルセイラ島を包囲する敵艦隊は、対遮蔽装置を動かしていなかった。だから『大雷』は遮蔽で近くまで忍び寄ることができた。


「だがまあ、囮としては充分か!」


 装甲艦の主砲である30.5センチ三連光弾三連装砲が闇夜を貫き、敵プラクス級重巡洋艦1隻を一撃で葬る。


 ――これで敵がいることがわかるだろう!


「『大雷』浮遊! 敵艦隊から距離をとれ!」


 水上航行からエ一式機関による飛行に切り替える。ゲート戦法を試すために必要以上に接近しているため、敵から距離を取らねばならない。


「防御障壁、作動! 敵にこちらの姿をチラ見せしろ!」


 こちらは『蝦夷』や『大和』のように戦艦相手に対抗できる武装は少ない。敵のヴラフォス級旧式戦艦は、装甲艦の砲火力では強敵であり、数で圧倒的に劣勢。真面目に戦えば損をするだけだ。


 退避に移る『大雷』に、異世界帝国艦隊はすぐに反応した。転移ゲートを使われ、さらに不意打ちで巡洋艦1隻が失われたのだ。このまま放置などできようはずがない。


 夜間空母より待機中の夜間攻撃隊を出す。各空母が動き出した時、側面からの一撃がグラウクス級軽空母群を襲った。

 水上機母艦『早岐』から放たれた暁星改第二小隊四機が超低空で侵入、攻撃したのだ。転移爆撃装置により予備弾を多く使用できる暁星改は、手当たり次第に誘導弾を撃ち込み、軽空母を真っ先に始末して回った。


 夜間空母がやられた時点で勝負あったのだが、念のため全ての空母を夜のうちに破壊する暁星改。

 空母『鳳翔』航空隊の陣風戦闘機が、テルセイラ島上空の敵夜間機を襲撃する中、収容隊も動き出す。


 大型巡洋艦『早池峰』、特務艦『鰤谷丸』『牛谷丸』、他特務補給艦3隻の甲板に並んでいた虚空特殊輸送機が垂直離陸を行い、テルセイラ島へと飛んでいく。これらはアメリカ海兵隊の残存部隊の救出に向かう。


 こちらもサンタマリア島の英陸軍撤収と同様、合流地点まで虚空部隊が迎えにいく。海兵たちを定員まで収容し、飛び上がる。そしてそれぞれの母艦まで転移。お客さんを降ろした後は、再び島へ戻る。

 そんな虚空輸送機のとある小隊は、一列に目的地へと飛ぶ。


「機長! 敵は対遮蔽無効装置を作動させた模様です!」


 副操縦士が、暗視ゴーグルで目視できる僚機を見やり叫んだ。


「ちっ、そのまま遮蔽に気づかずにいてくれればよかったのに」


 舌打ちする機長。副操縦士は言った。


「これでこちらも対空電探に引っかかりますかね……?」

「だとしても、制空権はこっちのものだ。やることは変わらん!」


 空母をやられて敵機は飛んでこない。ふと、機長が右手方向に目をやれば島でいくつもの爆発が見えた。


「翔竜の戦爆隊だな。地上攻撃をしてやがる」


 暴風戦闘爆撃機の一個中隊18機が、海兵隊撤退のための援護を行っているのだ。


「頼むぜ……。こっちは丸裸の輸送機なんだからな」


 やがて、海兵を乗せて退避する味方機とすれ違い、篝火の焚かれた合流地点に辿り着く。暗視モードを調整。照明がまぶしくてたまらない。


 誘導員の誘導灯に従い、ふわりと機体を下ろす。ランプを開くと、アメリカ海兵隊員たちが足早に入ってくる。英語が飛び交うが、前の面々を見ていたからか、スムーズに入って簡易シートについたり、天井のフックに捕まったりする。機付きの乗員が収容人員いっぱいを確認すると機長に合図してランプを閉じる。


「四番機、発進する。母艦に帰投」


 海兵隊員の生き残りたちは次々に回収され、テルセイラ島を離れる。彼らの戦いはひとまず終わったのだ。

 無事なことを感謝し、倒れた戦友に涙し、中には見捨てた艦隊に恨み事を言う者もいた。

 しかし彼らはのちに知ることになる。自分たちの上陸を支援し、逃げたと思った第66任務部隊が全滅したことを。



  ・  ・  ・



 第一遊撃部隊各艦はサンタマリア島、テルセイラ島それぞれの回収作業が済んだ後、無人であるサンミゲル島に転移、集合した。

 敵戦艦を引きつけていた戦艦『蝦夷』『大和』を率いていた神明 龍造少将は、収容隊を含め、沈没した艦なしで全艦が健在なのを確認する。

 収容隊からの報告を受けた藤島 正先任参謀は、神明にその内容を伝える。


「英軍、米海兵隊ともに、人員は上陸時のおよそ半分といったところですね」


 敵の艦砲射撃と空爆。その後の上陸部隊との戦いは熾烈を極めたらしい。


「人員を優先したので、重装備の類いは放棄。まあ、撤収前に、持ち込んだ戦車や重砲は全滅していたらしいですが」

「……」

「比較的早い撤収だったため、兵の中で栄養失調になっている者はいないそうです。ただもう数日遅ければ食料も不足していたようで、今は腹一杯食べられる食堂はありがたいと」

「それはよかった」


 神明はそうコメントした。藤島は頭をかく。


「敵が大挙上陸した今、あと何日生き残れたかはわからなかった、というのが本音みたいですね」

「全滅する前に救助できてよかった」

「輸送機による空中からの救出……。飛行場が残っていたなら、他の軍でもできたのでしょうが」

「いや、日本軍(われわれ)にしかできなかったよ」


 神明は言う。垂直離着陸可能な虚空特殊輸送機だからこそ、空母もどきの輸送艦などに人員を下ろすことができたのだ。

 島の飛行場が無事だったとしても、味方勢力圏からアゾレス諸島に往復できる機を大量に用意できたかと言われると疑問符がつく。


 やはり、迅速かつ生存者全員を収容できたのは、日本軍だったからであろう。

 また、その収容作業の裏で、包囲艦隊を引きつけた水上打撃部隊、そして敵潜水艦退治と側面雷撃で敵高速艦を沈めた潜水艦部隊の活躍もまた、忘れてはいけない。


「『蝦夷』と『大和』で戦艦を何隻沈めたんでしたっけ?」

「七、八隻は確実だろう。相手は旧式艦だった」


 サンタマリア島を砲撃していたヴラフォス級旧式戦艦部隊は、結局最後は『蝦夷』

『大和』から逃げた。代わりに重巡洋艦や軽巡洋艦が押し寄せてきたが、護衛と潜水艦、さらに砲を向けた戦艦二隻を前によって大打撃を被る結果となった。


「では、敵さんがここに気づく前に第一遊撃部隊も撤収しよう。目標、ノーフォーク」


 第一遊撃部隊、サンミゲル島より転移。アゾレス諸島は、異世界帝国軍が再奪回を果たすこととなる。

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