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第九八七話、陽動と兵員収容


 サンタマリア島周辺海域で、戦艦『蝦夷』『大和』が発砲した頃、水上機母艦『早岐』から射出された暁星改攻撃機が夜間低空で戦闘海域に侵入。敵空母への攻撃位置に到着していた。


 上陸支援を行っているグラウクス級軽空母群は、夜間ということもあり1隻を除いて休息と朝以降の出撃に備えて待機中。

 そこに一個小隊四機の暁星改が、失速しない機体特性を活かして海面の上を撫でるように接近。対艦誘導弾を撃ち込んだ。


 護衛艦からの通報で警報を発した時には、誘導弾が軽空母の中で炸裂していた。格納庫内の機体がたちまち誘爆し、夜の闇の中、巨大なキャンドルの如き炎が浮かび上がる。

 それを呆然と見守る駆逐艦の乗員。艦長が怒鳴る。


「攻撃だぞ! どこからだ!? レーダーはどうしたか?」

「それが反応ありません――うわっ!?」


 駆逐艦に、暁星改の放った小型誘導弾が艦橋を吹き飛ばした。レーダー吸収塗料で塗られた暁星改は、異世界帝国側のレーダーにほぼ映らない。映ったとしても、その反応はあまりに微弱であり、よくよく観察しないと見逃すほどだ。


 空母がやられ、混乱する一方、艦砲射撃を島に撃ち込んでいたヴラフォス級旧式戦艦群も、『蝦夷』『大和』の巨砲から放たれた砲弾が直撃し、派手に吹き飛んだ。


 51センチ弾、46センチ弾からすれば、ヴラフォス級の対34センチ砲装甲など、巡洋艦のそれに等しい。砲塔を的確に抜いた精密誘導砲弾は、戦艦の弾薬庫を誘爆させ、あっさりと爆沈させた。

 これにはサンタマリア島上陸部隊と支援艦隊は慌てる。彼らの掴んでいないところで地球軍が忍び寄り、奇襲を仕掛けてきたのだ。


「敵の発見を急げ!」


 支援艦隊司令官が声を張り上げる。だが夜間ではあり得ないほどの遠距離砲戦を仕掛けられた上、空母群が敵航空機らしきものに接近を許し、敵情把握に手間取ってしまう。


「夜間空母は何をしているか!?」

「すでに被弾して大破……。大炎上中です!」


 空母戦隊に1隻含まれている夜間作戦用空母。しかしそれは、暁星改によって他の空母同様、真っ先に叩かれていた。飛行甲板に待機していたナイトオウルは発艦前に潰され、僅かに飛んでいたランビリス攻撃機も、ただただ上空に彷徨う。


 否、敵の捜索はできるのではないか? 陸用爆弾を使い切った攻撃機だが、そのパイロットは戦艦戦隊を攻撃する敵――おそらく戦艦級を目視し、艦隊に報告すべきではないかと考えた。


 爆弾はなくとも光弾砲がある。敵艦に損害を与えられれば、味方を助けることにならないか。

 そうと決めれば、ランビリス攻撃機は水平線の彼方で砲撃をしている敵へと機首を向けた。


 だがパイロットは失念していた。敵にも夜間行動可能な艦載機を積んでいる空母なり艦がいることを。

 どうやら戦艦が2隻いるらしい――そう識別したところで、ランビリス攻撃機に戦闘機が襲いかかってきた。


『大和』搭載の紫電改三戦闘機が、フライパンのような形状のランビリスに20ミリ光弾機銃を浴びせ、瞬く間に撃墜する。

 戦艦でありながら、大和は最大10機の水上機を搭載可能だ。マ式フロートによって水上機にも、陸上機や艦上機同様の飛行が可能な紫電シリーズは、砲撃を行う戦艦部隊の上空援護についていたのだ。


 一方、空中に上がっていたのは、紫電改三や暁星改だけではない。四式水上偵察機『飛雲』も、サンタマリア島周辺の敵情を把握すべく放たれている。

 そして彼らは、異世界帝国艦隊が、遠距離砲戦を続ける『蝦夷』『大和』の方へ移動しつつあることを伝えてきた。


 第一遊撃部隊旗艦『蝦夷』。指揮官、神明 龍造少将は通信長からの報告を受けて、頷いた。


「よし、敵はこちらに食いついた。『深海』に打電。虚空を発進させろ」


 命令を受けた大型海氷空母『深海』では、その長大な滑走路に駐機されていた虚空特殊輸送機群に出撃を命じる。

 マ式エンジン搭載、垂直離着陸機能を改良した新型虚空は、次々に発艦。サンタマリア島へと向かった。


 すでに制空権は日本軍にあった。サンタマリア島に展開していた異世界帝国の軽空母は奇襲で壊滅。夜間航空隊も失われた。

 そして空母『翔竜』から発艦した暴風艦上戦闘爆撃機隊が、サンタマリア島に侵入。上陸している異世界帝国陸軍に爆撃と機銃掃射を開始する。


 英陸軍と敵地上部隊を切り離したところで、遮るもののない空を特殊輸送機の群れが侵入した。

 地上からは合流ポイントを示す火が焚かれ、虚空特殊輸送機は、数機ずつ地上に垂直に着陸。後部ランプを開き、英陸軍兵を呼ぶ。


「急げ! 後ろがつかえているんだ。早くしろ! ハリーアップ!」


 本来なら合流して現状報告やら挨拶をするものだろうが、そんな時間はないとばかりに搭乗を急がせる。

 英陸軍の中佐も無線機を片手に、小隊長や分隊長らに兵を動かせと合図する。指揮官同士の挨拶や手順については無線で交信している。


 定員を収容すると、その機は飛び上がり、次に待機している機が下りてくる。イギリス兵たちは、自分たちの番を待ちながら、空中に何機が待機しているか闇の中目を凝らす。


「オレたちまで乗れるのか?」

「置き去りは嫌だぞ」

「心配するな!」


 日本海軍の誘導士官が、英語で声を張り上げる。


「諸君らが乗るのは、天下の海氷――氷山空母だ。輸送機は仲間たちを降ろしたらすぐにここに戻ってくる! 安心して順番を待て!」


 氷山空母――首を傾げるイギリス兵。自分たちの国で、そんな奇妙な氷山でできた空母が作られかけていたことを知っている者ばかりではないのだ。

 遠くでは戦艦の砲声と思われる音と、時々凄まじい爆発音が聞こえてくる。それがいつ自分たちに向いてくるのかわからず、戦々恐々としながら回収の順番を待つ。実際に異世界帝国戦艦からの艦砲射撃にさらされた身からすれば、ビクついてしまっても仕方がないところである。


 海氷空母『深海』の虚空特殊輸送機は、イギリス兵を乗せて母艦へと帰投する。そしてその大きな滑走路に着陸すると、乗ってきた兵を蹴落とすように追い出すと、甲板整備員から軽く機体の外装に損傷がないか確認を受けた後、燃料補給もせず、すぐに飛び立った。


 燃料については、問題がなかった。

 何せ、第二陣の往復からサンタマリア島近くに進出している伊401潜水艦が、転移中継装置を発動させたため、大幅に道中をショートカットできたからだ。


 島でイギリス兵を乗せた後は、今度は『深海』が装備する転移中継装置に従って飛ぶ。虚空の操縦士たちからすれば、夜間での垂直離発着の訓練をしているような気分であった。


 海氷空母の周りには、若竹型駆逐艦が対潜警戒を行い、攻撃に備えている。事実、潜んでいた異世界帝国潜水艦を発見、誘導魚雷によって先制、撃沈していた。


 ともあれ、迅速なるピストン輸送により、サンタマリア島のイギリス陸軍は撤退に成功した。

 味方の撤退援護の殿(しんがり)を務めた部隊も、上空の暴風戦闘爆撃機の機銃掃射によって脱出の間を作ることができ、退却した。

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