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第九八〇話、ドーバー海峡海戦


 ムンドゥス帝国軍、帝国第五艦隊別動隊が日本艦隊をロストした頃、本隊は西進を続けてドーバー海峡を突破した。

 英独機動部隊による第二次攻撃を空母戦闘機隊により撃退し、主な艦艇への損害は軽微であった。


『敵艦隊接近。第一群、戦艦11、重巡洋艦8、軽巡洋艦14、駆逐艦27』

『続いて第二群、戦艦6、重巡洋艦3、軽巡洋艦3、駆逐艦21』


 帝国第五艦隊司令長官、オルモス大将は、迫りつつある英独水上打撃部隊を前に笑みを浮かべる。


「第一群がイギリス。第二群がドイツの艦隊だな」

「そのようです」


 資料を目にしながらアクレオ参謀長は賛同するように言った。


「空母は確認できません。おそらく後方に控えておるのでしょうが……」

「偵察機に探らせよう。発見したら空母航空隊で敵機動部隊を攻撃させろ」


 オルモスは正面の水上打撃部隊には、第五艦隊の戦艦、巡洋艦群で相手をすることを告げた。

 艦隊上空には制空隊のエントマⅢ高速戦闘機があって、敵航空隊の襲来に備えている。この際、空のことは無視してよい、とオルモスは考える。


「閣下、艦隊の陣形ですが……」

「このままでよい」


 オルモスは口角を吊り上げた。


「踏み潰す!」



  ・  ・  ・



 口火を切ったのは前衛部隊であった。

 ムンドゥス帝国のプラクス級重巡洋艦5と駆逐艦10が正面から向かってくる中、イギリス海軍G部隊の重巡洋艦戦隊と水雷戦隊が迎え撃つ。


 G部隊旗艦、戦艦『ライオン』の司令塔。戦力差に悲壮感が漂う中、ブルース・フレーザー大将は表情一つ崩さず、正面を見据える。

 異世界帝国艦隊は、堂々と横陣を形成し、速度を28ノット前後にして向かってくる。かつての戦列歩兵のように、悠然と、無言の圧力を与えながら。


「命令を伝える太鼓が聞こえてきそうじゃなか、えっ」

「長官?」

「独り言だ」


 フレーザーは軍帽の向きを変える。敵はイギリス、ドイツ両艦隊の間を突っ切るつもりのようだ。

 オリクト級戦艦10隻ずつ二列、その後ろに改メギストス級戦艦10が横陣で進む。


「取り舵30。砲撃戦用意、目標、敵戦艦」


 フレーザーの命令を受けて、イギリス戦艦13隻は単縦陣を形成し、その主砲を旋回させる。


 キング・ジョージⅤ世級改装のライオン級、そして鹵獲ライオン級――これにキング・ジョージⅤ世級の名前がつけられ、ややこしくあるのだが――の45口径40.6センチ三連装砲が砲身をもたげる。


 続く『ロイヤル・オーク』『マレーヤ』『エジンコート』『エリン』は45口径40.6センチ連装砲を向けて異世界帝国戦艦を狙う。

 その敵艦隊もまた、英戦艦を打ちのめそうと大砲を向けてくる。


『測距完了。射撃用意よし!』

撃ち方はじめ(オープン、ファイア)!」


 オープン・ファイア――復唱され、英戦艦群がほぼ一斉に主砲を発砲した。砲は英国製だが、砲弾は米国のエネルギー重量弾である。

 水柱がオリクト級戦艦の周りに乱立する。そして異世界帝国戦艦もまた、その主砲――五十口径40.6センチ三連装砲を発射する。


 煙を噴き上げ、放たれた砲弾が空中を交差し、そして互いの目標めがけて落下する。


「敵艦隊、左右に分離!」


 見張り員の報告が司令塔に響く。横列10隻の戦艦が、真ん中で分かれ、5隻ずつとなる。それは最前列のみならず、二列目、三列目の敵戦艦も前の列の艦に続く。


「これはドイツ人たちには厳しいかもしれん」


 フレーザーは独りごちた。

 独戦艦『フリードリヒ・デア・グローセ』『ヒンデンブルグ』『ドイッチュランド』『カイゼリン』、『ウルリヒ・フォン・フッテン』『ゲッツ・フォン・ベルリヒンゲン』も、単縦陣を形成し、砲撃を繰り返している。

 だが敵艦隊が二分されたことで、それぞれ15隻の戦艦を相手どることになる。英戦艦11隻に対して、独戦艦は6隻。これで15隻相手は厳しい。


「だが我々も決して楽はできない」


 ドイツ人らよりマシとはいえ、こちらも劣勢なのは変わらない。

 だが引くわけにはいかない。英本土上陸部隊が故国奪回に頑張っているのだ。彼らのためにも敵に制海権を渡すわけにはいかない。



  ・  ・  ・



 その頃、異世界帝国第五艦隊別動隊は――


「オルモス閣下の本隊が敵艦隊と交戦した」


 スィマ中将は、参謀たちを見やる。


「こちらは敵艦隊を見つけられずにいる。これは敵による艦隊戦力を分散させる策だったかもしれん」

「船団も壊滅しました」


 参謀長が言った。


「これ以上、敵が発見できないようなら本隊と合流してもよろしいかと」

「うむ。オルモス閣下の本隊が敵艦隊に後れを取るとは思えないが、我々を引きつけた敵艦隊がそちらに転移で移動したら、万が一ということもある」


 スィマは首肯した。


「第一次攻撃隊を収容したのち、艦隊はドーバー海峡へ引き返す」


 指揮官の命令は別動隊各艦に伝達された。慌ただしくなったのは空母である。

 用意していた第二次攻撃隊の艦載機を格納庫に下ろす。第一次攻撃隊が降りてくる場所を確保しなくてはならないからだ。せっかく用意された機を再び格納庫に戻す作業で忙しくなる。


 そして空母が艦載機収容の準備を進める中、艦隊戦となれば空母と分離することになる戦艦、重巡洋艦などの水上打撃部隊は一足先に移動できるよう部隊分けと移動を始める。


 そんな、すでに敵はいない判断のもとで行われた陣形変更だが、そこに忍び寄る者たちがいた。

 海面すれすれを飛行する四機の航空機――水上機母艦『早岐』から出撃した暁星改攻撃機である。

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