第九七八話、第一遊撃部隊、船団を攻撃す
イギリス海峡、フランス呼称ラ・マンシュ海峡の端に現れた日本海軍第一遊撃部隊は、異世界帝国艦隊の後方にいた敵補給船団と遭遇した。
メテオーラⅡ級軽巡洋艦を旗艦とし、グラウクス級軽空母3、駆逐艦10がタンカーならびに補給艦30隻を守っていた。
対する第一遊撃部隊の編成は以下の通り。
●第一遊撃部隊:司令官、神明 龍造少将
○本隊
戦艦:「蝦夷」「大和」
空母:「翔竜」「鳳翔」
水上機母艦:「早岐」
装甲艦:「大雷」「火雷」「黒雷」
軽巡洋艦:「夕張」「早月」「矢矧」
駆逐艦:「島風」「氷雨」「早雨」「霧雨」
潜水艦:「伊600」「伊701」「伊702」「伊703」
:「伊401」「伊402」
○無人艦隊
旗艦:大型巡洋艦「妙義」
無人戦艦×8
無人空母×8
ル型巡洋艦×8
無人転移艦×3
無人駆逐艦×16
有人艦隊と無人艦隊。しかし無人艦隊は、一応弾薬は積まれているものの戦わない。そういう決まりで連れてきている。
コントロール艦である『妙義』も、遊撃隊旗艦の『蝦夷』からの命令で、艦隊の転移や退避機動などを担う。
戦闘を担当するのは本隊であるが、指揮官の神明少将は、ただちに所属艦に命令を出し、攻撃を開始した。
戦艦『大和』が、射程内3万9000メートルの敵軽空母に対して、46センチ砲を発砲。
能力者、正木 初子大尉の弾道制御で誘導された46センチ砲弾は、艦載機を発進させつつあるグラウクス級軽空母の1隻に吸い込まれ、たった一撃で火山もかくやの大噴火を引き起こした。
初弾直撃である。これを決めた正木 初子は、次の2隻目の軽空母に大和の主砲を導く。
その間に、戦艦『蝦夷』も、残るもう1隻のグラウクス級に51センチ砲を発射。
さらに空母『翔竜』と軽空母『鳳翔』からは甲板上の艦載機が急速発艦を行う。暴風戦闘機、陣風戦闘機がそれぞれ発艦している間に、『大和』、そして『蝦夷』の砲撃がそれぞれの軽空母に着弾。1隻轟沈、1隻大破に追いやった。
これに驚いたのは異世界帝国軍、船団護衛部隊であった。メテオーラ級軽巡洋艦を旗艦とするエイデナイ少将は歯噛みする。
「遭遇して五分と経たずに空母が全滅だと!? 馬鹿な、こんなことは――」
恐るべき命中率。この難局を乗り切るために必要不可欠な航空隊が展開する前にやられてしまうとは。
「何機、飛び上がった?」
「直掩の10機の他、6、7機かと。全部戦闘機です!」
先任参謀の報告に、エイデナイは唸る。
「そりゃあ、順番としたら戦闘機だよな、まずは……!」
敵襲があるとすれば、対空戦闘の可能性が高い。一応この辺りは異世界帝国のテリトリーであり、敵潜水艦が入り込む可能性はゼロではないが低いはずだった。
「しかし、一機の対潜警戒機も出ていないとは」
「あっても、敵水上艦が相手では……」
「わかっておる! 護衛水雷戦隊に通達。煙幕を使用! 輸送船の退避を援護せよ!」
指示を出すエイデナイだが、対空レーダーが反応する。
『敵艦隊より艦載機発艦の模様。編隊を組まず、高速接近中!』
「上がっている直掩機で迎撃! 各艦、対空戦闘!」
エイデナイは追加の命令を出し、思い切り渋顔を見せる。
「くそっ、こちらにもゲート艦を回してくれたなら、本隊なり、別の場所への退避も可能なものを」
「仕方ありません。ゲート艦は戦闘艦隊優先でありますから――」
「帝国の悪い癖だ」
エイデナイは吐き捨てる。
「補給を軽視するから――」
言いかけたエイデナイだが、最後まで口にすることはできなかった。
風を切って高速の46センチ砲弾が飛来。ズレて直撃した三発が防御シールドを破砕、残る六発が、全長180メートルの艦体に吸い寄せられ、粉微塵に吹き飛ばしたのだった。
・ ・ ・
旗艦が爆散し、護衛の駆逐艦部隊の統制は失われた。
上空では暴風戦闘機と直掩のヴォンヴィクス戦闘機が空中戦を演じる。その間に『鳳翔』の陣風戦闘機は、高速を利して一気にタンカー船団の懐に飛び込むと、30キロ誘導弾を発射した。
着弾、爆発すると、タンカーならびに輸送船は炎上していった。
第一遊撃部隊は、空母『翔竜』『鳳翔』、水上機母艦『早岐』を後退させ、軽巡『夕張』『早月』、駆逐艦『島風』『氷雨』『早雨』の五隻が快速を活かして突撃。さらに装甲艦『大雷』『火雷』も援護に続いた。
旗艦『蝦夷』では、戦況を見守る神明に艦長の阿久津大佐が声をかけた。
「またも転移砲はお預けですな」
「長距離砲戦には向かないからな」
神明は答える。
「かといって距離を詰めるにしても、残っている敵は『蝦夷』や『大和』の砲は贅沢すぎる」
「ですな。駆逐艦相手には軽巡の砲で充分です」
戦艦の大砲はもったいない。高速で動く駆逐艦となると、いかに弾道修正をしようとも移動できる範囲の広さと船体の小ささもあって直撃させるのは難しい。阿久津は肩をすくめた。
「じっくり待つとしましょう。しかし、敵主力はこちらに航空隊を飛ばしてくるのでは……?」
「だろうな。船団の救援を考えれば、それが一番早い」
神明は頷いた。
「転移退避のできる配置と、嫌がらせ報復の準備にかかろう。『早岐』に暁星改を用意させろ」