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第九七七話、ドーバー海峡を挟んで


 ムンドゥス帝国海軍、帝国第五艦隊がドーバー海峡に差し掛かった時、米独艦隊は航空隊を差し向けた。

 イギリスとフランスを隔てるこの狭い海峡は、絶好の待ち伏せのポイントであり、しかしそれはムンドゥス帝国側も把握していた。

 帝国第五艦隊司令長官、オルモス大将も迷うことなく迎撃を命じた。


「戦闘機隊、発艦!」


 空母30隻、飛行甲板に待機していたエントマⅢ戦闘機隊が垂直発艦を行う。

 かつては日本軍が遮蔽を使った奇襲攻撃隊を出して、発艦時を狙われたものだが、遮蔽無効フィールド発生装置の装備はそれを許さない。

 遮蔽を剥ぎ取れば、あとはレーダーが発見し、目視でも見ることができる。


 奇襲攻撃に怯えることなく、ムンドゥス帝国艦隊は戦闘機を出し、英独空母航空隊を迎え撃った。

 レンドリースされたF6Fヘルキャット、F4Uコルセアといった戦闘機がエントマⅢと交錯し、機銃や光弾が瞬く。


 火の玉となって落ちていくもの、銀翼の欠片をまき散らしながら錐揉みしながら落ちていくもの。イギリス海峡に墜落の水柱が上がり、銃弾が雨のように撒き散らされた。

 数百機の航空機が乱舞し、片や艦隊へ迫り、片やそれを阻む。


 オルモス大将は地球側の攻撃がこの程度であるならば、海峡を突破し、接近しつつある英独水上艦隊と決戦と流れこめると考えた。

 だが――


『イギリス側より、航空機出現!』


 緊急の報告が旗艦司令塔内に響いた。

 ドーバーの白い壁。イギリス海峡の狭い部分にそびえるチョークの谷は、古来より大陸からの侵略者を阻む防壁であった。

 そんなイギリスの象徴であり、海峡に面した白亜の断崖絶壁を飛び越えて、TBFアヴェンジャーが次々と超低空で突っ込んでくる。


「陸地から侵入したのか。面白い!」


 ニヤリとするオルモス。艦隊直上にいた直掩機が迎撃に動くが、接近する英独アヴェンジャーは対艦ロケット弾を次々に発射した。


 艦隊の両翼に位置するメテオーラ級軽巡洋艦、その右翼列が対空射撃を開始。向かってくる攻撃機や飛来するロケット弾を撃ち落とすべく弾幕を展開する。

 光弾砲がアヴェンジャーを撃墜する中、ロケット弾は弾幕をかいくぐり、巡洋艦や空母へと殺到する。


 対空射撃を継続していたメテオーラ級軽巡洋艦が次々に命中。艦上構造物を破壊し、対空砲が吹き飛び、火の手を上げる。


 リトス級やアルクトス級といった空母は防御シールドを展開し、自艦を守った。だが、艦隊の中でも右に配置していた艦が集中的に狙われた結果、シールドを失い、立て続けに被弾、爆発炎上した。


 英独攻撃隊の猛撃は、相応の機を喪失したが、リトス級大型空母2隻を大破させ、アルクトス級中型高速空母2隻撃沈、1隻大破。メテオーラ級軽巡洋艦6隻の撃沈破を報告した。


「一点集中か」


 オルモスは、やはり相好を崩している。


「意外とやるものだ。だが、こちらの優勢は変わらないな」

「長官、後続の補給船団から緊急通信です」


 通信参謀が切羽詰まった様子でやってきた。


「ドッガーバンク方面に敵艦隊が出現。高速タンカー船団が敵に捕捉され、救援を要請しております!」

「何だと……?」


 これにはさすがのオルモス大将も顔をしかめた。


「敵の規模は?」

「戦艦10、空母10隻以上と思われる大規模艦隊です。転移で艦隊後方に現れたようです!」

「戦艦、空母10以上……」


 オルモスは、視線をアクレオ参謀長に向ける。


「どう思うね?」

「我々がドーバー海峡を通過するタイミングで、挟撃を狙ってきたのかと思われます」

「うむ。タンカー船団とかち合ったのは、たまたまかもしれんが、まずいことになった」

「はい、閣下。仮にタンカー船団がやられた場合、こちらは補給の術を失います」


 敵に挟まれている格好だ。特にドッガーバンクの転移ゲートを利用する後続部隊が、後ろの敵艦隊によって合流を阻まれる形となる。


「燃料の不足は、ゲート艦で地中海に戻れば解決できますが、こちらの戦闘可能時間に影響します」

「左様。敵を追撃する余裕がなくなるのは痛い」


 あくまで地球艦隊に勝つ予定のオルモスである。比較的航続距離が長い巡洋艦を多く配備している帝国第五艦隊だから、タンカー船団を失われて、すぐ動けなくなるということはない。だが以後の補給を受けられなくなるとすれば、話も変わってくる。


「艦隊を半分に分ける」


 オルモスは決断した。


「前方の艦隊は、なお進撃してくるのだろう? 戦艦が17隻だったか」

「後ろの艦隊に残り半分を充てるのは、戦力過多ではありませんか?」


 参謀長が確認すれば、オルモスはきっぱりと告げる。


「確実性を取る。今後の補給や作戦にも影響するのだ。ドッガーバンクの線を確保するためにも、確実に排除せねばならない」


 そこでオルモスは薄らを笑う。


「なに心配はいらん。半分でも前の艦隊を破るに充分だ」


 ドーバー海峡に差し掛かる帝国第五艦隊は、すでに侵入している前半分と、これから入る後ろ半分に分かれた。


 前方にオルモス大将率いる戦艦30、空母13、重巡洋艦25、軽巡洋艦38、駆逐艦20、潜水艦20。

 後方に、残る戦艦25、空母15、重巡洋艦30、軽巡洋艦36、駆逐艦20、潜水艦10が向かった。



  ・  ・  ・



「敵の補給船団とぶつかるとは……」


 神明 龍造少将と第一遊撃部隊は、転移によってドーバー海峡に向かう敵の背後をつくべく転移した。

 が、その視認範囲に、異世界帝国軍の輸送船30、護衛の軽巡洋艦1、軽空母3、駆逐艦10を発見したのである。


「これは想定外だったな」


 しかし嘆いてもいられない。神明は指示を出す。


「『翔竜』『鳳翔』より艦載機、急速発進。前方、敵船団を攻撃せよ。『蝦夷(えぞ)』『大和』は、遠距離砲戦開始。第一目標、敵空母!」


 張り子の虎こと、一発も撃たせない無人艦隊を悟らせないため、厄介な軽空母は真っ先に始末する。

 藤島 正先任参謀が口を開いた。


「ここで船団を攻撃すれば、敵主力艦隊は引き返してくるでしょうな」

「さすがに近場の軍港へは寄れないだろうからな。せめて後ろの我々だけでも排除しなくては、敵さんも長期的な作戦行動も難しくなる」

「つまり」

「我々の思惑通り、ということだ。……せめて半分くらいをこちらに差し向けてくれたら、楽なのだがな」


 禍を転じて福となす。そうなる可能性も充分にあるということだった。

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