第九七四話、猛撃の日本海軍特務艦隊
第一特務艦隊は、再編される連合艦隊にあって、その主力部隊から外れた艦を中心に編成された。
旗艦であり、巡洋戦艦の『武尊』は強力な武装と装備を持つ有力な艦だ。しかし僚艦がなく、日本海軍特有の最低二隻のセットで運用する戦隊編成が難しく、かといって後方の旗艦にするには遮蔽機能や火力が惜しい。
そういう半端ゆえに、独立編成部隊の旗艦に抜擢され、第一特務艦隊最強の艦として組み込まれている。
イギリスのブリテン奪回作戦に協力し、特務艦隊を派遣した日本の思惑は、異世界ゲートであり、ルベル世界との接触だ。
そのため、特務艦隊にはマラボ・ゲート防衛を担っていた封鎖艦群も加えられている。
●第一特務艦隊:司令長官、武本 権三郎中将
巡洋戦艦:「武尊」
戦艦:「金剛」「比叡」「榛名」「霧島」
空母:「翠鷹」「蒼鷹」「白鷹」
重巡洋艦:「古鷹」「加古」「標津」「皆子」
軽巡洋艦:「奥入瀬」「十津」
駆逐艦:「細雪」「氷雪」「早雪」「湿雪」「春雪」「雨雪」
:「大風」「西風」「南風」「東風」
敷設艦:「津軽」「沖島」
封鎖艦:「会津」「鷹巣」「亀岡」「山形」「北見」「伊那」「米沢」「佐久」
:「上川」「横手」「三次」「大野」
「金剛型が二線級とは、時代か」
特務艦隊に組み込まれた古参の戦艦である金剛型。開戦で『金剛』が沈み、魔法技術によって復活。姉妹艦の『比叡』『榛名』『霧島』も、沈没に等しい大損害を受けては潜水型戦艦に改装され、しぶとく戦い抜いてきた。
しかし、巡洋艦を相手にするには大型巡洋艦で充分。戦艦相手には非力とあっては使い勝手が悪く、30ノット前後の速度ものちに加わった再生・改装艦と比べても大して差があるわけでもなかった。
結果、第一線戦力としては不足。連合艦隊主力を外れ、地方警備艦か練習艦にという話になっていたが、戦力を探していた特務艦隊にスカウトされたのであった。
重巡洋艦と軽巡洋艦は、光弾砲を主砲とする艦で構成されている。砲弾の消費のない、つまりは補給に優しい艦が選ばれた。
三連光弾ではないため防御シールドは貫通できないが、中・近距離戦では速射性能と命中率の高さで駆逐艦を速攻で潰すことを期待された。
空母は三隻。うち二隻は、連合艦隊主力の空母が、大鶴型を中心に据えたことで、編成を外れた『翠鷹』と『蒼鷹』。魔技研が改装したドイツ巡洋戦艦は、準・翔鶴型というべき艦載機搭載能力を誇り、まだまだ有力な空母だ。制空戦闘ほか、基地や艦隊攻撃も柔軟にこなすことができる。
最後の一隻、『白鷹』は艦隊防空空母として編入された。制空戦闘が主であるが、重爆撃機や空中標的に対応できる高高度迎撃機『震電改二』が搭載されている。ある種、防空戦闘の切り札だ。
そして、この編成のポイントとなっているのは、第七艦隊より抽出された潜水型敷設艦『津軽』と『沖島』である。潜水状態でも多数の機雷を散布できるこの二隻は、潜入、もしくは待ち伏せで敵を強引に機雷原に引き込む。
シールド持ちの艦艇には工夫が必要な機雷だが、駆逐艦相手には絶大な威力を発揮する。おそらく多数となる敵駆逐艦の数を減らすためにも、その戦力に期待された。
そして、いざリバプール・ゲートの守備艦隊と交戦した時、第一特務艦隊はその編成がきっちり型にはまり、数で勝る異世界帝国艦隊を痛打した。
巡洋戦艦『武尊』の砲撃は、異世界帝国戦艦を手早く片付け、機雷によって身動きできなくなった駆逐艦に仕事をさせないまま、巡洋艦や封鎖艦の猛撃が襲う。三連光弾はシールドを張っている艦を、通常の光弾は駆逐艦に矢継ぎ早に突き刺さり、異世界帝国艦を沈めていく。
旗艦を先制で破壊されたことも異世界帝国艦隊――アイリッシュ海艦隊にとっては不幸だった。
気づけば第一特務艦隊は、2.5倍の戦力差があった敵アイリッシュ海艦隊を撃滅していた。
「全体の三分の一の艦艇が被弾しつつも、損害はいずれも軽微。戦闘に支障はありません」
旗艦『武尊』、武本 権三郎中将は、艦隊の被害報告を受けて頷いた。
「よろしい。我々はここからが本番だからな」
リバプール・ゲートの制圧。そして異世界への侵入という任務が残されている。
「他の国の艦隊の方はどうなっておるか?」
「は、順調です。G部隊は敵迎撃艦隊を撃滅。間もなく、上陸の準備に移るようです」
「大いに結構」
せっかくゲート周りの敵艦隊を掃除したのに、肝心のブリテン奪回作戦が上手くいってくれなければ、こちらも撤退しなければならなくなる。
何かあって作戦を中断せねばならない事態になったとしても、リバプール・ゲートの先がどうなっているか、その確認は最低限しなければならない。
・ ・ ・
英艦隊の支援のもと、英国、カナダの陸軍師団は、ダブリンへの上陸を開始した。
すでにアヴラタワーもなく、自動兵器の抵抗はあったものの、上陸部隊はレンドリースされたM4シャーマン、その派生のファイアフライなど戦車を揚陸。不活発な異世界帝国の兵器を吹き飛ばし、人形兵を銃弾が撃ち倒す。故郷へと帰還したイギリス歩兵の戦意は凄まじかった。
陸戦が始まるが海上部隊もまだまだ忙しい。本国艦隊でもあるG部隊は、上陸船団護衛の支援に当たっていたが機動部隊は移動している。
機動部隊Aは、ポーツマスへ空襲を実行。
機動部隊Bとドイツ艦隊は、転移ゲート艦の助けを借りて、一気にグレートブリテン島北方まで移動。オークニー諸島は、スカパフローに駐留する異世界帝国艦隊に向けて、大規模な空襲を仕掛けた。
スカパフロー。イギリス海軍の重要拠点にして本国艦隊のホーム。そしてドイツ海軍にとっては、第一次世界大戦終結後の艦隊自沈と因縁のある場所だ。
ここには灰色塗装の異世界帝国艦隊が駐留しており、戦艦9、空母13、巡洋艦22、駆逐艦21、潜水艦31、ほか補助艦艇があった。
B部隊、『アークロイヤルⅡ』『イーグルⅡ』、2隻のオーディシャス級空母を主力に、戦時量産空母のコロッサス級『トライアンフ』『ヴェンジャンス』『ウォリアー』から攻撃隊が発進。
さらに歩調を合わせて、ドイツZ艦隊・第一群の空母6隻も艦載機を発艦させる。
空母『グラーフ・ツェッペリン』と同級『ペーター・シュトラッサー』、『テオドール・オステルカンプ』に、イタリア海軍が建造していた『アクィラ』、さらにドイツの重巡、または商船改造空母である『ヴェーザー』『エルベ』の6隻である。
11隻の空母から、総勢249機の攻撃隊は、スカパフローを奇襲。即応の無人戦闘機が反撃してきたが、攻撃隊は果敢に在泊艦隊に投弾するのであった。