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第九七〇話、米艦隊 対 帝国第三艦隊


 南米、リオデジャネイロ近海。アメリカ大西洋艦隊・第4艦隊とムンドゥス帝国第三艦隊の激戦が繰り広げられている。

 艦隊へ向かうカーチスSB2Cヘルダイバー、グラマンTBFアヴェンジャーを、エントマⅢ高速戦闘機が一撃離脱で蜂の巣にしていく。


 味方機を守ろうと戦闘機のグラマンF6Fヘルキャット、ヴォートF4Uコルセアが迎え撃ち、または道を切り開く。

 12.7ミリ機銃を雨あられと撃ち込み、蜂のような高速戦闘機の薄い主翼を砕き、海面に叩き落とす。


 エントマⅢは機銃四門に加え、光弾機銃を二門搭載し、その攻撃性能が強化されていた。時速はわずかに向上、最高時速700キロに達して、F6Fを完全に圧倒している。

 米軍が何とか対抗できたのは、最近になってようやく艦上機としての条件をクリアしたF4Uの参戦もあるおかげだ。


 わずかに戦闘機の防空圏を突破したヘルダイバー、アヴェンジャーは、異世界帝国艦に向けて対艦ロケット弾を発射する。

 近づけば、その強力な対空砲に撃墜されるからだ。もはや急降下爆撃など不可能。雷撃もまた困難のため遠距離から撃つのだが、命中を狙える距離となると、敵艦もまた高角砲や光弾砲を撃ち込んでくるため、一定の犠牲はやむを得ない。


 双方の航空隊が激闘を演じている間に、水上打撃部隊――戦艦のビッグガンもまた咆哮を轟かせる。

 異世界帝国の主力戦艦のオリクトⅡ改は、防御シールドを活用しながら40.6センチ主砲を発砲。プラズマヘビー弾頭は強固な米戦艦を痛打する。


 だがアメリカ戦艦も、対シールド用のエネルギー弾頭付きヘビーシェルで応戦する。シールドに当たったそれらは、十発も当てれば、オリクトⅡ改級の防御を引き剥がし、直接砲弾を届かせられるようになった。


 特に強力なのはアリゾナ級の45.7センチ砲である。こちらは五、六発でシールドを破砕すると、オリクト級の装甲を叩き割る一撃を浴びせ、たちまち大きな被害を与えた。


『テネシーⅡ』『カリフォルニアⅡ』『ペンシルベニアⅡ』、そして『アリゾナⅡ』は、攻撃力はもちろんその対18インチ防御によって、オリクトⅡ改の砲弾にもしぶとく耐久性を発揮した。


 ムンドゥス帝国、帝国第三艦隊の旗艦『エレンホスⅡ』で、司令長官、アフティ大将は腕組みしたまま戦況を眺めていた。


「中々、頑張るじゃないか」


 老将は余裕の態度を崩さない。艦隊の戦力差は歴然だ。

 特に艦隊でもっとも多い軽巡洋艦は、百を超えるアメリカ駆逐艦を砲火力で圧倒し、その戦線を一気に突き崩すことができるだろう。

 そして戦艦もまた、オリクトⅡ改級より強力なメギストス級改であるプロートン級戦艦20隻が手元に残っている。


「では、蹂躙せよ! 帝国鉄騎兵団の如く」


 命令を受けてプロートン級戦艦20隻が二つの横陣を形成し、前進を開始した。

 その主砲は50口径45センチ三連装砲四基。艦首側二基六門を撃ちながら、前線へと近づいていく。

 堂々と、行進するが如く。


 これらの参戦は、若干有利に事を進めてきた米第4艦隊を劣勢に追い込んだ。

 被弾しつつも踏みとどまっていた『アイオワ』『ミズーリ』が、45センチプラズマヘビー弾を浴びてその甲板をめくりあげられる。


『インディアナ』が一撃でトドメを刺され、爆沈。『ロードアイランドⅡ』が弾薬庫への一撃で誘爆し、アイオワ級『ケンタッキー』は艦首をもぎ取られ、海へとその艦体を引きずり込まれる。


「おいおい、これはさすがに、まずいんじゃないのか……?」


 第一戦艦戦隊司令官のジェシー・B・オルデンドルフ中将は、皮肉げに片方の目を細めた。

 敵の第二陣が参入してから、一気に米戦艦の被害が拡大した。敵はオリクトⅡ改級の40.6センチ砲だけでなく、プロートン級の45センチ砲が加わって、その攻撃力を増したのだ。


「タワーズが豪語するほど、航空隊が働いていないんじゃないか」


 その文句は半ば独り言だったが、それだけオルデンドルフを苛立たせていた。被害は堅艦揃いのモンタナ級戦艦で構成される第一戦艦戦隊にも及ぶ。


「『ニューハンプシャー』が機関に損傷。速度15ノットに低下。落伍します」

「18インチに耐えられる装甲だぞ」


 モンタナ級戦艦は主砲こそアイオワ級と同等の50口径16インチ砲だが、高速性能を重視したアイオワ級と違い、米戦艦の伝統である重防御が売りだ。格上の砲も耐えられる作りになっているモンタナ級が、大きな損害を受けるというのはそれだけ敵の砲が強力であることを意味する。


 その時、凄まじい轟音が起き、オルデンドルフと彼の参謀たちは驚いた。視界に艦が爆発した煙が見えた。

 やられた――しかも第一戦艦戦隊所属のモンタナ級のどれかが。


「『オハイオ』、轟沈!」

「シット!」


 戦隊三番艦の位置にいた『オハイオ』が煙だけ吹き上げさせて、その姿を消していた。


「タワーズめ……! この始末、どうしてくれるんだ……!」



  ・  ・  ・



 米第4艦隊旗艦、空母『アゾレス』で、ジョン・ヘンリー・タワーズ大将は歯噛みしていた。

 こんなはずでなかった。


 ――オレは、アメリカ史上、最大最強の空母を揃えたんだぞ……!


 バミューダ諸島海戦で、英雄になったスプルーアンス以上の戦力を持ち、ようやく持論である航空最強を証明しつつ、輝かしい将来のステップとなったはずなのに。


 戦況は極めて不利になりつつある。

 敵空母艦載機の防御をこちらの航空隊は突破できず、その数を消耗している。戦艦や巡洋艦部隊も、兵力の差で押し込まれつつある。

 そして厄介なことに、両翼に展開した敵軽巡洋艦部隊により、倍の数がある駆逐艦が逆に駆逐されつつあることだ。


 15.2センチ主砲で武装する軽巡洋艦は、12.7センチの豆鉄砲の駆逐艦を、射程、攻撃力、そして装甲で圧倒している。それに加えて数を揃えられては、装甲のない駆逐艦では相手にならない。


 中には魚雷によって、敵巡洋艦に手痛いカウンターを当てた駆逐艦もあった。だがもはや流れ弾レベルのラッキーヒットであり、戦果を確認する頃にはすでに砲撃に屈して沈んでいた。

 時間と共に、戦況は悪化している。何とかしないといけない。何とか――


「退避した空母群に第二次攻撃隊を出させろ!」


 タワーズは怒鳴った。だがそれだけではまだ足りない。状況をひっくり返すには、まだ不足だ。


「護衛空母群の航空隊も投入しろ」

「提督……!?」


 参謀らは目を剥く。上陸船団支援の護衛空母29隻が、各上陸地点近くにある。しかしその艦載機は、エセックス級空母の三分の一以下であり、戦闘機と地上爆撃用の装備しかない。


「戦闘機でも戦力となる! いいからやれ!」


 タワーズが命令を出した時、戦場に新たな敵が現れた。


「多数の大型飛行物体、接近!」


 円盤――アステールとその小型機が数十機、南米に飛来したのだった。

5月30日、間違って969話より先に投稿してしまったので入れ替えました。すみません。

31日分を更新してしまったので、次話は6月1日になります。よろしくお願いします。

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