第九六九話、南米大激突
イースト・カバーを実施するアメリカ大西洋艦隊は、各攻撃目標に、陸軍ならびに海兵隊を上陸させることに成功した。
昨年から南米中部より北での戦いの結果、敵南米方面軍の戦力が中央寄りになっていたことで、沿岸部は比較的手薄であった。
以前、日本軍のT艦隊や無人艦隊が空襲を仕掛けていたが、それの復旧作業は進めど強化まではおぼつかず――北から圧迫する米軍への対処のため、資材はそちらに流れた――結局、大攻勢をかける米軍を水際で防ぐことはできなかった。
だが、異世界帝国も座して見守っていたわけではない。
地中海からリオデジャネイロ近海へ、帝国第三艦隊を派遣したのだ。
「ふふふ、地球の艦隊か」
帝国第三艦隊司令長官、アフティ大将は腕組みしつつ、眼前に見えるアメリカ艦隊を見据える。
「まずは、お手並み拝見だ」
戦艦50、空母30、重巡洋艦50、軽巡洋艦70、駆逐艦50で編成された帝国第三艦隊は、前進する。
その正面にいたのは米海軍第42任務部隊である。リオデジャネイロ攻略支援部隊であるTF42は、モンタナ級戦艦5、エセックス級3隻、軽空母1ほか、重巡洋艦3、軽巡洋艦4、駆逐艦24。まともにぶつかれば物量差で捻り潰されるのが明白であった。
第42任務部隊を率いるジェシー・バートレット・オルデンドルフ中将は、不敵な笑みを浮かべた。
「こちらへ来てしまったか。空母部隊は、ただちに戦闘機を発進。味方が到着するまで、こちらに敵の注意を引くぞ」
圧倒的な戦力差を前にしても、オルデンドルフは落ち着き払っていた。
彼の旗艦は、第一戦艦戦隊を構成するモンタナ級戦艦。最新のアリゾナ級には劣るとはいえ、その防御性能は高い。かのバミューダ諸島海戦でもモンタナ級は大破はしても沈没艦はなかった。
敵が大挙押し寄せてくるのは確定だが、集結までの時間を稼ぐことは可能だとオルデンドルフは確信していた。
そしてTF42の通報を受けた大西洋艦隊こと第四艦隊の各任務部隊は、それぞれリオデジャネイロへ集結を開始した。
日本軍の転移支援艦が各任務部隊に随伴しており、異世界帝国の艦隊が現れても各個撃破されないよう準備を進めていたのだ。
まず駆けつけたのは、モンテビデオ攻略支援部隊の第41任務部隊。
アイオワ級戦艦4、エセックス級4を中心にした艦隊がTF42に合流。空母からは艦載機が次々と発進。その他、水上艦艇はオルデンドルフ隊と共同。
艦載機を展開したTF41の空母が転移ゲートで離脱すると、次に第44任務部隊――レシフェ攻略部隊が到着。ここでもエセックス級4隻から航空隊が出撃する間、18インチ砲搭載戦艦であるアリゾナ級戦艦3隻ほか、巡洋艦、駆逐艦が、TF41、42に合流した。
集まるまで攻撃を控えていたオルデンドルフだが、不思議なことに異世界帝国側も攻撃することなく、艦載機の展開をするのみで動きがなかった。
指揮官がお互いに防御的思考で動いたために、半ばお見合い状態となったのだ。
ともあれ、米海軍にとっては、艦隊が揃うまでの時間稼ぎにはなった。
第43任務部隊、第45任務部隊が揃ったことで、第4艦隊は、戦艦20、重巡洋艦17、軽巡洋艦22、駆逐120の戦力となった。
空母18隻のうち、アゾレス級の2隻を除く16隻が転移で一時退避しているが、その大型空母『アゾレス』と僚艦『バミューダ』は、第4艦隊に残っている。
それというのもCV-41『アゾレス』こそ、大西洋艦隊(第4艦隊)の旗艦だったからだ。
司令長官、ジョン・ヘンリー・タワーズ大将は、やはり強気な態度を崩さなかった。まだ数の上では劣勢であるが、彼のガチガチの航空主兵論者であり、艦艇数の不利はこれまで育てあげた航空隊が補ってくれると信じていた。
「異世界人どもを返り討ちにしてやれ!」
Let’s Go!――1000機を超える米海軍空母航空隊が、異世界帝国艦隊に襲いかかる。
対する帝国第三艦隊も展開していた戦闘機を大挙して迎撃に用いた。それと同時に指揮官アフティ大将は艦隊にも前進を命じた。
堂々たる艦隊決戦を挑むのである。彼は自軍航空隊は敵航空機への迎撃に使い、艦隊には艦隊でぶつかる決断をした。
戦艦、重巡洋艦の数で優勢であること。離脱した十数隻の敵空母が第二次攻撃を放ってくる可能性があったこと。それを考え、自軍空母群には備えさせる。
「第三十二、三十三戦艦戦隊、突撃せよ!」
まずは戦艦20隻を中心とする艦隊をぶつける。それで地球軍――米艦隊の実力を確かめるのであった。
・ ・ ・
南米での米艦隊と異世界帝国艦隊がぶつかるのと前後して、所変わって欧州。
フランス、ブレスト。そしてイギリスはプリマスに、ラウンデルをつけた航空機が大群で襲いかかった。
イギリス海軍の空母航空隊。ヘルキャットMk-Ⅱ戦闘機、ターポン攻撃機は異世界帝国軍拠点と飛行場を爆撃し、その制空能力を奪おうとする。
しかし、異世界帝国側もすぐさま無人戦闘機を展開して迎撃を行う。地球軍による欧州反撃に備え、現地部隊も警戒はしていた。
ただし、いざ攻勢があった場合、充分な防衛態勢が整えられているかと言われれば不足しているというのが実情ではあった。
これには前の地球征服軍司令部の作戦方針と、その司令部壊滅後にやってきた皇帝軍の前線掌握がまだ完全に進んでいないことも影響している。
ともあれ、故国奪回に燃えるロイヤル・ネイビーのパイロットたちは、異世界帝国軍の戦闘機を撃墜し飛行場を空爆した。
イギリス海軍史上最大の15隻の空母を用いた機動部隊を活用し、現地航空戦力を叩く。
空母『インプラカブル』『インディファティカブル』、『グローリー』『パーシューズ』『マジェスティック』の第一群。
『アークロイヤルⅡ』『イーグルⅡ』『トライアンフ』『ヴェンジャンス』『ウォリアー』からなる第二群。
『オーディシャス』『ヴィクトリアス』『レヴァイアサン』『テリブル』『マグニフィセント』の第三群。
これら三つの空母群からなる機動部隊は、日本軍の転移ゲート艦の支援を受けて、縦横無尽に移動。ブリテン奪回作戦の先兵として、機動部隊による航空撃滅戦を展開する。
グレートブリテン島南部および、アイルランド島の各飛行場、そしてアヴラタワーに対する攻撃を行い、その防御能力を奪っていくのである。
そして、上陸船団を伴う英独艦隊の主力が大西洋から迫りつつあった。
970話を先に投稿してしまったので、入れ替えました。申し訳ありません。