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第九六二話、上陸部隊、撤収と時間稼ぎ


 アゾレス諸島、テルセイラ島の上陸支援にあたっていたのは、アメリカ海軍大西洋艦隊である第6艦隊――第66任務部隊であった。


 指揮官、チャールズ・A・パウナル中将は、ドイツ艦隊から敵大艦隊出現の報告を受けて、顔をしかめた。


「早過ぎる! 敵は転移を使ってきやがったか!」


 報告された敵艦隊の戦力は、アゾレス諸島攻撃部隊である米英独艦隊と単独で戦えるたけのものがあった。


 ――これは、作戦続行は不可能だ。


 パウナルは、そう判断した。しかし上陸した海兵を見捨てて逃げることはできない。

 昨年まで太平洋戦線にいたパウナルは、一部からその指揮ぶりが消極的と非難されていた。撤退の判断が正しいとしても、我先に、とはさすがにいかない。


「とりあえず、ロッキーにテルセイラからの撤収を指示。置いていかれたくなければ急げと伝えておけ」


 一度上陸して、ほぼ占領を目前にしながら撤退とは釈然としないだろうが、艦隊がいなくなれば上陸した第五海兵師団は孤立する。ケラー・E・ロッキー海兵少将も、敵中孤立は望まないだろう。


「攻撃隊を出せ。同盟軍を見捨てたとあれば寝覚めが悪いからな」


 空母『ボノム・リシャール』『カリブ』『キアサージ』、3隻のエセックス級からカーチスSB2Cヘルダイバー、グラマンTBFアヴェンジャー雷撃機が飛び立つ。

 第66任務部隊は、英独艦隊から離れているが、航空機ならばさほど時間はかからない。迷うのは、こちらの戦艦や巡洋艦を援護に派遣するかどうかだ。


 敵戦艦15隻は、英独艦隊の戦艦でははっきり言って劣勢。66任務部隊の4隻の戦艦が加わったところで、有利になるとは思えない。航空攻撃で敵戦艦を減らすことができれば、チャンスはあるか。


『コネチカット』『カンザスⅡ』『ミネソタⅡ』『サウスカロライナⅡ』は日本からの貸与艦で、速度は28ノット前後と、現在のアメリカ主力戦艦と同等のスピードが出る。それならば、救援に差し向ければ4、5時間程度で合流できるか。


 ――どうせ、それくらいはこちらも動けんのだ。無為無策で過ごすよりも動こう。


 海兵隊の島からの撤収は最短でも半日はかかる。場合によってはもっとだ。であるなら、その待ち時間で各個撃破されないよう、少しでも活躍してもらおう。

 パウナルは決断した。


「戦艦、重巡洋艦戦隊を、イギリス人とドイツ人の救援に送ってやれ」

「アイ・サー」


 第66任務部隊は、空母と上陸船団の部隊と、戦艦、巡洋艦の水上打撃部隊に分かれた。

 旗艦『キアサージ』から、戦艦戦隊が離れていくのを見送るパウナルと第66任務部隊司令部の面々。


 航空隊はすでに飛び去っている。北方から襲来した敵大編隊の迎撃も気になるところだが、上陸部隊の撤収のためには、敵戦艦を含む艦隊も撃滅しなければアゾレス諸島攻撃部隊は窮地に陥ってしまう。



  ・  ・  ・



「敵の艦隊はどうか?」


 ドイツZ艦隊・第二群を率いるエーリヒ・バイ少将は、旗艦『デアフリンガー』にて、後続する異世界帝国艦隊の状況を確認した。


「敵戦艦7、大型巡洋艦8がこちらを追尾しつつありますが、残りはイギリス艦隊の方へ向かったようです」

「敵戦力を二分できた、と考えるべきか」


 何ともいえない顔になるバイである。

 上陸船団を伴わないドイツ艦隊の方に敵艦隊を引きつけることができれば、英軍上陸部隊の撤収の時間稼ぎができるかと考えた。

 敵戦艦は、異世界帝国軍のオリクト級戦艦ではないが、それに匹敵する。速度は28ノット程度で、これならばZ艦隊はつかず離れずの間合いで敵誘引できると思ったのだ。


「戦艦8隻が、イギリス人のもとへ行くとは……。H部隊では、対抗できんだろう」


 かといってこちらも余裕があるわけではない。


「敵大型巡洋艦、増速! こちらを追尾してきます!」


 異世界帝国は、戦艦ではドイツ高速艦隊に追いつけないとみて、より速度の出る大型巡洋艦をけしかけたようだった。

 一番足の遅いビスマルク級戦艦で30ノット。巡洋戦艦や装甲艦ならば、敵大型巡洋艦とほぼ同等だが、足の遅い戦艦に合わせて動く以上、敵大型巡洋艦は振り切れない。


 だが30ノットで走り続ける限り、敵戦艦を引き離すことはできる。まずは8隻の大型巡洋艦を片付けよう――バイはそう判断した。

 敵は駆逐艦と共に大型巡洋艦――マッキンリー級で、ドイツZ艦隊に追いすがる。


「大型巡洋艦……? 戦艦によく似ているじゃないか」


 独りごちるバイ。敵艦隊の上空に目を向けると、そこでは異世界帝国艦隊に迫る攻撃機と、迎え撃つ異世界帝国軍機が交戦している。


「……? 敵艦隊に空母などあったか?」



  ・  ・  ・



 それはクレックスという名の新鋭戦闘機だった。

 機体が細長い三角形をしていて、まるで矢じりのようである。レシプロ機ともこれまでの異世界帝国軍機とも違うその機動は、まるでSFなどにある空飛ぶ円盤のような異質さがあった。


 機首下面に1門装備された光線砲に加え、胴体の6門の20ミリ機関砲の猛射は、艦隊に攻撃を仕掛けようとしたヘルダイバーやアヴェンジャーを次々、ジュラルミンの破片に変えた。


 異世界帝国艦隊の上空に敵新型戦闘機あり――この報告に慌てたフォースHの指揮官キャンベル・テイト中将は、上陸部隊支援の護衛空母の戦闘機を呼び寄せ、攻撃隊の援護を命じた。

 だが、時すでに遅く、英軍機に加え、駆けつけた米軍機も対艦攻撃どころではなかった。


 対するムンドゥス帝国艦隊、第二群を任されたゲラーン・サタナス中将は、旗艦の司令塔内にいて、ほくそ笑む。


「戦闘機がいないと思っていたようだが、それは迂闊だったな」


 モンブラン級――ソビエツキー・ソユーズ級戦艦は艦載機を4機搭載する。大型巡洋艦であるマッキンリー級――クロンシュタット級もまた同じく4機の艦載機と積んでいる。


 これらを水上機ではなく、新型のクレックス汎用戦闘機にしているのが、親衛艦隊所属艦である。

 15隻の戦艦、15隻の大型巡洋艦の艦載機は合計120機。これらが待ち構えているところに、戦闘機なしの攻撃隊が来ればどうなるか。


 結果は、一方的な虐殺だった。

 クレックス戦闘機は新型だけあって、速度もエントマ高速戦闘機に匹敵するが、恐るべきはその小回りと、空中機動能力である。人間には随伴するのが難しい高G運動を平然とこなす頑丈さと、限定的ではあるもののパイロット保護機能を持っている。

 次々に撃ち落とされていく地球製航空機を尻目に、ゲラーンは視線を転じる。


「さて、まずはイギリス艦隊を片付けようか」


 モンブラン級の50口径40.6センチ三連装砲が、イギリス艦隊に向く。ちなみにモンブランの由来は、フランスとイタリアの国境にある山であるという。『白い山』を意味すると聞いた。


 閑話休題。

 ゲラーンは、相対するイギリス艦隊の戦艦、巡洋戦艦を見て、哀れみをおぼえる。


「そんな旧式戦艦ではなぁ!」


 異世界帝国戦艦の主力、オリクト級に匹敵する40.6センチ砲には耐えられない。ゲラーン・コレクションで再生した艦と比べても、さらに性能の低い敵。

 モンブラン級戦艦8隻の主砲が火を噴き、イギリスH部隊に襲いかかった。

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