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第九六〇話、親衛艦隊


 地中海、クレタ島、都市戦艦『ウルブス・ムンドゥス』。アゾレス諸島に地球艦隊が攻撃を仕掛けてきたという報告が入った。

 旗艦の司令室につめていた親衛艦隊司令長官ササ大将は、クレタ島近海に展開する各艦隊司令長官との司令官通信を開いていた。


 ――ササ大将、我が第3艦隊はいつでも出撃できますぞ!

 ――第2艦隊に任せていただければ、蛮人の艦隊など一掃してご覧に入れます。


 各司令長官は、自分の艦隊に任せるよう言ってくる。戦争好きのムンドゥス皇帝の側近である各司令長官らも、負けず劣らず好戦的である。


『いや、ここは私が行こう』


 仮面の親衛艦隊長官のササは、静かな口調で告げた。


『偵察情報によれば、アメリカ、イギリス、ドイツの艦隊が各軍港を出撃したとあるが、アゾレス諸島基地の報告では、その一部のようだ』


 ――つまり……?


『アゾレス諸島への攻撃は陽動だ。おそらく欧州、もしくは南米が本命であろう』


 その時こそ、貴官らの出番だ。ササの言葉に、不満げだった指揮官らの表情は引き締まった。陽動部隊よりも、本命である主力を叩いた方が戦果としては高いのは、言うまでもない。


『それに、あの男も使えるか見ておきたいしな』


 ――はぁ?


『なに、独り言だ。第1艦隊は、都市戦艦の警護。他の艦隊は敵のさらなる攻撃、その規模によって投入を決める。いつでも出撃できるようにしておくように』


 ――ははっ!


 通信は切れる。ササは立ち上がると、皇帝直通のモニターに振り向いた。


『お聞きの通りですが、よろしいですか?』


 ――フフ、やっておっていまさらだ。


 モニターに映るムンドゥス皇帝は、地球産のワインの匂いを堪能し、一息ついた。


 ――お手並み拝見だな、ササ。陽動部隊など、軽く捻ってきたまえ。

『ははっ、必ずや。皇帝陛下、万歳!』


 モニターは切れた。司令室を出て、ササの率いる直轄艦隊のドックへと移動する。


「ササ長官」

『出撃だ。ゲラーン・サタナス君』


 ササは、かつての地球征服軍司令長官を務めたサタナス元帥の息子、ゲラーンに対して機械のように言う。


『皇帝陛下の慈悲によって生かされている。敵前逃亡は、ムンドゥスでは死だ。貴官が、ムンドゥスの戦士というところを見せよ』

「必ずや」


 ゲラーンは頭を下げた。日本侵攻作戦において、父サタナス元帥は日本海軍と戦い、名誉の戦死を遂げた。

 ゲラーンもまた奮戦したものの、戦況挽回ならず苦渋の撤退をした。大敗の責任をとらされ、処分される可能性もあったが、寛大なる皇帝陛下は、ゲラーンを生かした。


 だが二度はない。新たな艦隊で、戦士であるところを見せねば、サタナスの名を汚すことになる。

 敗戦は、彼を成長させた――ササは仮面で素顔こそ見せないが、そう感じていた。これできちんと成果を出せれば、頼れる男となろう。


『今回の相手は、敵の陽動艦隊だ。規模はそれなりだが、親衛艦隊としては勝って当たり前の戦いとなる。日本軍はいないようだが、奴らは転移でどこにでも現れる。油断はするな』

「……! はっ」


 ササは、日本軍の存在を軽視していなかった。これまでの戦いのレポートを一読すれば、その脅威は理解できる。ゲラーンは、地球は初めてであろうこの親衛艦隊長官が、まったく敵を侮っていないことを知り、彼は本物だと思った。


 皇帝と共にきた艦隊司令長官の中には、魔法が使えないからと地球人を下に見ている者がいる。近代戦において、魔法の有無はさほどのものではなくなって、なお古い価値観で物事を見ていては、地球征服軍が負けを重ねてきた後を追うことになる。


『第一群は、私が指揮する』

「長官自ら、ですか?」

『私も早く地球での戦いを経験しておきたい』


 ササは淡々とそう告げた。新しい世界、新しい環境での慣らしをしたいという。ゲラーンは、ササが座乗する彼の旗艦を見やる。


「長官、不躾な質問なのですが……」

『何だ?』

「この超戦艦ですが……何といいますか、かなり地球の戦艦らしさを感じると申しましょうか」

『やはり、わかる者にはわかるのだ』


 仮面で表情はわからない。しかし声の調子からすると静かに笑ったようだった。


『日本海軍のヤマト型戦艦は知っているな? あれの原案の一つだ』

「原案……」


 ゲラーンは首をかしげる。


「しかしこれは、フランスのリシュリュー級、いやイギリスのネルソン級にも似たシルエットをしております」


 艦艇マニアな一面を覗かせるゲラーンである。


 ササ長官の超戦艦は、艦首側に主砲を三基集め、艦尾側は、艦載機収容区画となっているのかカタパルトが三基あった。

 基準排水量7万8000トン。全長290メートルのその戦艦は、47口径50センチ四連装砲3基12門、20.3センチ連装副砲8基16門。13センチ連装高角砲9基他を装備する。最高速度、公表値は30ノット。しかし実際の速度は35ノットを出せるという化け物である。


『構想と計画の代物だが、ムンドゥスの技術力を持ってすれば、無理と言われた計画値も実現ができる』

「艦名は、どう付けられたのですか? ムンドゥスには馴染みのないものですが」

『この地球世界に存在するものの名前をつけさせた。……この世界の人間の設計を元にしている艦だからな。それに敬意を表してだ』


 大和型原案ベースの超戦艦、ゴッドウィン・オースティン級。そのネームシップは

『ゴッドウィン・オースティン』、姉妹艦は『アンナプルナ』『エレバス』『ルフェンゾリ』となっている。


「では、ひょっとして私に与えられた艦艇たちも――」

『名前は、この世界由来のものだ。気にいらなければ変えてもよいが』

「いえ、地球産ですから、私も異存はありません」


 ゲラーンは自らに与えられた新艦隊に視線を移す。


 ソ連のソビエツキー・ソユーズ級をベースにした大型戦艦、モンブラン級が15隻。同ソ連のクロンシュタット級巡洋艦――大型巡洋艦マッキンリー級が15隻。

 ほか、空母や巡洋艦、駆逐艦が、出撃の時を待っている。

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