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第九五五話、試験艦と新型砲


 異世界――ルベル世界と繋がっていたゲートが破壊された。

 日本やアメリカ海軍上層部は、どうにか義勇軍艦隊との連絡、そして補給ルートを確保しようと躍起になっている1944年12月。


 それでも世界は動いていて、イギリス・ドイツはブリテン島奪回作戦に注力し、アメリカは両国を支援しつつ、南米東海岸の要港制圧と南米奪回のための攻勢作戦『イースト・カバー』の準備を進めていた。


 どちらも1945年1月上旬に実施ということで、米本土防衛戦――バミューダ諸島沖海戦で受けた痛手から回復。日本の技術協力もあり、ドイツはZ艦隊を再建。米英艦隊も、沈没艦の再生、鹵獲復帰艦の復活となって、以前よりも強力な戦力を手に入れていた。


 一方の日本、連合艦隊は、無人艦を含めた艦隊戦力の再編の真っ只中にある。戦力回復、弾薬備蓄、訓練などで当面、大規模作戦は行わない方向で調整が進められている。

 そんな連合艦隊とは別に、軍令部直轄遊撃部隊『神明戦隊』の編成もまた、行われていた。


「もう戦隊の規模じゃあないんですがね」


 藤島 正参謀は、上司にあたる神明 龍造少将に言った。その神明は肩をすくめる。


「最初の臨時編成の時点で、そうだった」


 ギニア湾に迫る異世界帝国艦隊の迎撃を命じられ、部隊を編成した際も、潜水艦を入れて十二隻を率いた。一個戦隊が四隻前後と考えれば、単純に三倍である。


「水雷戦隊や潜水戦隊という見方をすれば、セーフですかね」


 藤島は笑うのである。

 魔技研の管轄する九頭島泊地の秘密ドックに、神明と藤島はいた。


「そういえば聞きましたか? 例のシベリア送りにした敵艦が、ほぼ全部ロートルだったらしいって話」

「ゲート艦だけが比較的新しいキュクロス級だが、それ以外は、古い艦ばかりという話は私も聞いた」


 神明は報告書を思い出し、わずかに眉をひそめた。

 装甲艦『大雷』によってシベリアの平原に落とされた異世界帝国艦隊。戦艦は55隻、空母は30隻が破壊され、巡洋艦は約130隻を葬った。


 だが損傷した敵艦を調査した結果、新型と思われたものは、性能では現状の主力とされるものより口径の小さい砲を搭載していたり、機関の性能が低いなど、明らかに低性能なものばかりだった。


「結果論だが、あの艦隊は囮だったのだろうな」


 地球側が、艦隊の接近に注目している隙に、重爆撃機やアステール群を本命としてマラボゲートを破壊する。……事実、そのようになった。


「どうも敵にいいように利用された気がして、面白くない」


 珍しく神明が拗ねたようなことを言ったので、藤島は目を見開いた。


「だとしても、軍令部側からの指示だったわけじゃないですか。こちらは役目を果たしました」


 シベリア送り戦法も、軍令部からの命令で、神明はそれをそつなくこなした。現場レベルでは何の落ち度もなく、作戦は大成功だった。

 しかし釈然としない神明である。藤島は気を取り直すように言った。


「我々にとっては、これからですよ」


 地中海に乗り込み、紫の艦隊の旗艦である超戦艦を撃沈。そして来年1月に実行されるイギリス・ドイツのブリテン島奪回作戦の支援などなど。

 すでに重要だったり、大きな作戦に関わることが半ば決定している。


「軍令部直轄の遊撃部隊だからな」


 いいように使われる立場だ。ただ戦力について口出しが許されているだけ、まだマシである。たとえば一個航空戦隊を与えられ、これで何とかしろと言われても、向き不向きがあるから限界があるのだ。

 ただ口出しが許されているとはいえ、口出しされないとも言っていない。


「やあ、来たね」


 志下 (たもつ)技術少将が、やってきた神明らに声をかけた。先日、会った時は大佐だったから、先日の人事改編期に昇級したのだ。昇進おめでとうございます、と挨拶はしても、当の志下は関心がなかった。


「今回、君の部隊で使ってもらいたいのが、こいつだ」


 ドックを見下ろす通路から、それが鎮座している。藤島は口を開いた。


「こいつは、大和型ですか? いや、主砲が連装だ。……51センチ砲?」


 大和型戦艦によく似た艦である。マル5計画で予定されていた大和型の設計を流用した超大和型戦艦のようにも見えなくもない。


「残念ながら、大和型戦艦ではない」


 志下は淡々と告げた。


「艦上構造物を全て取っ払って、大和型以降のスタンダードなものに変更したから、そう見えても仕方がないがね。こいつは、君らがかつてトロンハイム・フィヨルドで沈めたソビエツキー・ソユーズ級戦艦の艦体を利用した改装艦だ」


 T艦隊が襲撃し、撃滅した異世界帝国の北欧艦隊。ビスマルク級戦艦『ティルピッツ』と並んで、主力として君臨したソビエツキー・ソユーズ級戦艦『ソビエツカヤ・ロシア』がその正体だった。


「中身は違うのだが、寸法は大和型に近い大型戦艦だ。今後の大和型や播磨型の改装のための試験艦として使う予定だったんだが、その延長で実戦でも使ってもらう――というのが、お上の判断らしい」

「……」


 神明はじっと、ソビエツカヤ・ロシアだった戦艦を見下ろす。艦体のバルジとは異なる張り出し――


「これ、エ1式機関搭載してます?」

「え、それじゃあ、こいつ飛ぶんですか!?」


 藤島が驚いた。志下は薄く笑う。


「まあ試験艦だからね。誰が言い出したかしらないが、エ1式機関を戦艦級にも載せてみたいというものでね」


 魔技研の研究員の誰かが言い出したのだろう。せいぜい巡洋艦クラスに載せたエ1式機関だが、戦艦のような巨艦にも載せたいと考えるのは、容易に想像できた。


「ここまで改造されているとは知りませんでした」


 実のところ、神明は、魔技研が『ソビエツカヤ・ロシア』を実験艦として手を加えているのは知っていた。先日のダカール港砲撃で、『大和』艦長の有賀に、新しい砲身があると言ったのは、この『ソビエツカヤ・ロシア』に搭載予定だった砲に関係する。


 聞いていた話では、試作砲は46センチ砲用だったが、これからの日本海軍戦艦の主砲は51センチ砲がスタンダードになるということで、そちらに変更になった。

 で、すでに作ってしまった46センチ砲用の砲身が余っているというのを小耳に挟んでいたから、それを『大和』に交換ついでに装備させようと企んでいたのだ。


 案の定、内地に戻った『大和』は砲身交換と、小改装、整備を受けることになったが、まさかオリジナルの試験艦の方まで、遊撃部隊で使えとくるとは、神明は予想していなかった。


「一応、確認しますが、この戦艦の主砲は例の転移砲で間違いないですか?」

「そうだ」


 志下は認めた。藤島は先ほどから驚きっぱなしである。


「転移砲、って何です?」

「その名の通り、砲弾を目標に転移させてぶつける大砲だ」


 神明がそっけなく言うと、志下が説明した。


「敵艦艇の防御障壁のせいで、砲撃戦では中々その防御が破れなかったからね。砲身に転移の仕掛けがあって、撃ち出された砲弾が目標に転移するという仕組みだ。転移誘導弾のように、敵の内部に潜り込むわけではないが、障壁は無視して、高初速の勢いのまま直接装甲にぶつけることができる。それを51センチ砲でやるということは……後はわかるな?」

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