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第九五四話、異世界、孤立


 マラボゲートが破壊された。

 その報告は、海軍軍令部にもたらされ、沈痛な空気をまとわせた。

 軍令部次長の小沢 治三郎中将は、苦虫を噛みつぶしたような顔をし、新たに軍令部第一部長となった富岡 定俊少将に言った。


「つまりは、ルベル世界の義勇軍艦隊と連絡がとれなくなったわけだ」

「そうなります」


 富岡は首肯した。


「神明戦隊が駆けつけた時には、すでにゲートは敵円盤兵器によって破壊されていたとのことです」


 南東方面艦隊参謀長、兼第十一航空艦隊参謀長から、軍令部第一部長となった富岡は、海兵45期。神明戦隊の神明 龍造少将とは同期である。


「円盤兵器か」


 小沢はぶすっとした顔になった。


「アステールを数で使ってきたか。それでは神明でも無理だな」

「今のところ、あの円盤を撃墜するのは転移誘導弾を撃ち込むのが一番ですが――」


 富岡は眉間にしわを寄せた。


「三航艦の迎撃機が、先に誘導弾を使い切ったところを攻めてきたようです。敵はこちらの迎撃の裏をかいてきたということでしょう」


 きちんと準備ができれば、まだ何とかなったかもしれない。今回は異世界帝国航空部隊の戦術にやられたと言える。


「こちらもエ1式機関が生産できるようになったというのに……」


 小沢は唸るように言った。


「アステールが大挙押し寄せた場合の対策を立てないといかん。同じ戦法でこられたら、守りきれんぞ」


 危機感が募る。第三航空艦隊は善戦したが、その飛行場の大半がやられ、ルベル世界への道も破壊されてしまった。

 敵がこの勝利に味を占める前に手を講じなければいけない。アステール対策は、先に富岡が言った通りだが、敵の戦術を防空隊側にも共有させ、敵の手に乗らないようにする必要がある。さらに迎撃機の増強、転移誘導弾の供給もまた急務となるだろう。


「孤立した義勇軍艦隊を救出する手段は、何とかなりそうなのか?」


 作戦担当の第一部長に問えば、富岡は事務的に応じた。


「敵のゲートを奪うしか手はありません。ですが、はっきりわかっているゲートは、地中海クレタ島とポーランドのワルシャワ、イギリスはリバプールとなります」

「揃いも揃って欧州か」


 完全に異世界帝国のテリトリーである。しかもここ最近、地中海は、大規模な増援があって、海軍の規模がまた脅威となっていた。


「アフリカはないんだな?」

「小規模なものがいくつかあるようですが、確認中です。艦隊規模のゲートは、マラボゲートが担っていましたし」

「……そうなるか。となると、欧州を狙うしかないのか」


 小沢は嘆息した。


「しかし、ワルシャワは陸地じゃないか?」

「そうなります。艦隊での移動となると、地中海、もしくはイギリスなのですが、そもそもの話、それがルベル世界に通じているともわかっていません」

「別の異世界、あるいは異世界帝国の本国の可能性もあるわけだ」


 どうしたものか、小沢は考える。


「アメリカが進めていた地球人救出作戦、エクソダスも、マラボゲートがやられたのでは中止だろう。だが、何としても義勇軍艦隊、もしくは支援部隊と連絡を取り、できるだけ早くこちらの世界に戻らせないといけない」

「義勇軍艦隊が、自力で敵のゲートを入手し、こちらの世界に帰ってくるということは考えられませんか?」

「それが現状理想だが、補給が絶たれたのだぞ? あちらにできることなど高がしれている。それにあちらに任せるというのは、他力本願。こちらの責任放棄だろう」

「浅慮でした。申し訳ありません」


 富岡は詫びた。小沢は頷く。


「こちらからアクションを仕掛けるとして、ゲートに一番近いのは……」

「イギリスでしょうか」


 富岡は切り出した。


「来年一月に、予定通りであるならブリテン島奪回作戦が実施されます。地中海の艦隊、またイギリスにもゲートがあるので、そこからの増援が気がかりではありますが、もしイギリス・ドイツ、そしてアメリカの連合軍がブリテン島を奪回できたなら……」

「ゲートを無傷で確保できるかは別だぞ」


 南極の敵基地――ティポタ制圧に成功した日本軍だったが、転移ゲートは向こうから切られたために使えずにいる。解析は進められているが、復旧はほぼ不可能というのが、研究者たちの意見だった。


「だが、今、連合艦隊は再編中。大規模な派遣が不可能である以上、連合軍の作戦に乗っかるのが、もっともらしくはある」

「神明少将に任せますか?」

「そのための軍令部直轄遊撃部隊だ」


 小沢は振り返った。


「富岡部長。貴様は神明とは同期だったな。あいつが必要なものに関して、優先的に回してやれ。こちらの立てる無茶な作戦案を実施できるのは、あいつしかおらん」

「無茶、ですか」


 これには富岡は苦笑するしかない。そもそも実戦部隊は連合艦隊であり、それにしたところで、軍令部の作戦に素直に頷くかは別の話である。


 本来は、軍令部の作戦を、連合艦隊が実行するのが正しいのだが、前連合艦隊司令長官の山本 五十六元帥は、連合艦隊独自の作戦を立案し、軍令部案とよく衝突した。

 長官を古賀 峯一大将が引き継いでから、軍令部が主導権を取り戻しつつあるが、まだまだ連合艦隊司令部とやりとりで、すんなりいかないこともある。


「軍令部は、一部の航空艦隊や無人艦隊に権限を持っている」


 小沢は言った。


「連合艦隊が動けない以上、本土防衛戦力だろうと使うしかない。それを神明がくれというなら出してやれ」

「はっ」

「しかし――しかしばかりだな」


 小沢も苦笑いを浮かべた。


「我々は、いつになったら異世界人の本拠地に攻勢をかけることができるかなぁ」

「攻勢ですか……?」


 怪訝な顔になる富岡。小沢は真顔で告げた。


「守勢のまま、いつか敵が折れるのを待つでは、この戦争は負ける。日本にも、あまり時間は残されておらんのだ」

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