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復活の艦隊 異世界大戦1942  作者: 柊遊馬


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第九五二話、作戦は成功したが……


 彩雲艦上偵察機の観測により、アフリカ西海岸沿岸を進んでいた異世界帝国艦隊の残存戦力が確認された。


「前衛群、軽巡2、駆逐艦8。中央群、駆逐艦25。最後尾群、駆逐艦10」

「合わせて45隻か」


 遊撃部隊旗艦『大和』。司令の神明 龍造少将は、艦長の有賀 幸作大佐と今後の対応について話し合う。


「空母、戦艦と巡洋艦の大半は、シベリアに墜落したのを『火雷』が確認した」


 事前の敵艦数と照らし合わせれば、戦艦55、空母30、巡洋艦129、駆逐艦97が大地とキスして果てたことになる。


「大戦果だ!」


 有賀は声をあげたが、すぐに声を落とした。


「何だか、とても味気ないが」


 戦った、という感覚が湧かないせいもあるだろう。せめて大砲を撃ったとか、航空機が爆撃した、なら、また違っただろうが。


「どうしたんだ、神明。あまり嬉しそうにないが」

「次も通用すればいいな、と思ったんだ」


 敵艦隊は、こちらのシベリア送り戦法に対して、何かしらの対応するような素振りを見せた。一度やっている戦術なのだから、異世界人が警戒し、対策を考えていてもおかしくはない。


 それが気休め程度の陣形変更だけ――つまり、魔法陣型ゲートでひとまとめにやられないよう分散するというものなら、まだいい。こちらも転移ゲート艦を複数投入すれば、分散しようが関係ないのだから。


 今回の敵がしようとしたのは、予め陣形変更する予定だったのではない限り、その程度の対策しかなかったが、次はよりしっかりしたものを用意してくるかもしれない。そうなったら、今回のような大戦果もあげられなくなる。


「そう簡単に対策できるものなのかなぁ」


 腕を組んで唸る有賀。神明は言った。


「兵器や戦術は、イタチごっこだからな。送り出した艦隊が、片っ端から転移させられたら敵も困る。ブラジルでやった時以来、あちらも必死に対抗策を考えているだろう」


 すでにそのための装備も完成させているかもしれない。魔技研や海軍でも、敵が同じような戦法を真似てきた時のための対策開発が急務となっている。

 それはそれとして――


「残りの敵はどうするんだ、神明?」

「集合するなら、これもシベリアに送ろう」


 残存する45隻の大半が駆逐艦とはいえ、遊撃部隊の戦力からすると、それなりに消耗を強いられる。節約できるところは節約すべきだ。


 ――もっとも、もったいない癖がつくのは、戦果拡大の上では厄介ではあるが。


 大事なところを見誤り、敵を取り逃がすなんてことにもなりかねない。戦力保全が言い訳に使えてしまうのは、あまりよろしくはなかった。


「集合しなかったら?」


 有賀は海図台で、アフリカ西海岸の地図を睨んだ。


「駆逐艦の燃料補給のことを考えたら、手近な味方の港に立ち寄る、か?」


 まさかこのままギニア湾に突入しようなんてことは――有賀は言いかけ、しかしやめた。そのまさかも、あるかもしれない。


「突入を強行するようなら、やはり戦力を集結させるだろうから、そこを転移ゲートで送ればいい」


 神明はきっぱりと告げた。


「近くの港に寄るのであれば、遊撃部隊は砲撃戦を仕掛けて、港の施設もろとも残存艦を片付けよう」


 敵の補給拠点にもダメージを与えれば、マラボゲートを海上艦隊で狙う作戦もとりづらくなる。以後もその作戦をさせないのであれば、港も破壊しておくのがよいのだ。

 そこが、弾薬の使いどころと言えよう。



  ・  ・  ・



 地中海、ムンドゥス帝国都市戦艦『ウルブス・ムンドゥス』。

 作戦司令部にいた親衛艦隊長官のササ大将は、紫星艦隊司令長官ヴォルク・テシス大将ら提督らと、報告を受けていた。


『ギニア湾を目指していたゲート攻撃艦隊が、消息を絶った』


 ササ大将は告げる。


『残存艦の報告によれば、転移ゲートが艦隊を覆い、どこぞへ転移させたらしい』


 かつて、ブラジルのベレンから南極拠点ティポタへ撤退した第三戦闘軍団が、転移ゲートによって連れ去られ、消息不明となった件と酷似している状況。テシス大将は口を開いた。


「日本軍の仕業、ですか」

『おそらく、な』


 ササが頷けば、提督たちはざわついた。

 アメリカ、イギリス、ドイツと大西洋にいる艦隊が出撃したという報告はない。そうなれば、転移を自在に活用できる日本軍の仕業と見るのが妥当だ。


『幸い、飛ばされた艦隊は、老朽艦を集めた無人艦を主力としていた。数こそ馬鹿にはできなかったが、これで敵の戦術を理解することができた』

「と、申されますと?」


 帝国第五艦隊司令長官のオルモス大将が尋ねる。顔が細く長身の男である。


『日本軍は、転移による艦隊攻撃を常に使える状態になったということだ』


 ティポタの前でやってのけたそれが、たまたま一回しかできなかった戦法ではなく、やろうと思えば、いつでも仕掛けられるようになった――そう解釈できる。


「では、我々の艦隊が前線に赴く時、常にその転移戦法に備えなければならないということですか?」

「防げるのか?」


 帝国第三艦隊司令長官アフティ大将が腕を組んで唸った。剃り上げた頭、いかつい体躯の老将である。


「敵がゲートを使うまで、黙って見ていたわけではあるまい。敵は遮蔽によって姿を隠しておったのだろう。いきなり現れる敵の転移攻撃を防ぐ手はあるのか?」

『ある』


 ササは、きっぱり言った。


『我が方の魔法陣型転移は、属性は魔法だ。それならば対魔法防御で、ゲート魔法をキャンセルすればよい。それだけのことだ』

「なるほど、敵が我が軍の魔法陣型転移を活用しているなら、それで防げますな」


 オルモスが感心の声をあげた。様々な異世界を侵略したムンドゥス帝国は、時に魔法で対抗してくる敵とも戦った。当然、それに対する防御手段も確立している。


「まさか、この世界で魔法対策を使うことになろうとは……」

「魔力があっても魔法が使えない蛮族と侮っていたが、意外なところで役に立ちそうではある」


 提督たちは頷いた。聞いていたテシス大将は考える。魔法防御――もしかしたら日本軍が使う転移爆弾や誘導弾も、魔法技術が利用されているのではないか。


 だとすれば、地球人は魔法が使えないという常識を改めなければいけない。これまで連れ去った地球人で、魔法を使う者は確認されていなかった。だからムンドゥス帝国人の共通認識として、魔法を使えないと決めつけていたが、それが今日まで続く敗北の一因だったのかもしれない。

 そこへ通信士官が、新たな報告を持ってやってきた。


「ダカール軍港が、日本軍による奇襲を受けました。港湾施設、燃料タンクが破壊され、現在、撤退中のギニア湾ゲート攻撃艦隊残存艦の補給に支障が出ると思われます」

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