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第九五一話、転移戦法再び


 エ1式機関を装備した装甲艦『大雷』は、時速300キロで飛行していた。敵の目から逃れるために遮蔽で姿を消して、アフリカ西海岸沿岸に添うように飛ぶ。


 艦長の浮田 兵八大佐は、海兵46期。海軍の流れで言えば、航海屋。前は転移巡洋艦『本渡』の艦長を務めていた。


 転移巡の『本渡』も、自動化が進んだフネであったが、この『大電』もまた大概で、乗員は50名を切っている。


 規模が近く、ポケット戦艦とも言われた装甲艦、ドイツのドイッチェラント級で1150人の乗員がいることを思えば、その自動化っぷりは凄まじい。

 補助に、そのドイツから提供された自動人形兵が使われているので、実のところ150人規模ではあるが、それでも自動化していない駆逐艦より少ない。


 それっぽっちの人員しかいない艦艇で、異世界人の大艦隊へ突入する――そう考えた時、浮田大佐は身震いする。決して好戦的な性格とは言い難いが、自分たちの役割如何で、作戦の成否が左右される。

 極めて責任重大であった。


「手順通りにやれば大丈夫だ」


 唱えるように呟く。やがて、異世界帝国艦隊――その第一目標が見えてきた。


「敵空母部隊、発見!」

「よろしい。降下しつつ、敵艦隊前方に着水せよ!」

「宜候ー!」


 航海長が、魔核端末を操作しつつ、全長205メートルの巨艦を緩やかに海面へと降下させる。速度を落としつつ、海上航行に備える。

 空飛ぶ軍艦のスタイルを持つ大雷型装甲艦は、船の形をしているため、海の上を走ることができる。


 ただし、航行速度でいえば、空を飛んでいる方が断然早い。海上航行は、海の抵抗もあって通常の巡洋艦程度の速度しか出せない。だが魔法陣型ゲートによって、敵艦隊を巻き込むためには水平方向を合わせる――つまり、海の上を航行する必要があった。


「エ1式機関、異常なし!」


 航空機なら速度を落とし過ぎれば失速からの墜落だが、反重力機関であるエ1式は、『大雷』の艦体を浮遊させつつ、失速させない。


「着水しまーすっ!」


 緩やかに海面に艦底が触れて、滑るように海上航行に移行。それまでと速度感が変わり、圧倒的にスピードが遅くなった。

 敵前での着水成功に、ひとまずホッとする浮田である。しかし、ここからが本番だ。


「遮蔽航行を維持したまま、前進。敵艦隊中央へ侵入!」


 どうか遮蔽を見破る装備を敵が持っていませんように――そう願ったのは、浮田だけではなかっただろう。

 これまで敵から姿を隠してきた遮蔽技術だが、それでも単艦で、大艦隊に飛び込むのは勇気を試される。バレていないとわかっていても、緊張の度合いは凄まじい。


「艦長、主砲を手近な艦へ指向させてもよろしいでしょうか?」


 砲術長が確認してきた。

 全て順調であれば、当面、『大雷』の火器を使うこともなく終わる。しかし万が一、敵が潜入に気づくことがあれば、気勢を制するために主砲――30.5センチ三連光弾砲をぶっ放す。

 戦艦以外であれば、一撃で大破、沈没も狙える砲の存在は頼りになるが、同時に使わずとも済む可能性のあるものに縋るのは、それだけプレッシャーを感じていることの現れでもあった。


「構わんが早まって撃つなよ」


 注意はしておく。『大雷』の任務は、敵中で魔法陣を展開することであって、大砲を撃ち込むことではないのだ。

 護衛の駆逐艦の間を抜ける。艦橋内は緊張に包まれ、静かだった。浮田は、手を伸ばせば届きそうな距離を通過する敵艦を横目に、指示を出す。


「未確認の艦型がある。後で識別表が作れるように記録をつけておけ」


 新型か、と言われると、妙にくたびれているような気がする未確認の駆逐艦や巡洋艦。偵察機がもたらした報告では、新型艦が含まれるとあったが、船乗りとしての長年の経験からすると、どうもピカピカの新品には見えなかった。


「こちらでは未確認というだけで、実はお古だったりするのか……?」


 浮田は違和感を抱きつつ、装甲艦『大雷』は、ズンズンと敵機動部隊内に入り込み、やがてその中心を目前とする。


「魔法陣型ゲート、用意!」


 いまだ敵に動きは見られない。遮蔽様々。今日もまだ対策はされていなかった。


「転移、はじめ!」



  ・  ・  ・



『大雷』を中心に魔法陣が広がる。光は、瞬きの間に、異世界帝国艦隊最後尾の機動部隊を包み込み、瞬間移動させた。


 移動先は、シベリア上空で転移ゲートを開いて飛行している大雷型装甲艦『火雷』。高度5000メートル上空から、転移で飛ばされた異世界帝国艦隊は、次の瞬間、重力に引かれるまま墜落する!


 空母が、戦艦が、巡洋艦が真冬のシベリアの大地に激突して潰れ、派手な爆発を起こした。

 ベレンでの異世界帝国第三戦闘軍団を飛ばした時は、転移先のゲート艦もろとも落下して爆散させてしまったが、エ1式機関搭載の『火雷』は、上空をのんびりと飛行している。


 敵機動部隊、その大半が、一瞬で破壊された。ゲートの範囲外だったのは、駆逐艦が十隻ほど。主目標である戦艦、空母は全滅した。

 機動部隊を消した『大雷』は、続いて敵中央部隊に目標を定める。翔竜航空隊の彩雲改二偵察機が投下した転移中継ブイを使って、250海里を瞬間移動。


 ここでも艦隊の中心へと忍び寄り、一隻でも多く効果範囲に収めようと機動し、そして魔法陣型ゲートを展開した。その少し前に、艦隊の陣形が変更されたようで戦隊ごとに速度を変えはじめていたが、手遅れだった。


 主要な戦艦、空母がシベリア送りにされる中、敵情を観測していた彩雲改二は、本隊である遊撃部隊に報告を入れる。

 遊撃部隊こと、神明戦隊。その旗艦『大和』で、神明 龍造少将と有賀 幸作艦長は、敵中央部隊の残存数の知らせを受けた。


「駆逐艦25隻が残ったか。この直前の陣形変更も気になるな」


 神明が言うと、有賀は軍帽をとって汗を拭った。


「というと?」

「後衛の機動部隊を転移させたが、その時の残りが、中央部隊にこちらの転移戦法を通報したんだと思う」


 機動部隊が消えた。範囲外で残った10隻ほどの駆逐艦が中央部隊に報告をし、それを受け取った中央部隊は、転移戦法を警戒して、部隊を展開、分散させようとしたのではないか。


「だとすると、報告を受けてから、移動までがかなり早いんじゃないか? こちらのシベリア送り戦法を、奴らも警戒していたことになるが……」

「一度ブラジルでやられているんだ。警戒されていてもおかしくはない」


 神明は顔を上げた。残るは先頭の一群だが――


「報告! 『大雷』、敵先頭群に侵入。転移ゲートを展開し、これを転移させました!」


 間髪を入れず、連続して転移戦法をやる段取りだから、すでに『大雷』は、残る敵先頭群にもシベリア送りを発動させた。

 これで主な目標は果たしたが、残っている駆逐艦など残存戦力はどう処理か。しばし敵の動きを見ることになる。

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