第九五〇話、出撃! 神明戦隊
ギニア湾マラボゲートを目指していると思われる異世界帝国艦隊。これに、特殊転移戦法――通称、シベリア送り戦法を仕掛けるべく編成された特別部隊が、日本より出撃した。
一週間で部隊を揃え、短いながらも訓練した。指揮官である神明 龍造少将は、付け焼き刃なりに成功を確信はできる程度にはなっていた。
――問題があるとすれば、転移戦法が通用しなかった場合、か。
神明は考える。異世界帝国のゲート艦が使う魔法陣型ゲート。あれを利用して、一度は一個艦隊を通称にもなっているシベリアの大地に送ってやった。
だが異世界帝国としても、一度やられた戦法に対して、それを無効にする策を考えていてもおかしくはない。
日本本土攻防戦において、日本海軍の切り札でもあった海氷島が通用しなかった。
同じく本土攻防戦で、敵はゲートに艦隊を巻き込んだ使い方をしていたが、移動に巻き込んだだけで、転移で敵を破壊するまではしていなかった。
敵味方を識別して使った様子もなく、先の時点では、まだシベリア送り戦法は有効だったと思われる。
願わくば、まだ対策方法を見つけていないことを祈るばかりである。
――いちおう、無効だった場合の戦力は用意してきたが、どこまでやれるか……。
そちらについては、やれるだけはやるが自信はない神明である。部隊全体を預かり、指揮官として作戦の成否に思いを巡らせれば、自然と重圧がのし掛かる。
失敗したらという不安。山本 五十六前連合艦隊司令長官が、連合艦隊主力で出撃の時に感じていた重圧は、おそらくこの比ではないだろう。
「神明、いや司令。何か問題がありましたか?」
声をかけてきたのは、戦艦『大和』艦長、有賀 幸作大佐である。
臨時編成部隊ながら、神明戦隊と言われる部隊の旗艦である『大和』。その艦長は、神明と同期である海兵45期卒業。やはり同期の森下 信衛から引き継いだ。
神明は、同期の艦長に頷く。
「問題はなくはないが、正直、後はやってみないことにはどうにもならないな」
「そうか。それなら仕方ない。肩の力を抜いてやっていこう」
そう朗らかに有賀は言った。生粋の水雷屋である彼は、これで度胸があり、自分たちが立ち向かう相手との戦力差を前にしても、怯んだ様子はなかった。ある意味、図太い男である。
臨時部隊の編成は以下の通り。
●臨時編成遊撃部隊:司令官、神明 龍造少将
・前衛転移部隊:装甲艦:『大雷』『火雷』
・遊撃部隊主隊:戦艦:『大和』
空母:『翔竜』『鳳翔』
軽巡洋艦:『矢矧』
駆逐艦:『島風』『海霧』
潜水艦:『伊701』『伊702』『伊703』『伊704』
連合艦隊は大規模な改編の最中にある。先の大海戦における損傷修理中の艦艇も多く、だいぶ穴だらけの編成を見やり、その隙間をついて抜いた戦力である。
海軍省、軍令部、そして連合艦隊からも許可をもらった上での引き抜きだが、当然といえば当然だが寄せ集め感がひどかった。
「この戦力で、マラボゲートを守ろうというんだからな」
有賀の発言に、神明はやんわり訂正を加える。
「いや、ゲート防衛だけなら、現地に海防戦艦『富士』を含めた封鎖戦艦戦隊があるし、第三航空艦隊も展開している。前衛転移部隊で上手くいかなかったら、現地部隊と協力して応戦、ということになる」
とはいえ、ギニア湾の転移ゲートが見える範囲にまで敵艦隊が来た時点で、ほぼ負けだと神明は考えている。
こちらは敵を撃退しなければいけないが、異世界帝国は転移ゲートの奪取ができなければ、破壊してしまえば、それでゲームセットだからだ。彼らにとって、異世界を行き来するゲートは、マラボゲート以外にもある。
しかしこちらがルベル世界に送った義勇軍艦隊やその支援艦隊は、そのゲートを失えば異世界で孤立してしまうのである。
「しかし、神明。そのルベル世界にも、ゲートは一つだけではないのだろう?」
有賀が指摘した。
「最悪、ギニア湾のゲートがやられても、義勇軍艦隊の方で、あの世界の別のゲートを攻略できれば、異世界から脱出も可能ではないか?」
「その通り。可能だ」
神明は薄く笑った。
「だが、問題は現地の艦隊で、敵ゲートを制圧できるか、だ。一度補給が途絶えた後で、抵抗勢力の助けを借りつつも、ゲートを手に入れることができるか……」
「難しいか、やはり」
「向こうの情報が断片的だからな。案外本気を出せばやれるかもしれないが、純粋に戦力差があり過ぎて無理かもしれない」
「そうかぁ……」
有賀は天を仰いだ。
「まあ、ここでわからないことをあれこれ言ってもしょうがない。まずは目の前の敵に集中するとしよう」
「敵の艦隊は三群に分かれて進軍している」
神明は、これまでの偵察情報、そして『翔竜』偵察機からの報告を確認する。
「先頭の一群は、戦艦級15、重巡洋艦17、軽巡洋艦40、駆逐艦40……。未確認の型がいくつか混じっている」
「新型か?」
「かもしれない」
普通に考えれば、新型に思えるが、ここ最近の異世界人は、型落ちと思われる艦艇も積極的に前に出しているように見受けられる。
ひょっとしたら数合わせのための旧式を引っ張り出しているのではないか、と疑いも持っている神明である。
「中央は、戦艦30、空母10、重巡洋艦17、軽巡洋艦30、駆逐艦60。その後方250海里、最後尾には、空母20、戦艦10、重巡洋艦12、軽巡洋艦15、駆逐艦40の機動部隊」
「なあ、神明。重巡だけ数字が半端なのが気になるが、これってひょっとして」
「ああ、ゲート艦だ。元となった艦級は重巡扱いになっているからな」
つまり各群に二隻ずつ、敵は魔法陣型ゲート艦を随伴させている。有賀は言った。
「こいつらを全てシベリア送りにしてやるわけだな。……こっちの転移装甲艦は二隻、うち一隻は、シベリアの上空で待機しているんだろう? 具体的にはどうやるんだ?」
「『翔竜』から彩雲改二を出して、転移中継ブイを敵艦隊針路上に投下している」
神明は答えた。
「転移的電撃作戦を実施する」




