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第九四九話、大雷型装甲艦


 仮称、装甲艦。

 その転移ゲート艦は、呼称されていた。しかし、その見た目は、通常の軍艦の艦体に円盤を突っ込んだような異形であったが。


「これで空に転移させても、落っこちることはない。そもそもこのフネ自体が飛行可能だからね」


 志下 (たもつ)造船大佐は、そう皮肉げに神明少将に言った。

 ブラジル、ベレンでの異世界帝国艦隊――第三戦闘軍団、シベリア送り事件で、回収、修復した転移ゲート艦を潰された時の恨みを忘れていないよ、と言いたげであった。


「見ての通り、エ1式を積んでいる。まあ、日本製のコピーだから、少々本家より性能は落ちるがね。ただその分、扱いやすいように調整されているから、現場では、本家より評価はいいと思う」


 エ1式機関――異世界帝国の円盤型攻撃兵器アステールが装備していた反重力推進機関エーワンゲリウム。それが、この円盤付き軍艦に搭載されている。


「『北辰』や『妙見』より、スリムですね」


 神明がそう評すると、志下は肩をすくめた。


「エ1式機関に関係する部分を小さくしたからね。性能低下は、そこも関係しているわけだが」


 全幅80メートル近くあったそれらが、こちらの装甲艦では5、60メートルほどになっている。

 小型化の代償というものか。とかく日本人は改良、改造が得意な人種だ。入手してさほど時間が経っていないが、すでにその改良型の開発を進めている。


 もっとも、これだけ早いコピーは、魔技研だからこそ可能というのも神明は理解している。海軍の技術部門、民間会社では、部品から作れなかったり、コピーすら困難だったことだろう。


 閑話休題。

 アステールを鹵獲し、日本海軍は空中軍艦ともいうべき艦艇を二隻保有していた。

 それが『北辰』と『妙見』だが、こちらはまだまだ手探り感が強く、実戦では大活躍しているものの、整備にかなり時間がかかる代物となっていた。


「基準排水量1万9000トン。全長205メートル、全幅55メートル。ガワは回収した異世界帝国のプラクス級重巡のものを利用してはいるが中身はほぼオリジナルと言っていい」


 志下は、いつものように淡々と説明した。


「主砲は30.5センチ三連光弾三連装砲二基。12.7センチ連装高角砲六基、誘導魚雷発射管六門、誘導機雷16基、ほか光弾機銃十二基で武装している」


 武装としては、海防戦艦改装の封鎖戦艦と似たような構成だった。クラスで言えば、ドイツのドイッチェラント級に近い。

 遮蔽装置、転移中継装置ならびに魔法陣型転移ゲート、潜水機能、防御障壁ほか各種防御装備などを装備し、エ1式機関での飛行可能。


「君や海軍が求める『シベリア送り戦法』を使用しつつ、しかし壊れないようになっている。ああ、そうそう、見ての通り、艦体の喫水線より下は、通常の船と変わらない。つまり、北辰や妙見と違い、こいつは水上航行が可能ということだ」


 陸上の基地、飛行場ではなく、海上に着水して、通常の船のように停泊ができるということである。


「名前は? もう決まっているのですか?」


 神明は尋ねた。アステール型の利用という点なら、星に纏わる言葉が艦名になっていたが、果たして海軍大臣は、天皇陛下にどのような名前を奏上したのか。


大雷(おおいかづち)型、と命名された」

「雷、ですか」


 これは新しいパターンだった。装甲艦と仮称がつけられたから、新艦種扱いかもしれない。


「君も神話は知っているだろう。この命名は八雷神だよ」


 八雷神――黄泉の国で腐り果てた伊邪那美命の体から生まれた八柱の雷神である。大雷――なるほど、と神明は頷いた。


「そちらの意味でしたか。……となると、もしかしてこの型、八隻作られるのですか?」

「ご名答。今の時点で二隻が使える。二隻が艤装中。残りが慣熟中といったところだ」


 一番艦『大雷』と二番艦『火雷(ほのいかづち)」が使用可能。


「二隻あれば、充分か」


 神明は、小沢から聞いた話から、軍令部のやりたいことが可能な戦力を確保できたと確信した。


「では、使える二隻は、実戦で使わせていただきます」

「そういう話だからね。ただ訓練はしているが、二隻とも初の実戦になる。そのつもりで」


 実戦に戸惑ったり、些細な、あるいは信じられない見落としなどミスが発生する可能性がある、ということだ。

 ミスはいつ、どこで起きるかわからない。それに人員はミスらなくても、機械の方が故障したりする。


 訓練や演習は、その率を下げることができるが、どうあっても初陣ではトラブルが発生するものだ。起きる時は起きる、そういうものである。

 ともあれ、軍令部ご指名の作戦を実行するために、最低限の(ふね)は手に入れた。


「あとは、脇を固めるフネか……」


 まとめて敵を陸地に送るシベリア送り戦法で、敵艦隊全てを巻き込めるのなら問題はないのだが、世の中、そうそう都合よくいかない。

 敵艦隊の陣形や配置、展開具合によっては、魔法陣型転移ゲートの範囲内に収まらない可能性もある。要するに、残敵処理の手段を用意しておくのだ。

 しかし――と志下が口を開いた。


「おれは、あまり前線のことはわからないが、艦隊の大半を転移で飛ばされたら、残る艦は作戦を中断して撤退するのではないかな?」

「常識的に考えれば、そうです」


 神明は頷いた。


「ただ、異世界人のメンタルについては、我々は理解しているとは言い難い」


 日本本土防衛戦において、敵主力艦隊は、旗艦喪失後も、最後の一隻まで戦い抜いた。他の戦域の艦隊は危なくなったら撤退したが、主力艦隊は例外だった。

 思えば、この最後の一隻まで戦うという精神は、これまでの海戦でもしばしば見受けられた。ソロモンでの海戦では、貧弱な武装しかない輸送船団が、こちらの艦隊に突っ込んできたこともあった。


「それに、私はまだ敵の詳細を知りませんが――」


 神明は事務的に告げる。


「敵がゲート艦を同行させていて、艦隊に何かあった場合、追加の戦力を送ってくる、という手も考えられます。艦隊の99パーセントをシベリア送りにできても、安心するのは早い」

「なるほど、その通りだ」


 志下は同意した。


「そうなると……どうなるんだ。敵のゲート艦は重巡クラスだから、砲戦を挑むならそれ以上の艦か。あるいは航空隊を有する空母か」

「潜水巡洋艦改装のゲート艦を、日本本土防衛戦で使っていたようですから、潜水艦も欲しいですね」


 ただ、時間的猶予を考えれば、数を揃えるのは難しいだろう。規模が大きくなれば指揮系統の問題も出てくる。さりとて、少数でも敵を確実に葬れることを考えれば、攻撃力重視の選択となるかもしれない。


「『大和』を使っていいと言われているんですよね」


 神明は思案する。戦艦1、空母1ないし2。マ号潜水艦である伊600海狼、伊700系があれば、残敵処理に充分かもしれない。

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