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第九四六話、地球へやってきた帝国皇帝


「――敵巨大工作艦は、大破。行動不能になりました」


 義勇軍艦隊参謀長、ミッチェル大佐は、上官であるウィリアム・ハルゼー中将に報告した。


「地上に鎮座していますので、実質、撃沈したと言ってもよいかと思います」

「うむ、よくやってくれた」


 ハルゼーは、考え深げな表情だった。

 目標の爆発炎上の第一報を聞いた時は、ワールドシリーズもかくやの熱狂に包まれた司令部だ。


 だがいざ攻撃隊が戻ってきた時、整備員たちの歓迎をよそに、現実を突きつけられた顔になった。

 帰還したのは、F4Uコルセア5機、F6Fヘルキャット5機、Ju87シュトゥーカD-2改3機。


 計13機。31機で出撃し、半分と少々が未帰還となった。その中には、ハルゼーが嫌いな牛乳を、代わりに飲んでいるハンス・ルーデル大尉も含まれている。


「ただ、支援艦隊がパイロットたちを回収してくれました」


 ミッチェルの言葉に、ハルゼーは顔を上げる。


「ルーデル大尉は無事、回収されたとのことです」

「そうか!」


 義勇軍支援部隊こと、新堂 儀一中将の日本艦隊から派遣された虚空特殊輸送機が、敵のテリトリーに墜落した機のパイロット回収を行ったのだ。


「そうかそうか、よくやった!」


 ハルゼーの機嫌が幾分かよくなった。熟練のパイロットは、黄金よりも貴重だ。

 航空機を構成する部品の中で一番高価なのが、時間をかけて育成し、経験を重ねたパイロットである――そう言っていたのは誰だったか。


 ミッチェルは首をひねる。軍隊において、一番金がかかっているのが兵器ではなく、人件費である。そして軍歴が長い軍人ほど、その分お金がかけられるわけで、その生涯において一人の軍人にかけた費用もまた大きくなるのである。

 そんな高価な人材を、おいそれと捨てることなどできるわけがないのだ。


「帰ってきたパイロットたちには、たっぷりアイスを食わせてやれ」


 ハルゼーは言ったが、すぐに表情は曇った。


「ここらで、ドカッと補充が欲しいもんだ。機材は、アメリカから届いているが、パイロットが足りない」

「これまでの戦いで、消耗していますからね」


 ミッチェルもまた憂う。


「エクソダス作戦のためにも、もう少し数が揃えられるといいのですが……」

「日本から無人機は届いていないのか? あれも数合わせで頼りにできたんだが」

「そちらも消耗していますからね。……そもそも日本本土が、異世界帝国の侵攻を受けたことで、余裕がないと思われます」

「あの国は独力で、敵を追い返したというじゃないか。大したもんだ」


 正直、義勇軍艦隊を支援する新堂艦隊が、日本へ引き上げてしまうのではないか、とそれが気になっていたハルゼーである。義勇軍艦隊がルベル世界で戦えるのも、支援部隊のサポート、ゲート防衛のおかげということは万人が認めるところにある。


「とりあえずは、今ある戦力で、エクソダス作戦の成功のために頑張るとしよう」


 ハルゼーは自身に言い聞かせるように告げた。



  ・  ・  ・



 一方、地球、欧州は地中海にて、巨大な人工物が転移してきた。

 それは全長12キロに達する都市戦艦『ウルブス・ムンドゥス』――皇帝座乗艦にして、動く帝都であった。


 クレタ島の転移ゲート近くに、新たに『ウルブス・ムンドゥス』を迎えるための専用スペースを設定し、ようやく現れたそれは、大艦隊を引き連れ、圧倒的な武力、そして物量を見せつけた。

 マルタ島に駐留する紫星艦隊のヴォルク・テシス大将は、クレタ島へ移動し、『ウルブス・ムンドゥス』へ乗艦した。


『テシス大将』

「これは、ササ長官」


 皇帝への拝謁の前にテシスが会ったのは、親衛艦隊長官のササ大将である。

 黒い仮面を被り、その素顔、人種もわからない謎の人物である。長身、かつ男性であるのはわかるが、それ以外のことは経歴を含めて不明。しかし実力によってムンドゥス皇帝に引き立てられ、親衛艦隊長官という、皇帝の片腕ポジションに就いている。


 ――果たして、どこの生まれなのか。


 もっぱらの噂では、ササはムンドゥス人ではないらしい。どこぞの植民世界の人間かもしれないが、今のところ手掛かりはない。


『マダガスカル島は、陥落したという報告が入った』


 ササは淡々と、どこか機械を思わせる声音で言った。テシスは口元を緩める。


「日本軍は、地下のタワーの存在に気づいたのでしょう」


 アヴラタワーが弱点であるムンドゥス帝国人である。日本軍の奇襲にやられないよう、地下に隠していたのだが、それがやられたのだろうと見当をつける。そうでなければ、この短期間で、マダガスカル島が陥ちるとは考えにくい。


『ご名答。その通りだ』


 ササは、どこまでも事務的だった。


『おそらく転移する武器だろう。アングイラを仕留めたのも、おそらくそれだ』


 アングイラ――巨大な異世界ウナギ。ある異世界で生物兵器として作られたものを、ムンドゥス帝国が鹵獲し、転用したものである。


「やられたのですか、アングイラは。並みの攻撃では、そうそう殺すことはできないはずですが」

『だから、おそらく内部から破壊されたのだろうよ』

「日本軍は、手強い」

『同感だ』


 ササは認めた。


『だからこそ、ムンドゥス皇帝陛下は、わざわざ異世界に足を運んだのだ』


 久々に戦争を楽しむ気になったというところか。地球征服軍の司令長官だったサタナス元帥が倒れ、皇帝自ら出陣するにたる相手だと、かのお方は判断されたのだ。


『とはいえ、問題がないわけではない』

「と言いますと?」

『皇帝陛下は、様々な世界に介入され、その力をふるっている。広く浅く』


 戦力が分散してしまっている。仮面で表情こそ見えないが、ササは憂いているようであった。


『帝国の拡大は止まらない。そうであったらよかったのだが、どうにも厄介な世界とぶつかったようで、それが気がかりではある』


 侵攻した世界に、帝国と同等か、それ以上の力を持つ勢力が存在するようだった。


『陛下がこちらに来られる前にわかればよかったのだが……。まあ、今さら言っても仕方あるまい』


 ササは歩を進めた。


『我らは、皇帝陛下のご意思に従うまでだ』

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