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第九四五話、急降下爆撃


 特殊資源回収陸上艦『イーレ・ペティプス』は、ムンドゥス帝国の移動式魔力収集装置であった。

 その用途は、占領地で魔力資源収集用の施設を建造するまでの間の前線収集基地、もしくは施設設営が困難な土地での資源収集活動である。


 ルベル世界において、抵抗勢力と地球勢力によって、魔力資源プラントが立て続けに破壊された。地球世界から連れてきた人間の処理が、まだまだ残っている段階で、施設の不足を補うため、貴重な資源回収艦が派遣されてきたのである。


 全長501メートル、全幅440メートル。特殊資源回収用ということで、その内部は専用の設備と収容区画が主であり、移動はできるが、速度は大したことはなく、武装も、対空戦闘をこなす程度のものしかない。


 一方で、ただの一発で大損害を被らないよう、強固な防御装甲が施されている。ただし、艦内の収容能力を優先した結果、この巨体にもかかわらず、防御シールド発生装置は装備されていない。


 シールド発生装置とそれに付随する設備で、艦内設備と収容能力が圧迫されるのを嫌って、そうなった。あくまで前線近くにいくことはあっても、これで戦闘をするなど考えていなかったのである。

 しかし、実際、敵――地球人からすれば、同胞を資源などにされてはたまらないから、この陸上艦の存在を野放しになどするはずがなかった。


『敵機、防衛ラインに接近! その数、およそ12機』

「護衛艦へ、対空射撃開始!」


 資源回収艦を任されているカステッルム少将は、ただちに命じた。

『イーレ・ペティプス』の周りに展開する四隻の陸上護衛艦が、高角砲による射撃を開始する。


 こちらの陸上護衛艦は、全長111メートル。13センチ対空高角砲八門、8センチ光弾両用砲六門で武装する。『イーレ・ペティプス』の四方を一隻ずつ固め、侵入方向に対応した艦艇が、弾幕を貼る。


「たかだか12機とはいえ、よくもやる」


 移動可能な地形の制約上、どうやら『イーレ・ペティプス』は、地球艦隊航空隊の航続範囲に入ってしまったようだ。

 幸い、敵は少数だったようだが、これで百を超える大編隊であったなら、果たしてどうなっていたことか。


「司令、敵の航空攻撃など、この『イーレ・ペティプス』には通用しますまい」


 先任参謀は、堂々と告げた。


「少数の敵機など、何もできずに追い払うことができるでしょう」

「だと、いいのだがな」


 カステッルムは憮然とした表情でそう返した。


「もっと直掩を増やしたほうがいいんじゃないか? 少数とはいえ、敵に踏み込まれているぞ」



  ・  ・  ・



「あんなバカでかいものが地上を浮いているのか!」


 ハンス・ウルリッヒ・ルーデル大尉は、Ju87シュトゥーカD-2改を操りながら、目の前を横断しつつある巨大艦――イーレ・ペティプスを見やった。


「地球では考えられないな……」


 実際に目にしても、信じられない。

 敵艦から発砲の光と煙が見えた。『イーレ・ペティプス』とその周りの護衛艦が高角砲を放ってきたのだ。

 炸裂した高角砲弾の煙が、ポツポツと赤い空に墨を溶かしたように広がる。


「よく見つけた」

『ブラック・スコードロンへ。こちらブルー・スコードロン』


 先行するF6Fヘルキャットの中隊長から無線が届く。


『敵の対空砲を黙らせる。幸運を(グッドラック)!』


 F6Fがフルスロットルで速度を上げる。低空をかすめるように飛びつつ、敵巨大工作艦へ迫る。

 高角砲に加えて、光弾砲、さらに対空機銃が、ビア樽飛行機であるF6Fへ殺到する。一機のヘルキャットが翼を光弾砲に砕かれ、スピンしながら地面に激突する。


 しかし勇敢なアメリカン・ボーイズは、さらに距離を詰めると、装備していたロケット弾を連続して発射、『イーレ・ペティプス』艦上の対空砲を攻撃した。

 5インチロケットの爆発で光弾砲や高角砲が吹き飛ぶが、艦艇側の猛反撃により、さらに一機のF6Fが胴体を撃ち抜かれ、バラバラになった機体が、『イーレ・ペティプス』の艦上に撒き散らされる。


「ようし、兄弟。突撃だ!」


 ルーデルはシュトゥーカ編隊を上昇させ、急降下爆撃の高度へと機体を持ち上げる。マ式エンジンを装備したスペシャル・シュトゥーカは、あっという間に目標高度まで駆け上がると、一転して急降下にかかった。


 目標は、工作艦中央より後ろにある司令塔の、さらに後方30メートルのところにある艦内動力の排熱口。抵抗勢力の同志が獲得した敵艦の設計図から、ここへピンポイント爆撃ができれば、この巨大艦を一撃で大破、航行不能に追いやられる。


「ふん、マラートの煙突よりはデカいな」


 ルーデルは壮絶な笑みを浮かべる。

 ブルー中隊のF6Fの通過に気をとられていた『イーレ・ペティプス』の対空銃座が、シュトゥーカ編隊に気づいた。

 13センチ高角砲の旋回が始まる一方、より機敏な機銃座からは20ミリの機関銃弾が猛烈な勢いで打ち上げられる。


 ルーデル機を先頭に一本棒のようにその後に続く、シュトゥーカ編隊。急降下特有のGがパイロットの体を締め付ける。照準をつけ、経験と勘を頼りに落下点を予想――そして投下!


 1000キロ爆弾を落とす。直後、機体に震動が走った。


「被弾した!」


 機体の引き起こしのGがかかり、機体は軋み、一瞬ルーデルは意識を失いかける。しかしシュトゥーカは、パイロットが意識を失っても自動で機体を引き起こす機構がついている。


『大尉! 大丈夫ですか!?』


 後続する部下からの声。愛機は水平に戻りつつあるが、機体は地震の中にあるように異常な振動を繰り返している。


「俺は大丈夫だ!」


 しかし機体は駄目そうだが。


「二番機、指揮を引き継げ! まあ、後は帰るだけだが――」

『大尉!!』

「大丈夫大丈夫。ここは陸地だ。海じゃない」


 墜落するのはソ連で何度も経験している。海上に不時着するより、陸上の方なら生還率は高い。


「ガーデルマン、無事か?」

「ええ、やりましたよ。大尉――」


 後部機銃手のガーデルマンは相好を崩した。


「目標に命中です!」


 排熱口に吸い込まれた1000キロ爆弾は、イーレ・ペティプスの重要区画を吹き飛ばし、その蓄えられたエネルギーを解放、大爆発を起こした。そしてその衝撃波が、不時着しようとしたシュトゥーカを後ろから押した。暴れ馬のような動き方をする操縦桿を手でがっちり押さえつつ、ルーデルは叫んだ。


「ガーデルマン、着地姿勢! 落ちるぞ!」


 シュトゥーカは、滑るように赤い大地に墜落した。

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