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第九四四話、巨大工作艦を叩け


「……すると、人間から魔力を搾り取る機械を満載した工作艦が、やってくると?」


 ハンス・ルーデル大尉が言えば、義勇軍艦隊参謀長のミッチェル大佐は頷いた。


「そういうことだ」

「フムン……」


 ルーデルは腕を組んで、唸った。

 義勇軍艦隊旗艦『エンタープライズⅢ』のブリーフィングルームである。突然、飛行隊に招集がかかったかと思えば、パイロットたちは困惑するのである。


 異世界帝国ルベル世界駐留軍と、連日戦いを続ける義勇軍。パーストル軍港の攻略以後も、空に海に活動してきた義勇軍航空隊だが、今回の攻撃対象は――


「陸上戦艦」

「飛行戦艦とも言うかもしれない」


 ミッチェルは、ブリーフィングボードに航空写真を貼り付けたられた『それ』を見やる。

 全長500メートルの巨大な箱のような物体だった。大陸大平原を滑るように移動している時に撮影されたものだ。


「地面から浮いているのだそうだ。だから、接地していない分、足回りが故障とか、そういうのはなさそうだな」


 皮肉なその言葉に、一部のパイロットから引きつった笑いが起きた。


「諸君らも知っての通り、ルベル世界は、何でも機械に任せて、人件費を削減しようという文化が根付いている」


 先ほどよりマシだが、まだまだ乾いた笑いがブリーフィングルームに響いた。


「我々人類をエネルギーに変えるふざけた施設を、我々はいくつか破壊した」

「ざまあみろ。――失礼」

「コホン。――それで、敵は考えた。各地に施設を作るのが金がかかって面倒臭いので、だったら施設を動かせばいい、と」


 工場が来い、だったら行ってやろうじゃねえか――とばかりに、異世界帝国は魔力採集装置を満載した工作移動船を作ったらしい。抵抗勢力の情報部が収集した情報によれば、義勇軍航空隊が破壊した採集施設喪失の穴を埋めるべく送られてきたという。

 なお彼らは、この巨大工作艦の設計図も入手し、義勇軍艦隊に送ってきた。


「我々は、施設を破壊して、同胞がエネルギーに変えられないよう、救出までの時間を稼いでいたが、奴らはそれを無意味にする代物を出してきた。そんなもの、どうするかわかっているな?」

「ぶち壊す!」

「そうだ」


 パイロットたちは手を叩いた。ミッチェルは、パイロットたちを見回した。


「我々も消耗していて、余裕があるとは言えないが、今回の標的は無視できない」


 パイロットたちの表情が引き締まる。その目は使命に燃え、敵を倒し、人類を守るという静かな闘志がこもっていた。


「――よろしい、では作戦を説明する」



  ・  ・  ・



 かくて、義勇軍艦隊空母群より、攻撃隊が飛び立った。

 F4Uコルセア15機、F6Fヘルキャット10機、Ju87シュトゥーカD-2改が6機の計31機だ。


 日々、敵航空隊と交戦する義勇軍航空隊だが、人員喪失、機材の消耗などから、艦隊防空分を差し引くと、その規模はどうしても小さくなってしまう。

 だがパイロットの練度は、このルベル世界を生き抜いてきて、熟練の域に達していた。


「敵はバカでかい工作艦なんだとよ!」


 ルーデル大尉は、Ju87シュトゥーカD-2改のコクピットでエンジン音に負けないくらい声を張り上げた。


「1000キロを叩き込めば、オダブツってやつだ!」

「そんな簡単なものじゃないでしょ」


 後部機銃を担う相棒のガーデルマンが言った。


「聞けば、敵さんは装甲をとても厚くしていて、1000キロ爆弾でも、当たり所によっては貫通できないって話ですよ」


 図体がでかいから、当てるだけなら簡単だが、それで沈まなければ意味がない。相手を一撃で破壊できる場所に、確実に当てる技量が必要だ。


「任せろ、ガーデルマン! オレはマラートの煙突の中に爆弾を叩き込める凄腕だぜ!」


 かつてソ連の戦艦『マラート』を沈めたルーデルである。その神がかった急降下爆撃の腕前は、今回の陸上戦艦攻略の鍵となるだろう。


「そうですよ。どこの世界に、排熱口にピンポイントで爆弾を落とせるというんですか。あなた以外にはいませんよ」

「そういうことだ! ハハッ!」


 31機の攻撃隊は、赤い大地の上を飛行する。ルーデルは思わず呟く。


「アカどもめ」

「何です!?」

「赤は嫌いだ!」


 ルーデルは叫ぶと顔を上げた。赤い空に、キラリと光る機影。敵機!


『こちらレッド・スコードロン。上空より敵機! 頭を取られた!』


 無線機からアメリカ義勇軍のコルセア隊の隊長の声がした。


 ――遅い、遅いよ!


 向かってくるのは、ルベルカラーのヴォンヴィクス戦闘機の編隊。機械のように一糸乱れぬその飛行……おそらく無人機なのだろう。


 コルセア隊が散開。不利を承知で、迎撃に移る。その間にヘルキャットのブルー中隊、ルーデルらシュトゥーカのブラック中隊は、低空を這うように、目標へと突き進む。向かってきたヴォンヴィクスは降下角度を緩めつつ、通過する攻撃隊の後ろに回り込む。


 ダイブアタックを仕掛ければ、引き起こす前に地面に激突である。それだけの低高度を飛ぶルーデルたちを攻撃するには、同じような高さまで降りて追尾攻撃をかけるのがセオリーなのだ。

 だが――


「ガーデルマン、やれ!」


 後部機銃手が敵機へ、機銃弾を叩き込む。日本軍から提供された7.7ミリ光弾機銃が矢継ぎ早に光の弾を放つ。命中精度に優れ、口径の割に威力の大きな光弾機銃。たちまちシュトゥーカ編隊の後部機銃手たちによって敵機は蜂の巣になった。

 だが、撃墜される前にヴォンヴィクス戦闘機が撃った12.7ミリ弾が、一機のシュトゥーカを撃ち抜いた。


『やられた!』

「五番機、煙を引いているぞ!」


 ルーデルは叫ぶ。


「爆弾を捨てて、帰投しろ」

『りょ、了解。申し訳ありません!』

「帰ったら一杯奢れ、以上」


 一機が脱落し、五機となったシュトゥーカ編隊。さらに迫る敵戦闘機だが、コルセア戦闘機がその背後や側面に回り込み、12.7ミリブローニングの嵐を叩き込んた。

 護衛戦闘機が空中戦を展開する中、シュトゥーカとヘルキャット部隊は、目標の工作艦を視界に収めた。

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