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第九三九話、地下アヴラタワーの存在


 マダガスカル島攻略作戦は、日本軍の当初の想定通りには進まなかった。

 海上兵力の封殺については、異世界帝国艦隊が早々に立ち去ったため、イレギュラーな魔物騒動はあったものの、それも解決した。


 問題は、三日で終わると思われた陸上戦闘である。異世界人の泣き所であるアヴラタワーを破壊し、その生存領域を喪失させたはずであった。


 島の多くの場所でそれは見られたが、首都アンタナナリボの防衛部隊は、特に通常と変わることなく――つまり、フルに戦闘力を発揮して、侵攻する日本軍に頑強に抵抗してみせた。


 元より大幅に弱体化した敵を掃討する予定だった、マダガスカル島侵攻部隊は、敵防衛線を前にその兵力の少なさを露呈しつつあった。


「以前から懸念されていたアヴラタワーが残っている件だが、それがアンタナナリボで確認された」


 機動部隊司令長官、小沢 治三郎中将は、旗艦『武尊』の作戦室で告げた。


「こちらも事前に確認されていた塔は破壊したんだがな。どうやら最後の一つは、アンタナナリボの地下にあったらしい」

「地下……」


 青木 武航空参謀が、息を呑んだ。


「それでは、我々が攻撃できなかったのも……」

「うむ、仕方がないところだ。だが」


 小沢は顔をしかめる。


「これを排除しないと、上陸部隊はアンタナナリボを制圧できない。そうなれば、攻略作戦は失敗となろう。神明――」


 司令長官は、神明 龍造参謀長に説明役を振った。


「目標のタワーは、掘り進められた地下空洞内に設置されている。周囲は厚いコンクリート防御が施されているらしく、戦艦級の艦砲射撃を叩き込みたいところだが、内陸ゆえ艦砲の射程外にある」

「空爆ですか?」

「しかし、航空機搭載の爆弾で貫通できるものですか?」


 参謀らが口々に言うが、神明は答えた。


「我々には、頼りになる転移誘導弾がある。これで地面とコンクリート層を抜けて、タワーを直接破壊する」

「またもや、転移誘導弾、ですね」


 皮肉げに青木が苦笑した。


「仕方ない。四式転移誘導弾を持っている部隊が、我々機動部隊のみだ」


 攻略部隊も、海氷飛行場の『日高見』の攻略支援部隊も、対地攻撃がメインということで、転移弾はほとんど配備されていなかったのだ。だからお鉢が回ってきたわけである。


「大丈夫でしょうか?」


 大前参謀副長が首を傾げた。


「我が空母航空隊に、そんな地底目標に対する攻撃をやったことがある者はいないのでは……?」

「心配ない」


 神明は淡々と言った。


「特殊な目標に対する攻撃を決めてきたスペシャリストがいる」



  ・  ・  ・



 潜水空母『鳳翔』は、機動部隊の護衛戦力として今回のマダガスカル島攻略作戦に参加していた。

 予想されるアフリカ沿岸の敵重爆撃機に対策として、哨戒空母『渡島』の暁星艦上攻撃機が基地爆撃をかけると共に、もし敵重爆撃機が、小沢機動部隊に迫るならば、高高度戦闘にも対応できる陣風マ式戦闘機による迎撃を行うよう準備していた。


 が、戦況の推移により、機動部隊司令部は、アンタナナリボ攻撃に、『鳳翔』航空隊を使おうと判断した。


「――というわけで、スペシャリストの出番というわけだ」


 諏訪(すわ)将治(まさはる)中佐は、須賀 義二郎大尉にそう告げた。


「これまで、転移ゲートだったり、レアものを破壊してきた大尉なら、この任務を任せられる、と小沢長官の覚えもめでたくある」

「神明さんのご指名じゃないんですか?」


 須賀は皮肉るのである。そういうレアは目標を向けられた時、大抵あの人が関わっている。その神明 龍造少将は、小沢機動部隊で参謀長をしているから特にそう勘ぐりたくもなる。


「あり得る」


 相棒である正木 妙子中尉は、したり顔になった。神明の伯父は、そういうところがある。

 諏訪は咳払いした。


「それで、任務は了解したか?」

「任務というのは、地下に埋まっているアヴラタワーをぶっ壊すという任務のことでしょうか?」

「そう、その任務だ。やれるな?」

「やれるか?」


 須賀が隣の妙子に尋ねれば、「たぶん」という答えが返ってきた。


「転移誘導弾に問題がなければ、やれるそうです」

「結構。地下目標だが、一応、転移距離についてはこちらで調整はしてある。あそびはあるとはいえ、投下高度と速度には注意しろ」

「了解です」

「了解」


 二人は返事したものの、顔を見合わせ、肩をすくめた。


「どうした? 不満は聞かないが、質問なら聞くぞ?」

「では質問! 地下に隠されているアヴラタワーの場所、どうやって突き止めたんです?」

「陸軍の特殊魔法兵が潜入して、見つけた」


 諏訪は、指先でニンニン、と忍者の真似をしてみせた。上陸部隊でも、敵が活発なのはおかしいと敵地潜入を行ったという。


「その特殊魔法兵のほうで、爆破は……できなかったんですね」

「充分な爆薬がなくてね。仕方ないよ、偵察だもの。――質問は以上か?」

「自分からも。――転移誘導弾を落とすだけなら、何も陣風でなくても、『渡島』には暁星艦攻があります。しこたま転移弾撃ち込める攻撃機があるのに、何で俺たち何です?」

「その転移誘導弾がしこたま残っているわけじゃないからだ」


 諏訪は、さも当然のように答えた。


「使える転移誘導弾は三発だ。となると、誘導成績のいい能力者に任せるのが、一番確実だろう?」


 成績のいい能力者――妙子がニッコリした。実にわかりやすい。


「遮蔽装備あり、転移爆撃装置装備の機体。そしてそれを操る経験豊富なベテラン。うちで揃えられる中で、これ以上はない。まだまだ言おうか?」

「いえ、もう結構です、中佐」


 須賀は頷いた。


「別に任務に不満があるわけではありません。誤解なきよう願います」

「よかった。お互いの意思の疎通はできているようだ。よろしく頼む」


 敬礼。

 須賀と妙子は、格納庫に行き、複座型改造陣風に乗り込んだ。転移格納庫の機能で、飛行甲板に移動。機体のチェックを進め、出撃準備を整える。マ式噴進エンジン『迅雷』二二型が唸りを声を上げ始める。飛行甲板より整備員が退避。


 マ式カタパルト上に移動。陣風、発進――!

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