第九三五話、マダガスカル攻略中
マダガスカル島攻略作戦は進行する。
第一航空艦隊が、主要飛行場を破壊し、制空権の確保を進める中、攻略部隊は上陸作戦を展開。マダガスカル第二の都市であるタマタヴへ上陸した。
一部稼働する沿岸砲台陣地には、攻略部隊の旗艦である戦艦『薩摩』、無人戦艦『ム戦13』『ム戦21』が41センチ砲を、ル型巡洋艦五隻は15.5センチ砲弾を撃ち込んだ。
沿岸砲台は、最初の一発だけを発砲した後は沈黙。やがて日本艦艇からの艦砲射撃によって叩き潰された。
島のアヴラタワーを破壊したため、異世界帝国守備隊の動きは低調だった、現地の防衛を諦めたのか、地方の部隊は首都アンタナナリボを目指して移動、集結を図る。
道路を移動する装甲車や軽戦車だが、空から爆弾を抱えた猛禽が襲いかかった。
五航戦の『大鳳』『翔鶴』『瑞鶴』『飛隼』、七航戦『赤城』『飛龍』『蒼龍』『雲龍』による烈風戦闘爆撃機、流星改艦上攻撃機である。
紫星艦隊撃滅を果たせなかった小沢機動部隊が、攻撃隊を出して攻略作戦を支援したのだ。
ロケット弾や各種爆弾が降り、さらに光弾機銃の掃射によって、移動する異世界帝国陸軍部隊はアンタナナリボに近づく前に撃破されていった。
もともと攻略部隊を支援する空母部隊はあったが、小沢機動部隊の航空隊も、マダガスカル島の制空権確保のために尽力した。
『アンタナナリボの異世界帝国軍は、なお活発に活動中』
敵情を探っていた彩雲からの報告は、機動部隊ほか各部隊に伝えられた。
「アヴラタワーは全て破壊されたんだな?」
小沢 治三郎中将が確認すれば、大前参謀副長は答えた。
「確認されている分は、一航艦が」
「つまり、未確認のアヴラタワーが残っているということか」
どこだ、と呟く小沢。
世界四番目に大きな島であるマダガスカル島である。彩雲艦上偵察機による各地の航空偵察で、敵の動きがない地点に印がつけられているが、首都アンタナナリボ近くとそこへ行く道にはまだ、敵がいる。
「地上に、それらしい構造物はありません」
青木航空参謀は告げた。アヴラタワーは優先攻撃目標であり、真っ先に狙うものだが、現状を見るに、塔が残っている可能性は高い。
「上手く擬装しているのか、あるいは地上ではない可能性も」
「まさか、地下に隠しているというのか」
うーむ、と小沢は腕を組む。
「そうなると、空からでは叩けんか」
敵陸軍部隊が健在となると、マダガスカル攻略に難儀するのが予想される。生命維持装置であるタワーの排除による、敵戦力弱体を図った上での攻略が前提である。アヴラタワーが健在で、敵陸軍が精強であれば、兵力不足で劣勢となるのはこちらの方だ。
「大陸より、敵重爆撃機が飛来! 十四航戦より迎撃機が発艦!」
報告が入る。アフリカ大陸に近いマダガスカル島である。アフリカは異世界帝国のテリトリーであり、重爆撃機が長駆やってくるのは、当然であった。
故に攻略部隊には、高高度戦闘機である青電艦上迎撃機を積んだ『祥鳳』『瑞鳳』が加えられていた。
また日高見にも、白電、震電といった高高度迎撃機があり、高高度からの敵に対しても充分な対策がとられている。
「しかし、現れませんな」
大前は、神明参謀長に言った。
「紫の艦隊は、完全撤退をしてしまったのでしょうか?」
「何か伏兵でも仕込んで逆襲してくるかもしれないと思っていたが……」
神明もまた考える。
「あるいは、いつ攻撃してくるか迷わせるために、敢えて仕掛けてこない可能性もある」
「つまり、潜水艦みたいなものですな」
いると思わせるだけで、こちらの神経をすり減らすことができる存在。攻撃を仕掛けてこなくても、『あの』紫の艦隊が何もしてこないはずがない、という思い込みで、勝手に日本側が消耗するという策かもしれない。
「永野軍令部総長ではないが、早々にあれを叩ければ、少しは安心できるのだが」
機動部隊は、マダガスカル島攻略の支援をしつつ、紫星艦隊が現れた時に対処できるよう、島を離れることができずにいる。
「神明さん。仮に紫の艦隊が、こちらに戻ってこないとしたら……今どこにいると思います?」
大前が、作戦から少し外れたことを聞いてきた。参謀長呼びではないところから、雑談寄りなのだろう。
「アフリカはケープタウン、リチャーズベイ……」
「ここから近いですな」
「ダカール、ジブラルタル、地中海、イギリス、バルト海、黒海――」
適当に、異世界帝国のテリトリーを挙げていく。T艦隊で行動していた時、いくつか叩いた場所もあるが、そこがどこまで復旧しているかはわからない。あるいは、地方ということで放置され、まだ攻撃されていない場所に、兵力を集中させたり、あるいは紫星艦隊が逃げ込んでいるかもしれない。
「ゲートが近い地中海か、それか、これまでほとんど攻撃を受けていないイギリスかもしれないな」
異世界ゲートがある地中海。あの辺りは、転移ブイを用いて何度か作戦を実施したが、陸上に飛行場があって、基本敵の勢力圏である。
イギリスはといえば、何といってもロイヤルネイビーの軍港施設が充実しているから、修理はもちろん、まとまった数の駐留に向いている。
大前は口を開いた。
「今、この時にでも各国の敵軍港を偵察できればいいのですが」
そこで紫星艦隊を見つけられたら、マダガスカル島近海を遊弋している小沢機動部隊も、一定の警戒レベルを下げることができる。
もちろん無警戒とはいかないが、少なくとも敵精鋭が飛び込んでくるかも、と極度な緊張で兵を消耗させることはなくなる。
「神明」
「はい、長官」
小沢の呼びかけに、神明と大前は背筋を伸ばした。
「ちょっと軍令部の第三部に行って、その辺り、情報がないか確認してこい。一応、我が機動部隊の任務は、あの紫の艦隊の撃滅だったわけだからな。優先順位の問題で、何か指示が出るかもしれない」
どうやら小沢も、紫星艦隊の行方とその撃滅を優先したいというのが本心のようだった。
現状、大西中将の第一航空艦隊が、マダガスカル島攻略の支援を行っていて、小沢機動部隊が警戒のために留まっているのは、使い方としては少々もったいないと感じていたのだ。
「承知しました」
神明が頷いた時、山野井情報参謀が駆け込んできた。
「長官、攻略部隊から緊急通信です! 正体不明物体が、部隊に接近中とのことです!」
「?」
小沢をはじめ、司令部全員の頭に疑問符が浮かぶ。
「正体不明物体……? 何だそれは?」
異世界帝国の新兵器か何かか?