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第九三四話、炎上、マダガスカル


 その襲撃は、小沢機動部隊から飛び立った奇襲攻撃隊だった。

 第六航空戦隊の空母『紅鳳』『神鳳』『星鳳』『雷鳳』、第八航空戦隊『幡龍』『白鳳』『蒼鳳』から発艦した第一次攻撃隊。


 その数241機は、タマタヴ上空に進出していた彩雲改二偵察機14機の転移爆撃装置を利用し、長躯転移移動した。


 本来の計画、つまり連合艦隊司令部の作成した作戦案では、敵の海中魚雷発射塔を、潜水艦部隊が破壊し、その警戒網を破った直後に、機動部隊を転移突入させ、攻撃隊を発進させるということになっていた。


 が、実行部隊の指揮官である小沢 治三郎中将と神明 龍造参謀長は、連合艦隊案では、目的の紫星艦隊に逃げられると懸念した。

 敵は警戒網を突破された第一報の時点で防衛態勢を強化し、奇襲にはなり得ない。そこで機動部隊側の作戦は、敵の警戒網の外より艦載機を発進させ、彩雲の転移爆撃装置を用いて、直接攻撃隊を送り込もうというものだった。


 日本軍艦載機の航続範囲を計算して、そこに空母が入れば攻撃できるようにしていた異世界帝国軍の、その想定より遠方からアウトレンジ発進を行う。

 そして何より、転移と遮蔽を活用した奇襲攻撃隊を、何の通報もされていない状態で叩き込む。

 これが決まれば、紫星艦隊は何もできないまま先制され、そのまま大損害を被る。


 機動部隊からの作戦案を連合艦隊司令部も承認し、そのように作戦は展開した。敵の警戒網に移動し、そこで攻撃隊を放てた時、小沢は勝利を確信したくらいだった。


 しかし、完全なる奇襲は、紫星艦隊のヴォルク・テシス大将の想定の範囲内だった。彼は、遮蔽航空隊が放った誘導弾が、対空レーダーに反応した瞬間、日本軍の奇襲と即断し、予め決めていた通り、転移で戦線を離脱した。


 結果、第一次攻撃隊の奇襲は、空振りに終わった。放たれた大型誘導弾は、空しくタマタヴの海に突っ込み、水柱を突き上げるだけに終わった。


『敵艦隊、転移ゲートにより退避の模様!』


 攻撃隊の誘導役にして、観測を行っていた彩雲からの報告は、機動部隊旗艦『武尊』の高いマストが捉え、小沢に伝えた。


「逃げられた、だと!?」


 信じられないという面持ちになる小沢である。


「馬鹿な! 完璧だったはずだ! まさか、敵は遮蔽を見破る装置を完成させたというのか!?」

「可能性はありますが」


 神明参謀長は、落ち着いた調子で言った。


「こちらの奇襲攻撃に対して、警戒していたのだと思います。攻撃を察知した瞬間に、転移ゲートを使うように、予め備えていたのかと」


 敵は備えている――小沢もその点は予想していた。だが敵に察知される可能性をギリギリまで排して、これ以上削るところがないほど迅速な襲撃だったはずだ。

 予め対応を決めていた……。確かにそうでなければ、指揮官が報告を受け取り、判断し、命令を発するわずかな間に、攻撃は直撃していただろう。


 攻撃、と聞いた時点で転移を命じるなど、普通はできない。位置、数などの敵情、そして攻撃が何なのか情報を得てからでなければ、適切な回避指示は出せないのだから。


「どんな攻撃だったとしても、敵は退避を決めていた」


 たとえば米海軍の偵察機がよくやる、鳥のフン――偵察ついでの爆撃など、たかだか一発の爆弾だったとしても、敵はゲートで艦隊ごと退避していたかもしれない。


「随分と大胆な判断をしていたものだ、敵の指揮官は」

「おそらく、相手が我々日本軍だからこそ、そう決めていたかもしれません」


 日本軍の戦術において、奇襲をやる時は、それを察知されないように細心の注意を払い、いざ仕掛ける時に最大の戦果をあげられるように一気に行う。

 事前に中途半端な攻撃をして本命をやりづらくするようなことはしないだろうと、敵指揮官は考えたのだろう。

 小沢は不機嫌そのものという顔である。必殺に等しい攻撃を、まさか躱されると思っていなかった。


「哨戒空母ならびに、各空母偵察隊、マダガスカル島近海への索敵行動を開始。転移した敵を警戒せよ」


 一時的な転移退避だった場合、マダガスカル島に接近しつつある攻略部隊や、その支援部隊へ反撃を仕掛けてくる可能性もある。


「まあ、浮きドックと修理艦艇を抱えておるのだ。おそらくどこか遠方の友軍拠点へ逃げただろうがな」

「おそらくは」


 神明は同意した。


「気掛かりは、敵の置き土産です」

「うむ。こちらの奇襲に備えていた紫の艦隊だ。ただ逃げて終わりとも思えん」


 小沢は、巡洋戦艦『武尊』の艦橋からインド洋を見やる。その見つめる先には、ここからは見えないがマダガスカル島がある。



  ・  ・  ・



 機動部隊が攻撃隊で、紫星艦隊へ攻撃を開始した頃、攻略支援部隊もまた動き出していた。

 第十七潜水戦隊のマ号潜水艦部隊は、所定の海中魚雷発射塔へ攻撃を開始。潜水艦ほか、水上船舶を攻撃してくる海中トラップに対して魚雷を放った。


 静粛性に優れる特マ潜は、敵ソナーを回避し、海中塔を破壊。その攻撃能力を喪失させて、進入路を形成する。

 それと同時に、海氷飛行場『日高見』より、第一航空艦隊の航空隊が、マダガスカル島の主要飛行場とアヴラタワー、レーダー施設へ向けて、飛び立った。


 第一次攻撃隊は遮蔽航空機で構成され、異世界人の急所であるアヴラータ金属の巨塔を転移誘導弾で破壊。レーダー施設を叩き、その索敵機能を減らし、さらに飛行場へ空爆を行った。


 銀河や一式陸上攻撃機改といった双発爆撃機や、火山重爆撃機による攻撃が敵の基地建造物に爆弾を叩きつけ、吹き飛ばす。

 だが、異世界帝国側も、その対応は早かった。所在が明らかであるアヴラタワーは、問題なく破壊できた。


 しかし飛行場では、即応のスクリキ無人戦闘機が、多数飛び上がり、日本軍航空隊の迎撃に上がった。

 タマタヴ軍港から転移離脱をした紫星艦隊のように、守備隊もまた、日本軍の襲撃に備えていた。


 アヴラタワー破壊による混乱の隙を、無人戦闘機を展開することで埋める。避難や生命維持装備の装着の時間を稼ぐスクリキ無人戦闘機。


 結果、遮蔽可能な戦闘機を伴っていなかった一航艦の第一次攻撃隊は、地上施設への追い打ちをかけることができず、極めて中途半端な結果となった。

 だが一航艦も、それで引き下がることはない。大西 瀧治郎中将は、間髪入れず第二次攻撃隊を送り出していた。


 数の上ではこちらが主力。敵レーダー施設を爆撃したことで、遮蔽できない航空隊でもその接近を察知するのが難しくなっているこの状況。攻撃隊には業風や暴風といった戦闘機がついており、これらは飛行場の空を守るスクリキ無人戦闘機へと挑みかかる。


 12.7ミリ機銃が飛び交い、直撃を受けた機が墜落していく。戦闘機隊が血路を開く間に、陸上攻撃機や急降下爆撃機が飛行場を破壊する。

 マダガスカル島の制空権を確保するべく一航艦が奮闘する中、上陸部隊を伴う攻略部隊が、島へと近づきつつあった。

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