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第九三一話、海中塔


 特マ潜水隊は、マダガスカル島周りの海底に、異世界帝国が建造したと思われる小規模施設を発見した。

 これが、マダガスカルに近づく潜水艦などを攻撃したに違いない。伊701の報告は、僚艦にも伝えられ、さらなる探索活動が行われた。

 その結果、敵の正体を判断する材料が揃ってきた。


「水中自動砲台……」


 第一機動艦隊司令長官、小沢 治三郎中将は、持たされた資料に目を細めた。参謀長の神明 龍造少将は口を開く。


「実際のところは、魚雷発射塔というところが正確のようですが」


 海底に設置されたそれは、索敵装置に反応があれば、それに対して誘導魚雷を発射するように出来ていた。


「特マ潜がちょっかいを掛けたところによれば、聴音機が捉えた潜水艦や水上航行艦艇に対して攻撃を仕掛けるもののようです」

「水上もか」

「厄介なのは、この海中魚雷発射塔が、広範囲に設置されているということです。艦隊が島に近づけば、当然、海中から攻撃してきます」


 空母部隊で、マダガスカル島に接近して攻撃隊を放つ――その最中に、敵は魚雷を放ってくる。


「異世界人らしからぬ厳重な防衛網ということか」

「はい。彼らは、マダガスカル島を一大要塞に作り替えようとしているのかもしれません」


 後方基地は手抜きの異世界帝国が、防衛力強化を打ち出しているというのは、それだけマダガスカル島を重要拠点と見ているということだろう。

 南極拠点をはじめ、日本の反撃で異世界帝国軍の勢力を失いつつあるため、よりマダガスカル島の重要度が増しているのかもしれない。


 もっとも、特マ潜隊が確認してまわっているところによれば、敵が海底に施設を設置しているのは、かなり前からのようで、昨日今日に増強したものではないもののようだった。


「この海底のケーブルというのは?」

「ケーブルの先は、索敵装置でした」


 敵が超長距離雷撃を仕掛けてこれたのも、なんてことはない。新型の索敵装置ではなく、攻撃地点よりかなり前に聴音装置を設置して、通過する船舶を捕捉していただけであった。


 ケーブルを通して、侵入した艦船の位置を確認し、長距離誘導魚雷を発射する。それがこちらの索敵範囲外からのアウトレンジ攻撃の真相だった。


「誰がつけたか知りませんが、ケーブルが八つあることから、タコ、オクトパスなどと連合艦隊司令部では呼んでいるとか」

「ケーブルに繋がった索敵装置を、タコの足に見立てたわけか。なるほどな」


 小沢は苦笑した。


「ともあれ、この索敵装置を破壊するなり、ケーブルを切断すれば、このタコ装置も遠距離から魚雷を撃ってこないというわけだな」


 突破口はそこか、と小沢は呟いた。


「糸口は掴めそうだが、連合艦隊司令部はどう動くだろうか?」

「オクトパスの一角に穴を開けて、そこから我々機動艦隊を突っ込ませるつもりのようです」


 まだ正式に作戦は決まっていないが、機動艦隊司令部を訪れた首席参謀と作戦参謀を相手に、神明は大前参謀副長と参謀級会談で打ち合わせをやっている。


「敵の警戒網に穴を開けた段階で、マダガスカル島の敵司令部にもこちらの襲撃が伝わるでしょうから、間髪を入れず、こちらも攻撃隊を突入させ、敵司令部と軍港施設、そこに駐留しているだろう敵艦隊を叩く……まあ、そんな感じです」

「敵の艦隊は、まだ駐留しているのか?」


 小沢は指摘した。


「あの紫の艦隊の母港ではあるが、連中もこちらがマダガスカル島周辺をうろついて探っていることに気づいているはずだ。その状況で、艦隊を港に留めておくだろうか?」

「第七艦隊の彩雲による航空偵察によれば、まだタマタヴから動いていないようで、浮きドックには例の旗艦級戦艦も確認されています」


 そもそものきっかけが紫の艦隊――紫星艦隊の撃滅にあることを考えれば、それがまだマダガスカル島にいることは重要だった。


「個人的な考えなのですが、よろしいですか?」


 神明が言えば、小沢はコクリと頷いた。


「言ってみろ」

「私も、長官の考えの通り、紫の艦隊はこちらの攻撃を想定し、さらにその警戒の度合いを高めていると考えます。故に動きがないことがかえって怪しい……」

「つまり」

「襲撃の兆候を感じた瞬間、ゲートで転移退避するか、あるいは表に見えているものが、張りぼての囮の可能性もあるかと」


 その意見に対して、小沢は同意するように頭を小刻みに上下させた。


「つまり、本物の紫の艦隊は、すでに別の場所にいるかもしれない」

「タマタヴにいる可能性も捨てきれない。特にあの旗艦級戦艦が浮きドックにいるというのがミソです。あれは、魔法陣型転移ゲートで、そのまま転移させられますから」


 通常のドックであったなら転移の識別上怪しいが、洋上にある浮きドックであれば、船舶対象で転移できる。


「これがそこらの異世界帝国の艦隊であったなら、奇襲攻撃できればこちらの勝ちでしたが、あの紫の艦隊に限れば――」

「こちらの奇襲を読んで、囮を使うこともあり得る」


 インド洋大決戦でも、エレウテリアー島を転移で旗艦級戦艦を含む紫星艦隊にぶつけた。だがやられたと見せかけて、その本隊は健在。山本長官の第一艦隊と死闘を演じた。


 先の日本本土防衛戦においても、若狭湾に現れた紫星艦隊に、切り札である海氷島をぶつけたが、これも対策されてしまっていた。


「警戒し過ぎると、思われるかもしれませんが……」

「いや、あの艦隊に対しては、用心に用心を重ねても悪いことはあるまい。こちらがマダガスカル島を攻撃した時、横から噛みついてくるくらいのことはする。それが紫の艦隊だ」


 小沢は腕を組んで、天井を睨んだ。


「しかし、我々の考えは、あくまで推測だ。証拠はない以上、そこに紫の戦艦が存在する限り、マダガスカル島攻撃作戦は実行されることになるだろう」


 永野軍令部総長が言い出した以上、軍令部はやれと言い、連合艦隊司令部もそれに乗った。確たる証拠もなしに、怪しいからと作戦を中止にすることはできない。


「考えれば考えるほど、むしろ罠の気がしてくるのですが」

「あからさま過ぎて、疑い深くなっている気がしないでもない。心理戦だな」


 小沢は目を伏せる。どうにも嫌な予感が拭えない。


「罠の可能性を考えるなら、連中がどんな罠を仕掛けるか。それを予想できれば、こちらも対応できるのではないか」


 それでなくても、逆に襲撃される可能性を考えて動くだけでも、初動に差が出るだろう。小沢の言葉に、神明は頷いた。

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