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第九三〇話、マダガスカル近海海底より


 連合艦隊の特命を受けて、第七十潜水隊はインド洋、マダガスカル島に派遣された。


『伊600』、『伊701』、『伊702』は、転移巡洋艦に改装された軽巡洋艦『能代』の支援のもと、海域に潜む敵の捜索を行った。

 畝傍こと『伊701』は、単独航行で、海中を進む。


「間もなく、攻撃遭遇地点です」


 航海士官の報告を受けて、早見 明子潜水艦長は頷いた。


「索敵、注意深く。何者も見逃すな。まず来るのは敵の魚雷だ」


 発令所の空気が引き締まる。早見が時計を確認しようとした時、それはきた。


「マ式ソナーに反応あり! 前方下方より、接近するものあり!」

「魚雷か!?」

「……はい! 速度40ノット! 本数1!」

「トリム下げ! 接近する敵魚雷に艦首を向けろ! 衝撃波発生機、用意!」


 海中での、敵魚雷の迎撃にかかる。伊701には、四基の水中衝撃波発生機が装備されている。

 防御障壁では貫通される恐れが高いため、衝撃波をぶつけて魚雷を破壊するか、転移で逃れるしか回避の術はない。


 接近する敵魚雷。それに対して正面から向かっていく伊701。緊張の時間が過ぎていく。迎撃に失敗すれば、冷たい海に放り出され、潰される。

 マ式ソナーによって浮かび上がる標的との距離を図りつつ、早見は命じた。


「艦首衝撃波、撃て(てぇ)!」


 伊701から水中衝撃波が放たれる。直進してくる敵魚雷を爆発に等しい衝撃波が襲い、そして爆発させた。


 聴音手はヘッドホンを外して、爆発の音から耳を守る。その間、マ式ソナーによる投影画像を確認し、警戒と索敵を行うが、爆発によって発生した気泡がわずかにその視界を遮る。


「スクリュー音を消せ」


 早見は指示を飛ばす。静粛性が自慢の伊701だが、敵が早々に仕掛けてこられるよう、標準的な伊号潜と同じ音を出して航行していた。その擬装を捨てることで、敵に対して撃沈と錯覚させるのだ。


 辺りが静かになり、しばし沈黙が潜水艦内を満たす。

 早見は辛抱強く、『次』を待った。彼女が信奉する神明 龍造少将に事前に助言を頂き、それに従っているのだ。


 発令所はやがて、その沈黙に耐えられなくなり、そわそわし始める。我らが早見艦長は、何を待っているのか、と。

 最初の攻撃以来、何も起こらない。


「反応なし。何もなし、です、艦長」


 宮川砲雷長が振り返った。


「動きますか?」

「もう少し待て」


 早見は微動だにしない。


「宮川砲雷長、敵が我々を捕捉している。そうだな?」

「ええ、こちらに誘導魚雷を撃ち込んできましたから、そうなんでしょう。……何です?」

「何故、二発目がこない?」

「二発目……ええ、そうです。確かに来ませんね、敵の攻撃」

「こちらがスクリュー音を切って、停船したからではないですか?」


 操舵手である東山中尉が口を開いた。


「こちらを撃沈したと判断したのでは?」

「その仮説でいくと、敵は我々のマ式ソナーのように『見えているわけではない』ということだな?」


 早見の言葉に、東山は上を向く。


「そう……なりますね。『見えて』いるなら、本艦が健在なのはわかるはずですし」

「敵は優秀な耳を持っているということですか」


 宮川は言った。


「新型の聴音機を使っているとか」

「では試してみよう。低速航行。推進音は抑えて、下降しつつ前進」


 伊701は、本来の持ち味である高速航行を殺し、ゆっくりと潜行する。


「マ式ソナー、反応なし。敵が移動したのならともかく、どこから魚雷を撃ってきたのか……」


 宮川が呆れる。魚雷の射線に沿って移動している特マ潜である。距離も詰めているはずだから、敵の姿をそろそろ捕捉してもおかしくはない。だが、事実としてまだ、その敵を発見できない。

 これは想定よりもさらに遠方から魚雷を撃ってきたことを意味する。


「海底を確認。これ以上は潜れません。……宮川砲雷長、よろしいですか?」


 マ式ソナーを見ていた水測士が、同じくマ式ソナーを見ている宮川に確認する。


「海底にケーブルらしきもの。見えますか? 前方――」

「……見える。通信用の有線? わっ」


 後ろから艦長の早見が覗き込んできたので、吃驚する宮川である。


「異世界帝国の敷設したものか?」

「ええと、どうでしょう? たぶん、そうじゃないかな、と」


 軍隊であったなら、叱責ものの返答だが、それで早見が叱ることはなかった。


「東山中尉、ケーブルを辿れ」

「りょーかいです!」


 伊701は、ゆっくりと海底のケーブルの上を這うように移動する。やがて、水測士が声を上げた。


「前方5000に、人工構造物!」


 マ式ソナーによって浮かび上がるその姿。海底に八角形の土台とその中央から塔のようなものが建っている。なおケーブルは、土台部分に繋がっていた。


「何かの採掘基地ですか?」

「わからんが、異世界帝国のものに間違いはなさそうだ」


 これまでの異世界人の建築物に類似点を見いだし、そう予想する。


「反応を見る。擬装スクリュー、目いっぱい聞かせてやれ」


 先ほど魚雷が撃たれた時と同レベルの音を伊701は発する。すると、塔がわずかに回転すると、その一部から何かを切り離した。


「高速推進音! 魚雷1、接近!」

「見たな、宮川砲雷長?」

「見ました。あの施設、魚雷を発射しました!」

「転移退避。敵は潜水艦ではない。海底施設だったのだ」


 早見は長居は無用と、撤退を命じた。敵の正体、もしくはその手掛かりを掴んだので、まずは報告である。情報を持ち帰ってこその偵察。深追いしてやられては、偵察の意味がない。

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